122話 龍星群と極旨カレー
薄闇の空の果てに、ゆっくりと日の出が輝き始めた頃。
宴もたけなわとなった時間に、それは宙に軌跡を走らせ始めた。
「ワァオッ、今日は【星が降る日】でーっすね! 新しく芽吹く龍と、自然に
エルフ姫みどりが言うように、【
自然現象となる、それこそが龍の生態であり、俺たちは圧巻の【
星々の軌跡、龍星は虹色の涙をこぼしたかのように線を引く。
それらは幾筋も朝空を飾り、そのまま激しい稲光として変成を遂げたり、はたまた暴風として掻き消えたりする。
その光景は息を呑む程に美しく、神秘的で、とても恐ろしかった。
「肉体を捨てる龍もいるでーっす。そういえば【手首きるる】が、白マント様は龍肉を欲すると言ってたでっす。無駄にしないよう、あげるでっす」
「なんと。それはありがたい」
どうやらきるるんが、【
「なので【龍咲き】と【龍星群】が、この朝焼けを
「まっかせてくださーい! 社長っさーん!」
「熊神さん、でしたっけ? そちらも先ほどの条件でいいわね?」
きるるんとエルフ姫みどりが乗り気の中、
「まあ……私的にはそれしかないかなって。その、お礼は言っておきます。ありがとう」
「こちらこそ、いいお付き合いができそうで嬉しいわ」
きるるんとエルフ姫みどり、そして
その内容は数十頭にもおよぶ【
◇
『ハァーイ! みなさんオハヨウゴザイマス! 【
大炎上中の【聖剣】と謎の【変態白マント】によって、カオス配信を行った【エルフ姫みどり】は良くも悪くも注目されていた。
そんな彼女が大した時間も空けずに配信となれば、世間の注目は再びエルフ姫へと集まった。
しかも今回の『争う』相手が今をときめく【にじらいぶ】となればなおさらだ。
『なんとなーんとッ、今度は【にじらいぶ】が襲撃してきたのでーっす! なので緊急で配信してまっす!』
エルフ姫を見下ろすは、竜の背に乗った炎髪と銀髪の美少女二人だった。
『きみの手綱もきるるんるーん☆ 手首きるるだよー♪』
『にゅにゅーっと登場☆ ぎんにゅうです!』
:え、まじで大物が出張ってきてるやんww
:殿下モテモテwww
:無断で撮られてると悟るや、すぐ名乗るあたり【にじらいぶ】は配信者の鑑でうけるww
:にしても今度は騎竜ライバーか
:いや、たしか魔法少女VTuberだったような?
:美少女たちがドラゴンに乗って空を駆けるのは確かに強者感あるなww
:手強そうだな
:そういえば変態白マントはどこいった?
『白マントメェ~ンの説得にも応じず、【
『ピヨちゃん! 一緒に戦うです!』
『ハァーイ、
【手首きるる】が乗る赤竜は幼竜とはいえ、象ほどの巨体を活かし、群がる【
そして【ぎんにゅう】を乗せた白銀の竜は、一軒家ほどの巨大さを誇り、翼のはばたきだけで【
『約束の地を勝ち取るくまっ!』
『熊神様が与えてくれた試練くまっ!』
『痛いくまっ! あっひいいいきもちいくまああ!』
時たま妙な嬌声を上げつつも、【
『くっ……さすがはエルフ姫……私たちが守りたい【
『ピヨちゃんっ、ダメです! そこで炎を吐いたら、くまっこちゃんたちが大火傷しちゃうです』
【
自分たちに苦難が訪れると創造神が現れ、自分たちを約束の地へと導くという予言を信じている。
今回の
なにせ、今後はドラゴン牧場にて『竜の戦闘訓練』の練習相手としての立場を確立できるし、そもそも『天秤樹の森』付近には狩るべきモンスターが大量にいる。
それも熊神様こと
実際は全てを円満かつ有効活用できる【手首きるる】の手腕の賜物ではあるが。
そんなやらせ配信の実情なんて【エルフ姫みどり】のリスナーたちはつゆ知らず、大盛り上がりだ。
:やっぱドラゴンかっけえなあ
:しかしデカいぞデカすぎる
:もっとくまっこたちを追い込め!
:ひいひい言わせろおおお!
:奴隷娘たちでドラゴンを倒すぞ!
:メス熊を酷使しろ!
:白マントはもういないんか
そして相手は幼竜と言っても、生物の頂点にいる最強種のドラゴン。
当然のことながら死傷者も出てしまう。
しかし、これはドМにとっては何よりのご褒美であった。
『朝限定だけれど、くまっこたちを竜にけしかける鬼畜配信をするといいわ。死んでも大丈夫よ。安全マージンとして、【黄金樹のバウムクーヘン★★★】を用意してあるの。日の出から1時間以内なら死人も蘇るわ!』
これが事前に【手首きるる】が【エルフ姫みどり】にもちかけた提案だった。
【黄金樹のバウムクーヘン】には早朝に限り、復活効果を持っている。
つまり全員が一欠片でもバウムクーヘンを口にしていれば、何も問題はないのだ。
「とうっ!」
そしてダメ押しとなるのが、この男である。
「颯爽登場! 白ッ白ッ白ッ白ッ♪ 白マントメェ~ン♪」
もはや羞恥心で死にそうなメンタルをどうにか奮い立たせ、ノリノリで登場した変態白マント。
「腹が減るから戦は起こる! みんなこれでも食べて苛立ちを忘れ! 真っ白な気持ちになろう!」
:きちゃあああああ変態白マントメェ~ン!!
