第3話 ブヒるオーク

「何…?それはどういう意味だ?」

 

 どうやらこちらの質問の意味を図りかねている様子。言葉以上の意味は無いんですけどね。


「さっきも言っただろう。同じ騎士団の上司と部下。ただそれだけだ」


「本当にそうか?それにしてはお互い必死になって守っているように見えたが。それに『お姉様』というのは?姉妹にしては似ていないようだが」


 ぐっ、と痛いところを突かれたというように口をつぐむリリアナ。どうやら必要以上の情報を話したくないようですね。こちらとしてはその辺の詳細が知りたいのですが…。


「お姉様、というのは訓練生時代の呼び名です。私たちの訓練学校では、親しい先輩後輩がお互いを姉妹として呼び合うのが伝統でして…」


「お、おい、ルカ!そんなこと話さなくていい!」


 見かねたルカが代わりに説明してくれました。リリアナは慌てた様子でルカの言葉を遮ろうとしていますが…。そんなことよりも!


(姉妹宣言だと!?)


「そ、そこのところもっと詳しく!」


「何を言ってるんだ貴様!?」


 ええい邪魔をしないでください!学校×先輩後輩×姉妹関係。それはもう破壊力でしょうが…!


「え、えと…姉妹として強固な絆を結んで共に過ごすことで、過酷な訓練にも耐え抜くことができるようになるって言われてまして…それで私たちも姉妹関係を結んでいたんです」


 こちらの予想以上の食いつきに若干引きながらもルカは答えてくれました。そうか…。姉妹関係で学校生活…。何も起きないはずもなく…。


「な、馴れ初めは?馴れ初めはどうだったんだ?」


「いい加減にしろ!関係ないだろそんなことは!」


 テーブルを叩いて立ち上がるリリアナ。どうやら思わぬ方向から情報を引き出されて焦っているようです。


「言っただろう。君たちの身の上を知りたいと。君たちがどんな存在か知らなければこちらとしてもどう対処すればいいのか判断できない。それでも知られたくないというなら、敵として排除するまでだが」


「な…っ」


 こちらの脅しに目を見開くリリアナ。多少強引ではありますが、そうでもしないと彼女とはまともに話し合いなど不可能でしょう。こちらも初めての生の百合エピソードで余裕がないのです…!


「お姉様、ここは彼の言葉に従いましょう。関係ない話ならその方がいいじゃありませんか。いくら話しても王国を裏切ったことにはなりません」


「く…っ」


 ルカの諭すような言葉に席につき直すリリアナ。どうやら彼女の言葉に納得したようですね。さあ続きを聞かせてもらいましょうか。


「お姉様との最初の出会いは私の入学式の日です。校内を迷っていた私を見かねたお姉様が、手を取って案内してくれたのです」


「ほう…。なるほど」


「お姉様は昔も鋭い眼差しをお持ちの方だったので、正直最初は怖い、と思ったのですが…。私を安心させるために、優しい口調で話してくださるお姉様にすぐに考えを改めました。そのときに握ってくださった手の暖かさは今でも覚えています」


「ふむ…。ああ、これは湯冷ましだ。長くなるだろうから飲みながら話そう」


「いらん」


「次に会ったのは鍛錬場です。上級生の剣術の模擬試合を見学していたのですが、そこで偶然お姉様の試合を見ることができたのです。お姉様の剣技は上級生の中でも頭一つ抜けていて、その太刀筋の美しさに思わず見惚れてしまいました」


「そうか…。これも食べるといい。支給の焼き菓子だ。補給部隊長に融通を利かせてもらったものだから上物だぞ」


「出さんでいい」


「その後、上級生との懇談会でまた偶然再会しまして。そこで意気投合して、それからよく話をしたり一緒に食事をするようになったんです。そんな日々の中で私たちはどんどん親交を深めて…。気が付いたら姉妹関係を結んでいました」


「おお…。シロップ漬けの缶詰も開けよう…」


「さっきから何なんだ貴様!気持ちの悪いニヤケ面をしおって!」


 何やらリリアナが叫んでいますが、百合エピソードを聞けて満足な私には関係の無いことです。尊い尊い…。


「それからの学校生活、騎士団での日々は、嫌なこと苦しいことがたくさんありましたが、隣にお姉様がいてくれるだけでつらくは感じませんでした。たまに、優秀なお姉様の姉妹が私なんかでいいのか、なんて悩んだこともありましたが…。でも、お姉様も周りからの重圧に苦しんでいることを知って、その支えに私がなれているということに気づいて…。私はお姉様と対等なんだって思うことができるようになりました」


 そう言いながら隣のリリアナを見るルカ。その目は親愛の情に溢れていました。ルカの眼差しにリリアナも少し顔を赤らめながら目を逸らしました。


(うおおおーーっ!恥じらい顔頂きました!ヒャッホーーッ!)


「私はこれからもお姉様の隣で支え続けます。妹として」


「…私も同じ気持ちだよ。ルカ」


(ブヒイイイイイイーーーーッ)


 見つめ合いながら告白し合う2人。まさかこんな所で善き百合と出会えようとは…。今日という日に神へ感謝を…。

 ほぼ昇天している私をよそに、はっと気を引き締め直すリリアナ。もう少し見つめ合ったままでも良かったのですが。


「こ、こんなところでいいだろう。ちゃんとお前の質問には答えたぞ」


「ああ…。君たちのことはよく分かったよ…。満足だ…」


「これで何が分かったと言うのだ…」


 憮然とした表情のリリアナ。こちらを見る目はさらに不審そうになっています。まあ、我ながら今の自分はかなり気持ち悪いとは思ってはいますが。


「それで?私たちの処遇はどうなるんだ」


「ああ、そうだな。人間の領地ギリギリのところまで送り届けよう。それまで身の安全は保障する」


「何?本当か?」


 こちらの破格の提案に半信半疑のようですね。しかし、これだけ良い話を聞かせてもらった以上、こちらもそれ相応の礼をするのは当然です。


「ああ、約束しよう。さっそく行こうか」


 私は彼女たちを護送するため、部下たちに指示を――


「待ってください隊長。正気ですか?」


 出そうとして部下に止められました。あれ…?




 


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