123話 エルフ姫の想い


【竜喰いの騎士】たちより、もらいうけた竜の卵を孵化させてから約二カ月。

 ぎんにゅうこと、銀条ぎんじょう月花つきかが【竜宮使い】の身分を獲得したと、俺やくれないに明かしてきた。


「……【身分:竜宮使い】なんて、ゲーム時代には存在しなかったわよね」


「獲得条件は『幼竜との絆を結ぶ』、だそうです」


「ひどく曖昧な条件だけど、月花はドラゴン牧場でよく配信しながら幼竜たちのお世話をしていたから、その辺が深く関係しているのか?」


 紅と月花、そして俺は【竜宮使い】の発生条件について思考をめぐらす。

 というか俺ってば【身分:竜宮使い】を獲得してないから、ぴよと未だに絆を結べてないのか!?

 

「身分の内容はどのようなものかしら?」

「竜種と共闘している時のみ発動できる、強力なスキルを習得するです」


「竜に乗る……騎竜時だけスキルが発動できる【身分:竜騎士】とは違うのか。【にじらいぶ】全員に共有だな。残りの卵も順々に孵化させていくのか?」


「ええ、ここのところ【熊耳の娘ベアルック】たちとの戦闘訓練も押され気味だもの。戦力増強といきましょう」

「でもでも、セキちゃんもセイちゃんもツッチーもすごい強いです!」


「誰かさんが定期的にステータスをアップさせるエサをあげてるからじゃないかしら? 普通のドラゴン種より明らかに成長も早いし、強さも段違いでしょう」


 紅さんは俺を見つめながら、少しだけ呆れたように呟く。



「料理と言えば、技術パッシブ【龍宮使い】もゲームにはなかったです」


「自然神との対話なんて……エリアボス級の存在よね」


技術パッシブレベルを上昇すれば、自然神と一緒にやれることが増えそうでちょっとロマンだよな」


「そうね。ただ、今の【にじらいぶ】は目下、ドラゴン強化週間にしましょう。ここでの竜の育成も実証済みなのだし、あと二、三頭は孵らせてもいいと思うの」


「まあ食糧もこの辺は豊富だしなあ」


 幼竜たちは【熊耳の娘ベアルック】や【月語りの大熊ウルク・ベアー】なんかとも一緒に狩りに出ているようだし。


「ぴぴぽっぴ、ぴっぴぴぴっぷー!」


「おっ、ピヨも嬉しいのか? よかったよかった」


 白銀のふわふわひよこ形態のピヨは、兄弟が増えると知って大喜びだ。

 相変わらず可愛いなあ。


「ところでピヨと俺との絆の話なんだが、過去に繋がったような感覚があったんだけど————」


「ぴっぴっぴ!」


 ピヨは唐突に俺の唇にその小さなくちばしを当ててきた。

 チュッと口づけをかわすみたいな甘い雰囲気ではなく、チクっとついばまれた感覚だ。

 ただ次の瞬間から、俺とピヨの間でより深い繋がりが生じた。

 なんというか、今までは肉声で意思のやり取りをしていたけど、今では目と目で語れる感じだ。



「ナナシ……ひよことキスってどれほどスキンシップに飢えているのかしら?」


 よし、ピヨ。

 くれないにおならぷっぷの刑だ、と目で語ってみる。

 すると————


「ぴっぴ……ぷっぷぷぷっぷぷぷっぷっぴ?」


「きゃっ!? やめっ、ぴよちゃん急にどうしたのかしら!?」

 

 くれないがむせ返る姿に笑いを堪えつつ、俺は自身のステータスを確認すれば、やはりそこには新しく【身分:竜宮使い】が出現していた。


「ふふ、わかったぞ。【身分:竜宮使い】の発生条件が!」


「っぷっぷぷぷぷぷっぷぷぷっぷ!」


「きゃああああああああああああああっ!?」


 くれないさんはピヨのおならに追われながら、【月語りの大熊ウルク・ベアー】が寝そべる方に退避していった。

 ちなみにくれないさんにしては珍しく、彼女は【月語りの大熊ウルク・ベアー】たちに好かれている。


 やはり人語を介する【月語りの大熊ウルク・ベアー】の知性と、彼女の見識の深さが相性を決めたのかと思ったが、別にそういうわけでもなかった。


月語りの大熊ウルク・ベアー】は単に『血生臭いのが好き』といった感覚で、くれないは紅で【月語りの大熊ウルク・ベアー】に好かれてもあまり嬉しくないのだとか。


『なんだか獰猛だし、可愛くないし、口調がおじいちゃんっぽいわ』


 俺はそんな落ち着きがあって、頼りがいのある【月語りの大熊ウルク・ベアー】は可愛いんだけどなあ。

 おじいちゃんなのに血気盛んとか、ギャップがあって面白いと思わない?