:ヒーローは遅れて登場するってかww
:おいおい、急に料理し始めたぞ!?
:この状況でか!?
:え、なんか肉を白いねっとりした物に漬けだしたぞ……
「純白のプレーンヨーグルトにぃぃ♪ 貴重な龍肉をちょこっと浸して、もみもみもみっ♪ これにてお肉のパサつきがなくなり、よりやわらかく! よりジューシーになりマッスル!」
「はわわぁぁ、ジィーザス……! 白マント様、御自らの手料理でっすか……」
変態白マントマンは非常に慣れた手つきで、各種野菜を大きな鍋にぶちこみ、カレーのルーも溶かしてゆく。
それからクツクツとじっこり煮込み、龍肉の旨味がにじみ出たカレーを、もちもち白米に投下してゆく。
米本来の淡い甘みと、ほどよい熱さと刺激をもたらすカレー。そこにガツンと舌を喜ばせる、ほろほろ柔らかな龍の肉。
:ん……龍の肉を使ったカレーか?
:なんだろう。殿下ってこんな時もマイペースなんだなw
:まじでそれ。必死に【
:まあその鬼畜っぷりがいいんだけどな
:なんか絵ずらがカオスすぎるんだよなあwww
:綺麗な流星がたくさん落ちてる背景に、竜と熊たちが激戦を広げ、もっこり白マントの異世界クッキングとかさあwwww
:にしても地味に美味そうじゃないか? 異世界カレー
「辛くてスッキリ、深いコクと味わいをもたらす【龍星カレー】! ケンカする子にはあげません! ご馳走を白紙に戻しちゃうぞ~♪」
白マントマンが場違いすぎる宣言をすると、なぜかエルフ姫や【
その豹変っぷりは、教祖に従う信徒並みに迅速だった。
:いやいやいやw
:おかしいだろwww
:ドラゴン迫ってきてるってww
:この状況じゃさすがに躊躇する【にじらいぶ】勢wwww
:まあちょっと消化不良な気がするけど、ここでくまっこを激減されてもな
:俺たちの日々の楽しみが減っちゃうよな
:いい
:っていうか腹減ったわ
これにはさすがの【手首きるる】も【ぎんにゅう】も困惑した様子で、先ほどまで本気で争っていた相手と同じ卓を囲む流れに落ち着いてしまった。
「ええと……何これ、美味しいわね!? 辛みの中にも様々なスパイスが味を引き立てているわ!?」
「複雑で深い香りも食欲をそそられるです!」
「ワァオ……龍肉がこれほどの美味だったなんて……独特な旨味でーっす!」
三者はこのひと時の間は争いを忘れ、食に喜びを見出す。
そして変態白マントマンの活躍により、双方が致命的なダメージを負う前に和睦といった形で事態は収束したのだと、リスナーたちにはそう映った。
それから数日後の早朝にて、【エルフ姫みどり】により『裏切ってドラゴン牧場に襲撃してみた』という配信が上がる。
リスナーは知る由もない裏事情ではあるが、前回よりも【
というのも【剣闘市オールドナイン】に剣闘奴隷として売りさばかれてた【
彼女たちは元々、本人の希望で剣奴として剣闘士デビューをしており、売られてすらいない。ただ、可哀そうな子として見られながら剣闘士をするのが彼女らにとって快感だったそうだ。
「サアサア、早朝からの奇襲でーっす!
そこでは【闇々よる】率いる【
【にじらいぶ】のファンは防衛戦を応援して大盛り上がり。片や【エルフ姫みどり】のリスナーは、蹂躙しろと血眼になって配信にかじりつく。
誰もがこの争いに注目し、熱中してゆく。
何せ【
なぜか嬉々として突貫する奴隷くまっ娘たちの鬼気迫る様子に、ドラゴンの圧倒的な生物力に、人形たちの一糸乱れぬ統率力に、全てのリスナーが夢中になってゆく。
しかし————
事実は小説より奇なり。
ドラゴン牧場を訪れた、とある高位冒険者は戦々恐々と語る。
『絶対に【にじらいぶ】には手をだすな。あそこには強大すぎる戦力が集結している』と。
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【
大自然との一体化を果たし、その雄大な旨味と力を凝縮した龍の肉をふんだんに煮込んだカレー。複雑なスパイスと龍肉が織りなす香りは、数多の神々の優先順位を狂わせるほどに
舌がその刺激を一度でも知れば、もはや『これ以外のカレーはカレーにあらず』と言わしめるほどの美味。
基本効果……永遠にステータス
★……永遠にステータス
★★……永遠にステータス
★★★……
【
また、ステータス
【必要な調理力:520以上】
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