75話 青色の配信
煌めく美しい
温かな日差し。
鳥のさえずりがこだます大自然の中、推しとボートを漕ぎ進める。
あぁ、いつぶりだろうか。
こんなにゆったりとした時間が流れるのは。
ああ、ぎんにゅうとのドラゴン牧場ぶりか。
「あっ! 今しろくん、他の女子のこと考えたでしょ?」
「えっ……あはははは」
「ぬしもわるよのぅ」
「悪かったって。そうだ、さっきボートに乗る前に拾ったんだけど。これ、綺麗じゃないか?」
「それって……宝石?」
「ああ。ジュエル
「え! じゃあ宝石たんまり稼ぎ放題ってこと!?」
「んー……でも見た感じ、そんなに落ちてなかったから探すの大変じゃないか?」
「それでも帰りに拾ってこ! 絶対にね!」
「ふふっ、おぬしもわるよのぉ」
「ふっふっふー、しろくんほどじゃあるまいに」
「お? そんな事言っていいのか? この青い宝石、こうやってちょちょっといじると……」
俺が
青い輝きを放つ、細いブレスレットだ。
「ほら、せっかく
「えっ! く、ください!」
素直に両手を伸ばしてくる蒼に、俺はつい笑ってしまう。
「さっきのお詫びに受け取ってくれ」
「さっきのお詫びに、受け取りますとも」
どうやら気に入ってくれたようで、さっそく自分の腕に着けてくれた。
「じゃあ、しろくん。あたしからも、今日付き合ってくれたお礼に受け取って?」
「ん?」
そう言って蒼はリュックから何かをごそごそと取り出す。
彼女の両手が掴んだもの。
それはファンシーな白いクマさんが、小さな青いクマさんを抱きかかえている、とっても可愛らしいぬいぐるみだった。
「これ、あたしが縫って作ったの。最近、あたしお裁縫の動画とか上げてるでしょ? その一環で、ね? だからよかったら、使ってほしいなって」
「お、おう」
突然のことで一瞬だけ頭が真っ白になりかける。
まさか
そうか……この手作りぬいぐるみを渡すために、
「みんなの前であげるのでもよかったんだけど……ほら、あたしがこういうのを渡すのって、ちょっと似合わないかなーとかさ?」
「いやいや全然! むしろ物凄く可愛いというか、えっ、すごいクオリティだな……ガチでしっかりしてるじゃん」
「うん! しっかり、しろくんに使ってもらえたらなって、ちょっと丈夫に縫ったの!」
「使う……?」
そこで俺は気付く。
そのぬいぐるみの背にはショルダーストラップ、つまり背負い紐がついていた。
「この白クマさんの口をパカッと開けると荷物が入るの! リュックになるんだ」
「おおおおうおう」
「これなら【
「あっ、たしかに! リュックの中にゲートを開いて、【
「うん! 冒険者もいい人ばかりじゃないって聞くから……しろくん、たまに一人で
なんて優しい
さすがクラスメイトの推し!
デザインは、うん、俺がちょっと使うには恥ずかしいけれど、
「うれしい?」
「めっちゃ」
ボートの上で二人きり。
こっちを覗き込むように見上げてくる
「じゃあ、ご褒美がほしいかも?」
「ご、ご褒美?」
一体推しにどんなご褒美をねだられてしまうのだろうか。
ドキドキで胸が張り裂けそうになるが、俺は努めて平静を装う。
「うん。ご褒美。他の子たちにしてない特別な、しろくんのご褒美がほしい」
「えっ、えーっと……わかった! 考える、今すごいのを考える!」
蒼の期待に満ちた瞳に見つめられながら、俺が出した答えとは————
「そうだ、今から魚釣り配信をしよう!
俺はジュエルから預かった釣り道具を盛大に掲げた。
◇
『みんなの遊び場はどこー!?
アスリート魔法少女VTuberの『海斗そら』。
彼女の配信が始まると、多くのリスナーが視聴を始める。
その数は【にじらいぶ】の中でもトップクラスだ。
:そらんちゅ集合~!
:おおー、なんか良さそうなところにいる!
:幻想的な
:開放的だなあ
:ん? もしかして
:なんか異様に湖が輝いてないか?
:太陽光が反射してるだけ? でもそれにしたって眩しいな……
:無数の星々が浮かんでる?
:いや、あれって石じゃないか?