「グォォォオオフッ……臭いのぅ。ゲフゥッ」


「ちょっ、あなた達のゲップも臭いわよぉぉおぉ!?」


「赤いのはいつもせわしないのう。ゲフゥッ」

「赤いのがこちらに来なければ、白竜もこちらで放屁せぬからのう。ゲフゥゥッ」

「ゲフゥゥゥ、ほれあちらに戻れ」


「きぃゃあああああああああああああああ!?」


 さすがにくれないさんが不憫に思えたので、そろそろピヨにからかうのをやめておこうと目で合図を送る。

 この後、俺は事の真相を知られて、紅さんにむちゃくちゃ絞られました。





 わらわの名は『ミドリーナ・チャチャ・エルフィンロード』でっす。

鹿角の麗人エルフィン】の第一王女にして、異世界ちきゅうとの交流を紡ぐ【エルフ姫みどり】でーっす!


 昔からキラキラしたものが大好きで、わらわもいつかは燦然と輝く星々のようなスターになりたいと願ってたでっす!

 だから夜空を駆ける流星を追いかけて、植物たちと共に枝葉を伸ばしてきまっした。そして夜闇をも照らす龍神を追い求めたでっす。


 だけどそんな幼すぎる希望を、世界はいつまでも許してはくれませんでっした。



「ミドリーナ姫殿下。異界の者の心身を掌握し、その力を借りるのは妙案かと。そのためには、奇抜なことをして目立たねばなりません」


鹿角の麗人エルフィン】を守り抜くために、わらわが磨きぬいた弓術も。


「ミドリーナ姫殿下。【熊耳の娘ベアルック】たちのためにも、彼女たちを虐げる配信スタイルでいく他ありません……」


 父上や母上の血から受け継ぎ、いただいた【緑と風の共生者】……植物たちと成長し合える才も。


「ミドリーナ姫殿下。我々も心苦しいのです……どうかここは心を鬼にして……耐え忍ぶ他ないのです」


 わらわの願いを形にするには、どれも力不足でっした。

 わらわはただ、友と一緒に高みを目指したかったでっす。

 互いに研鑽し合い、互いの神々を求め、辿りつき、見つけ出す。


 このように……盟友を虐めながら、何かを成し遂げたいなどと思わなかったでっす。


 本当はもうこんな配信はしたくないでっす。

 我慢して、我慢して、友をしつけるふりをして、自分をしつけていたでっす。

 なんのために我慢してるの? 誰のために?


 それは【鹿角の麗人エルフィン】と【熊耳の娘ベアルック】みんなのためでっす。

 だって、わらわは【鹿角の麗人エルフィン】を束ねる王族でっすから。

 これしか生きる道はないのでっ————




「誰もがなりたい自分と、現実とのギャップに苦しんでいます」



 それは暗く深い闇夜を切り裂き、突然に咲き誇った純白の花でっした。

 わらわに迫る闇から守るよう、真っ白なマントがたなびき、大きく広がったのでっす。


「それでも、この現実を変えられるのは、自分だけなのです」


 そう言っておきながら彼は、地面に座り込み『もう動けない』と根を張ってしまったわらわに、救いの手を差し伸べてくれたのでっす。

 眩く力強いわらわ英雄ヒーローは、『ただ生きているだけでは罪』だと教えてくれまっした。


 そして『常に新しい方法を模索し、手を取り合え』とも。

 それこそが、わらわと【聖剣】と、そして【熊耳の娘ベアルック】や【月語りの大熊ウルク・ベアー】を救い出した白マント様のり方なのでっす。



わらわの愚かなくまっこたち! 死んでもいいから、竜たちに突撃するでーッす! わらわと共に、死力を尽くすのでっす!」


 だから今は、【熊耳の娘ベアルック】たちと共に、心の底から目指せるのでっす。

 本心・・から望み、【熊耳の娘ベアルック】を鍛えに鍛えいじめぬき、いつかはあの巨大な背中に追い付きたいのでっす!

 あの御方の隣で、わらわも輝きたいのでっす!


 そして今、わらわには新たな希望が芽生えているのでっす。

 それはあの御方が示してくれた天啓、『知る』ことでっす。

 何もよりも知りたいのは、白マント様に決まっているでっす!


 白マント様を知るなら、地球に行くしかないのでっす。

【手首きるる】から聞くに、地球の日本ではわらわと同じ年ごろの娘は『学校』というものに集まるのだっとか!



『我が娘よ。【鹿角の麗人エルフィン】を束ねる王族として、しっかと見聞を深めるのだっぞ』

『あぁ、私の娘よ。異界の地へと離れても、いついつまでも緑と風わたしたちは傍にいっますよ』


 父上と母上を説得して、わらわは現実を変えたのでっす!

 そして白マント様の教え通り、手を取り合い、協力を得た結果が……わらわの目の前にあるのでっす!



「こちらが学校でーっすか。楽しみなのでーっす!」





◇◇◇◇

あとがき


作者『星屑ぽんぽん』のTwitter(X)にて

1巻発売記念に、お友達とワイワイ作った

『もふテロ動画』もアップしました!


よかったら見てみてください!

@hoshikuzuponpon

◇◇◇◇

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