115話 白マントマン参上!


 えっ?

 えーっと……これって俺はどうすればいいんだ?


 落ち着こう。まず多くの視聴者に俺の変態白マントマン姿を見られてしまった。

 いや、そこじゃない。

 俺はエルフ姫率いるエルフ部隊と、【聖剣】の激しい攻防を見つめながら、状況を整理しようとする。


 エルフ姫に加勢するのは、配信上で【熊耳の娘ベアルック】の奴隷化に賛同するように映ってしまうし……しかも多勢に無勢で、見栄えもより悪くなる。

 もちろん【聖剣】に加担するのはさいの希望的に論外だ。

 あとヤミヤミからも何か言われそうだし。


 んんんー、どうすればいいんだこれ!?

 配信上だとどっちの味方もできなくないか!?



「白マントマン、あんたは今、白マントマンなんだよ!」


 そんな風に逡巡していると、すぐそばでさいが叱咤してくれる。

 そうだ、今の俺は【にじらいぶ】のナナシではない。何も背負っていないし、守るものがない、真っ白で空っぽな変態紳士『白マントマン』だ!


 ふぅ。

 頭の中が妙にスッキリした。

 そうなると周囲でバチバチと戦っている数多の動きも、冷静に見れるというもの。


 まず周囲を包囲していたエルフたちは、【聖剣】の目にも止まらぬ縦横無尽の剣技で半数が無力化されていた。

 飛び道具に対してあれだけの絶技を連発し、即座に距離を潰してエルフたちを撃沈させる腕前は、今まで目にしたどの冒険者より・・・・・も手強そうだ。


「くっ……わらわに歯向かうなんていい度胸でーっす」


 対するエルフ姫と言えば、余力はまだ十分にありそうだった。

 そして彼女の口調は常に軽いが、その表情に一切の笑みが浮かんでいない。

 むしろ、とても凄みが効いていて、今すぐにもでも敵を射貫かんとする……本物の・・・狩人の目だった。


 配信での【熊耳の娘ベアルック】を狩っていた時とは大違いで、彼女の纏う雰囲気はかなり張りつめている。



わらわの可愛くて愚かなクマっこたち。あの者を屠るのでっす」


 ついには人間ピラミッドを崩した【熊耳の娘ベアルック】たちが、エルフと共闘して【聖剣】に迫る。

 ざっとエルフ陣営の戦力は弓兵が5人、近接戦に特化した【熊耳の娘ベアルック】が20人、そして中距離魔法で決定打を放つエルフ姫みどりだ。

 対する【聖剣】はただ一人でありながら、その物量を一振りの剣で押しとどめていた。いや、切り崩し、圧倒しかけている。


「滑稽だな————【月下の五月雨さみだれ】」


 月光を纏った【聖剣】は空高く飛翔し、そこから雨粒がごとく無限の刃を降り注ぐ。

 これには【熊耳の娘ベアルック】たちも堪らなかったようで大半が悶え、苦しそうな呻き声を上げる。

 

「痛いのはいいくまっ!」

「でも姫に逆らうのは違うくまっ!」

「ガウゥゥゥバフッヴァフッ!」


熊耳の娘ベアルック】たちの呼び声に応じて、数頭の巨大な【月語りの大熊ウルクベアー】が木々の影より姿を現す。

 そのまま【熊耳の娘ベアルック】はその背に乗って、【聖剣】を圧倒的な力でねじ伏せようとした。


「くっ……さすがにこのままじゃっ……厳しいか」


 ここまで善戦していた【聖剣】もさすがに分が悪そうだ。それでも彼はエルフ陣営の猛攻に耐え、上手く立ち回っている。


「仕方ない、こうなったら……【石結びの魔剣メデューサ・ソード】」


【聖剣】はさらにもう一振りの剣を召喚し、その手に二本の剣を携えた。

 んん、ちょっとアレは危なそう?


「ぐあっ……な、なん、だ、これは……」

「くっくまあああ……体が石に」

「石化だ! 石化の呪いだ!」

「あの剣で切りつけられ……たら……え?」

「剣風だけでも石化するくま!?」


【聖剣】はどうやら『状態異常:石化』の効果を持つ魔剣を所持していたようだ。

 エルフや【熊耳の娘ベアルック】たちは、次々と身体の一部が石化していく。動けない=戦力外となれば、簡単に戦況はひっくり返り、【聖剣】の勢いが増していく。



「ハーッハッハッハ! これが俺の今の力だ! 石像になりたくなければ、俺の奴隷になるがいい!」


 よし。

 だいたいの状況は把握したし、手の内も読めた。

 方針も決まっ————



「えいやっ!」


 なんと何の前触れもなくさいが【聖剣】に蹴りをかましていた。

 それは今にも【聖剣】に切り付けられそうになっていた【熊耳の娘ベアルック】をかばう形で、しかも背後からの不意打ちだ。


「ぐっ、なんだ!?」


「とうっ! おれだって、守れるから!」


 ちょっとちょっとさいさーん!?

 そんな実力者に不用意に突っ込んじゃダメだって!?


「ちっ、ザコが!」


 俺は全速力でさいに接近し、そのまま抱きかかえてその場を離脱する。

 しかしやはり【聖剣】の剣速はなかなかのもので、さいの左腕からは薄く傷口が走っていた。


「ん、あの女ッ、どこに消えた!?」


【聖剣】が未だに状況を把握してないうちに、さいを地面におろす。


ナナ・・ッ……お願い……!」


 体をなげうってまで【熊耳の娘ベアルック】たちをかばうさい

 彼女のそんな行為は、クリエイターとして自分が生み出したキャラへの愛に溢れていた。

 

「……【熊耳の娘あの子】たちは、私のッ、私たちの・・・・子だよ!?」


 ちなみにさいに石化現象は見られないので、どうやら【きゅうり魔人のピリ辛え】で得た石化耐性+5が活きているらしい。

 そうなると、【聖剣】が持つ魔剣もそこまで強い状態異常を付与できないようだ。


「だからっ、お願い白マントマン! あんたの奇跡を見せつけて!」


 ここまでエルフ陣営と【聖剣】を冷静に観察したからこそ、見えてくるモノがある。気になる点・・・・・もいくつかあるので、そろそろ頃合いだ。

 何より、幼馴染にここまでお願いされたら出張るより他ないだろう。



「白マントマン! 参上!」



 俺はサッと【聖剣】の前に踊り出る。

 ちょうど【エルフ姫みどり】が狙われ、彼女もまた魔剣の餌食になる手前だった。


「邪魔だ! 割り込んでくるな!」


「まあまあ落ち着きましょう」


「ふざけた奴に今更ッ、何ができるっていうんだああああ!?」


 こちらの静止を無視した【聖剣】は、二刀流の毒牙を俺に向ける。

 しかし俺は【聖剣】が持つ剣を指二本でつまむ。

 おっと、もう片方も指二本でつまんでおこう。


「……あぁ!?」

 

 一瞬の静寂が場を支配する。



「なっ、がっ……なんだ、この力……剣が動かねえ……てか、石化しないだと!?」


 確かに【聖剣】は、今まで出会ったどの冒険者よりも・・・・・・手強い。

 とはいえ、それだけだ。


 俺が相対してきた神獣や神々と比べたら、ひどく陳腐ちんぷなものには変わりない。



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