77話 人形の封域
俺が【先駆都市ミケランジェロ】の一角にたどり着くと、そこにはすでに予定通りの人物が佇んでいた。
「
白メッシュを入れたロングツインテールの美少女が嬉しそうにはにかむ。
彼女こそが暴露系配信で一世風靡したVTuber
「おう。というか、ここから例の【
俺が周囲の耳を気にしながらコソコソと
「そうばい。ここが秘密ん劇場への入り口ばい」
どうして俺たちがこんなに慎重なのかと言えば、今回は秘匿性が重視されているからだ。
本当にごく一部の人間しか知らない領域のため、一番に配信ができたらヤミヤミが話題をかっさらえると踏んでいるのだ。それなら『他人の耳に入れないようにするのが上策!』と、
「なんかこげん所で、二人でコソコソするの楽しかね」
にこっと可愛い笑みを向けてくる後輩に俺は思う。
うーん、この可愛さならいずれは天下も取れるだろう……今は伸び悩んでるかもしれないけど、ついつい背中を押したくなるんだよなあ。
「わかったわかった。じゃあ、そこの店に入っていいんだな?」
「【
瀟洒な店に入ると、これまたゼンマイ仕掛けの人形が店員さんだった。
「ヤハハハ、いラッシャい。キミタチはオ客人かな? それトモ旅人? ソレとも女王候補カナ?」
「女王候補ばい」
店員人形にそう答えた
それは鈍い銀色の光りを帯びたお札のような物だった。
「ヤハハハ、『女王劇場への入場券』を確認シタよ。ではデハ、イッテらッシャイ、見てラッシャイ、ようコソ【
店員人形は妙に芝居がかった口調で、傍にあったレバースイッチをガチャコンッと引き落とす。
すると、ギギギギッと地の底から巨大な歯車の鳴る音が響き始めた。
「こ、これは……」
「床が、壁が、レンガが……一人でに動いとる……!?」
まるで俺たちを地底世界へと呑み込むかのように、周囲の壁や床が
「
「おおう……あれは、月なのか……?」
白くぼんやりと浮かび上がるのは、
どう見ても機械仕掛けであり、目と鼻と口が定期的に動いている。というか、目の部分には小さな人形が何かを灯している。
さらに星々を模造しているのも、地底の天井に埋め込まれたライトっぽい。
「あれ? 月がどんどん下がっていくっちゃ!」
「代わりに……ああ、空というか、壁自体がぐるんって回ってるんだな」
「空が、あっ……壁と天井が青空模様になっていくっちゃ!」
「ついでに機械仕掛けの太陽も登場だな」
またまた顔のある太陽がにっこりと俺たちを迎えてくれる。
なるほど、全てが機械仕掛けの世界ってわけだ。
そうやって歯車がそこかしこで見受けられる街並みを見下ろしながら、俺たちは石段エレベーターによって【
「あれ? 【にじらいぶ】の————」
ふと、聞き覚えのある澄んだ声に、俺と
「ヤミたんと……ナナシくん?」
白銀の長髪をなびかせた絶世の美少女が俺たちの名を呼ぶ。
そして蒼穹の瞳が和やかに細められ、無邪気な笑顔が弾けた。
彼女こそ、冒険者界隈では絶対に敵に回していけないと噂される【
「あっ! タロりんだっちゃ!」
「……【
俺の呟きよりも早く
そのままうちの後輩は軽やかな足取りで、遠慮なくハグをかましていた。
おいおいおいおいおい、そんな恐れ多いっ、各方面に絶大な影響力を持ってる【
「【ひび割れた
「わっぷ……ヤミたんっ……こっちこそ、うちのブルーホワイトたんが過剰に反応しちゃったのに、上手く収拾つけてくれて助かったんだぜ」
おいおいおいおいいいい、うちの後輩がつよつよ錬金姫といつの間にか仲良くなってたとか! 先輩は聞いてませんよ!?
先輩はね、彼女と次に会ったら全力ゴマすりをかます予定だったんだよ。
優秀すぎる後輩のおかげで、そんな絡め手は不要ですか。
これじゃあ先輩の立場がありません。
「そうか、きみたち【にじらいぶ】も【
「んんータロりんのおかげでもあるっちゃ?」
というか、さっきから錬金姫の背後で刺すような視線を俺に向けてくるのは誰だろうか? 彼女の仲間か?
目が覚めるようなミディアムボブの白髪、そして青と白の優雅なドレスを身にまとった少女は作り物のように美しすぎた。
俺のそんな内心に気付いたのか、【
「あ、この
「…………」
無言でカーテシーをして一礼をしてくるブルーホワイトさん。
本当に怖いぐらい綺麗な顔をしていて、どこか人形めいた冷たさを持っている。
「そうだ。よかったら俺たちと一緒に【
「願ってもなかと!
ここでダメとか言ったら、逆にどうなるのだろうか?
そんな未来は怖すぎるので、俺はにっこにこで頷いておいた。
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