74話 宝石魚のカルパッチョ
「しゅるるるぅぅぅ、【
【彫刻の大鬼ジュエル】は自分の作品(宝石人間)を受け取ってくれないならと、宝石のような鱗をまとった魚を俺たちにプレゼントしてくれた。
ん……というか、これ鱗の一枚一枚が……ガチの宝石じゃないよな……?
「わっ……綺麗なお魚さんだなあ……」
「ありがとうございます、ジュエルさん」
「この湖の宝石は
「カカァ、ですか?」
聞けば、【宝石が浮かぶ湖】の底には【宝玉竜ジェルムド】という古竜が潜んでいるのだとか。伴侶を数年前に失った悲しみに明け暮れ、その涙が宝石となって湖に浮かんでいるらしい。
「
さらに【彫刻の大鬼ジュエル】の正体は、宝玉竜と大鬼の間に生まれた子だと判明する。
「ジュエルさんが人間を宝石にしていた理由って……もしかして復讐……? とにかくお母さん……元気、出るといいね……」
そらちーも最初は【彫刻の大鬼ジュエル】の異様な姿にビクビクしていたけど、今では親身にジュエルさんの身の上話を聞いていた。
もらった宝石魚を見て、この距離感なら一緒にご飯を食べても大丈夫だろうと判断する。
「そうだ、ジュエルさん。いただいた魚を今から調理しようと思うのですが、ジュエルさんもご一緒にどうですか?」
「しろくん、それいい案だね! こんな綺麗な湖を前に美味しいご飯! ジュエルさんも少しは元気になるかも! それで宝石人間を作るのをやめてもらえたり……」
「しゅるるぅぅぅぅぅ? ジュエリーフィッシュを調理? ジュエリーフィッシュはそのままシャクシャク食べるのが美味しいしゅるるるるるる」
「なるほど。しかし、調理は古来より芸術と捉えられる場面も多々ありましたよ? 創作料理などもその筆頭でございます」
「げ、芸術しゅるるるるるうううう? 食べ物が芸術……盲点しゅるぅぅぅぅう。興味わいたしゅるうううう」
こうして俺のクッキングタイムがスタートした。
まずは宝石魚の鱗だが、これがかなり硬い。
チタンやメタリック系の輝きを放ち、光の当たり具合によっては様々な色に変化するのも不思議だ。
「————【神降ろし、三枚おろし】」
とはいえ、暴食の神を包丁に宿せば綺麗に鱗をはがし、身も切り分けられる。
「
身は宝石と見まがうほどに透き通っており、こっちが宝石なんじゃないかと思ってしまうほどだ。
さらに審美眼で見ると、ジュエルさんが言っていた通り生が一番美味しいらしい。
「ん? 鱗もこれは……」
さらに剥がした鱗の特性を知った俺は、今日のメニューを決定した。
ふふふ……宝石に彩られたカルパッチョなんてのはどうだろうか?
なかなかにインパクトがあるんじゃないか?
そうと決まれば、まずは【
サクサクっと薄切りにして水に浸す。
普通の新たまねぎと比べて雪玉ねぎは辛みが少なく、甘味とコクが凝縮している。とはいえ、しっかりと下準備して辛みは取り除いておく。
「鱗は一つ一つ、切り分けて……よし、これらを沸騰させた鍋に投入!」
すると固かった鱗たちは、プランツジェルのように一粒一粒がぷるぷるのゼリーみたいになってゆく。
それらをサッと茹でて、一旦はザルに入れて綺麗な湖に浸して冷やす。
キンキンに冷やす。
見た目もキラキラと煌めく宝石の一粒のようで美しい。
頃合いを見て、味見のために一粒ぱくり。
「あむ……んっ、ん……巨峰みたいだな……ん、こっちはマスカット、こっちはレモン……?」
口の中でぷつんっと弾けては、その味わいをとろーり爆発させるジュエリーフィッシュの鱗。
これはやはり、メインの魚肉や雪玉ねぎに添えて一緒に食べてもらえば間違いないぞ!?
料理を彩り、さらにスパイスにもなる。
「よしよし……そろそろ雪玉ねぎを取り出して、オリーブオイル、塩、黒こしょうをボウルに混ぜ込んでおく……これでマリネのように味が絡みやすくなるぞ」
それから宝石魚の身をうすーく切り裂いてお皿に盛りつけてゆく。
そこへ各種調味料の味がしみ込んだ雪玉ねぎをたっぷりと乗せる。
「さらに煌めけ、宝石の粒たちよ!」
ぷるぷるの宝石鱗をいくつも添えて、最後の仕上げにピンクペッパーを軽く振りかける。
「できあがりました。【宝石魚のカルパッチョ】でございます」
「わあ、なんだか華やかだね」
「ふしゅるるるるるぅぅ……確かに目を惹くものがあるしゅるうううう」
「こちら、お好みの宝石をぷつんとほぐしていただき、一緒に絡めることでより一層の美味しさがご堪能いただけます」
「なるほど。ゼリーソースみたいなものかな?」
「ふしゅるるるる。摩訶不思議しゅるるうう、このように食の形を変容させ楽しむ……芸術しゅるううううう」
「んん……マスカット風は、うん、不思議な味だね。すっきりと新鮮な味」
「ふしゅるるるるるぅぅぅぅぅぅう……
「巨峰風も、うん、新しいかな? なんだかジューシーだなあ」
「ふしゅるうううう、こんな美味しい魚の食べ方があったしゅるううううううう!?」
「やっぱりレモン風が一番しっくりくるね……んんっ、サーモンより断然、こっちの方が美味しい!」
「ふりゅるるるるるううぅぅぅぅ、これぞまさに芸術しゅるるるうううう!?」
「全部のソースを絡めると……んんっ、ん? ほのかな酸味とクリーミーさ、コクのある味わい! ど、どうしてサウザンドレッシングの味に!?」
「ぷりゅるうるるぬぬんうぬうんううぅぅ、芸術の極致しゅるううううううううう!?」
どうやら新たな芸術の世界を紹介できたようだ。
「しゅるるううううう、ナナシもアオイも、もっと宝石魚を捕るべきしゅるううう。もっとこの芸術を広めるべきしゅるううううう」
いたく感動したのか、【彫刻の大鬼ジュエル】は釣り道具を手渡してきた。
「これ、やる。あと、
「えっ、ボート?」
これにすごい反応したのは
リュックを背負い直して、いざ湖へ! といったポーズをとる。
それからゆっくりと俺に向き直り————
「ボート、デート……し、しろくん、いいよね?」
煌めく湖を背景に、
うーん……最高に可愛いな。
このシーンはぜひリスナーたちにも見せてあげたかった。
◇
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【宝石魚のカルパッチョ】★★★
色とりどりの宝石をまとうジュエリーフィッシュのカルパッチョ。一粒一粒が非常に美しい鱗を、
成分も美肌効果などの美容方面に特化しており、【美神ディーテルドール】の大好物であった。
基本効果……5時間、裏ステータス『美しさ』+50を得る
★……永久に裏ステータス『魅了』+30を得る
★★……永久に裏ステータス『美しさ』+30を得る
★★★……永久に裏ステータス『カリスマ』+50を得る
【必要な調理力:220以上】
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