『今日は! 【宝石が浮かぶ湖】って場所で、宝石魚を釣るよー!』
:は?
:【宝石が浮かぶ湖】?
:ま?
:いやいやいや、それって今めっちゃ話題の【
:入ったらほぼ死亡するってダンジョンだぞ!?
:えっ、大丈夫なの?!
:そもそもここまで踏破できてる時点で、初じゃないか!?
:【宝石が浮かぶ湖】初公開じゃん
:誰もたどり着けず宝石人間になってるんだよな……
:快挙、快挙だけどさ!?
:ちょっ、のんびり魚釣りとかしてる場合じゃないだろ!?
:そらちーはやく戻ってきて!
:逃げろおおおおおおおお
:そらちーが宝石人間にされる姿なんて見たくない!
:ナナシちゃんが撮影してるんだろ!?
:頼む! そらちーを帰らせてくれええええ!
『み、みんな! 落ち着いてね、大丈夫だから! この釣り竿とかも、一応はここの管理者さん? からもらったの。あと話してみたら悲しみを背負ってる大鬼さんで……その反動で、人間を宝石人間に変えてアートにしてるのかもね……』
:まじか
:怪物と仲良くなったんかーい!
:さすがにじらいぶ
:もう何しても驚かんよ、うん
:またまたサラっと偉業を果たす
『あっ、でも襲いかかってくるのは変わらないからね? これから【宝石が浮かぶ湖】を攻略しようとする冒険者さんは頑張ってください。あと勝手に宝石を取っちゃうと、多分すごいのが出てきて、食べられちゃうかも!』
:いや、怖すぎだろw
:宝石人間になった人たちは元に戻せるん?
:仲良くなったなら、解除してもらえたりとかさ
『うーん……さりげなく聞いてはみたんだけど、難しそうかなって。今後はわからないけど、あのままで復活しても顔が三つとか、足が一本の彫刻もあったし……うん……慎重に様子見してゆきます!』
:冒険者も危険は覚悟の上だろうし、そこはまあ仕方ないのかもな……
:まあ、そらちーが無事に魚釣りできるならOK
:というかマジでいい釣り場だな!
:うはああああああ、できるなら俺もこんな所で釣りしてえええ!
:しかも釣れるのが宝石魚? めっちゃロマンやん
:ゆったりと湖面に流されて、ゆったりと釣りを堪能する
:優雅な休日やでほんま
:隣にそらちー、これ最高な
:ん? そらちーの釣り竿がピクピクしてるぞ!
:かかったか!
:宝石魚とは!? 一体どんな魚なんだあああ!
:ん!? ナナシちゃんも一緒に釣り竿を握り始めたぞ!?
:なんか、画角的に慌ててる?
:2人で引くほどの大物か!
:なあ、湖面が波打ちすぎてないか?
:足場が! ボートが暴れてる!?
:おおおいおいおいおいおい、なんかバカでかいドラゴン出てきたぞ!?
:身体中が鉱物っぽいドラゴン!?
:え、まさかのドラゴン釣ったの!?
:ドラゴン牧場の次はドラゴン釣りとか笑うwwww
:ある意味、マジで釣りやんwww 魚じゃなくてドラゴンかーいw
:笑ってる場合じゃなくね!?
:絶対に湖の
:ん? なんかボートごと頭に乗っけて移動し始めてね?
:おいおい、ボートの意味よww
『やったああああああ! みんな、きもちいよ! すっごく、すっごく!』
『あ、リスナーの皆様、ご安心を。【宝玉竜ジェルムド】とは
さらっとナナシちゃんの状況説明が加わり、リスナーも
こうしてそらちーによる新しい
『次は宝石魚を釣ってみせるから、楽しみにしててねー!』
:いや、もう頂点を見せつけられたんよw
:んーでものんびり魚釣りも悪くないよなあ
:今後も色々な場所でやるってなると楽しみかも
:すごいゲテモノが釣れたりしてなw
:俺はとりあえず宝石魚ってやつを見てみたい
そしてやはり、つぶやいったーでのトレンド入りも達成していた。
#そらちーの宝石魚釣り
#そらちー竜をクルーザーとして乗りこなす
#さすナナ
◇◇◇◇
あとがき
そらちーのイラストを活動報告に載せました!
よかったら覗いてみてください。
高画質&ロゴ入り版は作者のTwitterにアップしております。
@hoshikuzuponpon
◇◇◇◇
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