78話 機械仕掛けの劇場世界
まさかの【
そして2人の話を聞くと、つい最近【ひび割れた
「ヤミたんがブルーホワイトたんの前に躍り出た時はヒヤッてしたよ」
「あんままじゃ【
「そうだよね。こっちも街の人を襲ってる
「うーうん! むしろ他の冒険者たちを止めてくれたから、すっごく助かったばい!」
以前、俺たち【にじらいぶ】が黄金領域として復活させた地、【ひび割れた
その際、発見した冒険者が次々に襲い掛かったらしい。
【
そこで
そして【
「そういえば、タロりんはどげんして入場券ば手にしたと?」
「んんー話すと長くなるけど、とある呪いの雪国で目覚めたお嬢さんのおかげかな?」
呪いとか物騒な発言をしたものの、タロさんは優しい目でブルーホワイトさんを見つめていた。そして、彼女自身も慈しみのこもった視線をタロさんに向けている。
どうやら二人の間にはものすごい絆があるのだろう。
そんな彼女たちの空間に水を差したのは、街の住人である人形たちだった。
「やァやァ、今日ハ待ちニ待った、勇者ノ旅立ちの日ダ!」
様々な建物の窓やドアがバンッと開かれ、多くの人形たちが機械仕掛けの朝日と共に動きだす。
「勇者クルックドール! 僕タチの希望! キット女王様を連レテクル!」
「勇者クルックドール! 私タチの英雄! 必ズ女王様を発見シテクル!」
「俺ハ勇者クルックドール! ミンナの人気者! ミンナの願イヲ絶対に叶エル!」
時計から突然クルッポークルッポーと鳴きながら飛び出すハトのように、周囲の人形たちが慌ただしく動き始める。ある者は勇者クルックドールに剣を渡し、ある者は旅の無事を祈り、そしてある者は涙の別れをかわす。
俺たちが唖然と見送る中、ついに勇者クルックドールは旅に出た————
と思いきや、最初に飛び出してきた家の中へと入って行った。
俺と
「いや、寝るんかい」
「旅立たんと!?」
これにはさすがにツッコんでしまうだろう。
「あははは……やっぱり最初にここに来た時は困惑しちゃうよなあ」
そう言いながらタロさんが俺たちに事情を説明してくれる。
「【勇者クルックドールの旅立ち】。一つの劇なんだ。この【
だから毎日、勇者クルックドールは旅立たない。
そしてまた朝になるとあの劇場が開演される。そんな人形劇がそこかしこで見れるらしい。様々な演劇を見てみたいとワクワクする反面、少しだけ不気味とも思う。
「つまり、ここん人形全ては何か役ば持っとーと?」
「そうだね。役を演じるために稼働……生きている。それがここに住む人形たちの運命っぽいんだ」
こんなにも
俺と
「勇者クルックドールは帰還シタ!」
唐突に勇者クルックドールの家の扉がバンッと開く。
「見テ! 勇者クルックドールよ! 帰って来タノヨ!」
「我ラガ勇者のゴ帰還だ!」
「女王ハ見つかっタノカイ?」
「無事で良カッタヨ、クルックドール!」
「冒険譚を聞カセテくれー!」
勇者のおでましで様々な人形たちが熱狂してゆく。
そんな人形たちの姿を、タロさんはぽかん口を空けながら眺めている。
「そんな……いつもは勇者クルックドールが旅立って終わるはずなのに……こんなのは初めてだ!?」
人形たちはタロさんの驚愕など露知らず、どんどん劇を進めてゆく。
「俺ハ勇者クルックドール! 長い旅ヲ経テ、俺ハ悟った! 女王はモウイナイと! ナラば、ドウするベキだ!?」
勇者クルックドールの大演説に、周囲の人形たちの熱狂も増していく。
「そウだ、女王候補にフサワシイ少女、貴婦人がイルじゃないか! ココニハ! 我が故郷ニハ! ソウ、『女王劇場への入場券』をソノ手に持つキミこそが女王候補にフサワシイ!」
突然、勇者クルックドールは
すると人形たちの大歓声がわく。
「我こそハト煌めく少女タチヨ! 貴婦人ガタよ! 女王ニフサワシイ美しさを証明スルノダ! コノ、神に封じらレた【
「【
「数十年ブリの【
「我らガ女王を決メルのだ!」
「着飾れ娘タチヨ! 美を競え貴婦人タチヨ!」
なぜか
困惑する俺たちだが、タロさんが少しだけ感動したように呟く。
「止まっていたはずの歯車が……
「劇の続き、物語が進んだっちゃ?」
機械仕掛けの街並みには、凄まじい熱気が広がっていった。
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