55話 勝利の竜丼


「待って……! 2人とも、お願いだから……!」


 どうにか開きかけたドアを背中で押して、再び封印を施す俺。

 そんな必死の俺に、あおい夜宵やよいも何かを感じたのか動きを止めてくれる。


 俺は声を押し殺しながら早口で彼女たちへ状況を説明する。


「その、家族には【にじらいぶ】で働いてるのは秘密にしてて……だから、ほら、ビックリすると思う。うちの妹は【にじらいぶ】を知ってるらしいから……!」


「え、しろくんがどんなお仕事してるかご家族は知らないの?」

「言ってなかと!? じゃあ、んー……勢いでバレたら暴露されるやろか?」


「その可能性は……うちの妹たちに限ってないと思うけど、ここは穏便に済ませたい……!」


「んんーじゃあ、妹さんへのご挨拶は変身を解けば大丈夫かな?」

「妹ぎみ……しろ先輩の情報ばたくしゃん持っとー……?」


 んん、っと数瞬だけ考え込んだ2人はにんまり。

 そして変身を解除した。


「あ、ありがとう」


「いえいえ」


「よかよ。それよりも挨拶してよか?」


「あ、ああ」


 こうしてドア越しにいる義妹へと2人は扉を開く。


「うるさくしてしまってごめんなさい」

「ご迷惑ばおかけして申し訳なか」


 あおい夜宵やよいが真白に謝罪すると、我が義妹はちょっとだけ口をパクパクする。


「えっ……え!? お兄がこんなにっっっっ可愛い女の子を連れ込んでる!? しかも一人は真白ましろと同じ中学生ぐらいの子!? 犯罪!?」


「おい、真白……言い方がひどすぎるだろ。ほら、うるさかったのは悪かったからさ。挨拶、挨拶してくれ」


「わっ、えっ、わあああー……あ、はい。えっと、こちらの兄がいつもお世話になってます。妹の七々白路ななしろ真白ましろっていいます」


「こちらこそしろくんにはいつもお世話になってます。あたしは藍染坂あいぞめざかあおいと申します。白くんとはクラスメイト? です」


「白先輩には面倒みてもらろうてばっかで頭が上がらんと。うちは黒宮くろみや夜宵やよい、白先輩とは……同じ事務所の……? 仕事仲間ばい!」


「あー今日は楽曲作りを3人でしててさ。仕事の打ち合わせ? みたいなのも含まれてるって感じだ」


「ふ、ふーん……」


 微妙に懐疑的な視線を飛ばしてくる義妹。

 そんな真白へ、蒼や夜宵が気さくに話しかけてゆく。


「ましろちゃんかあ。かわいいね? 少しだけでもお話したいなあ」

「そ、そうだ! うちら作業続きで疲れたばい。一息入れたか! 真白ましろちゃんも一緒にどげんね?」


「えっ、真白は別に……まだ編集もあるし……」


「お、それなら飯でも食べながら休憩するか? 俺が作るよ」


「「「おねがいします!」」」


 三人は初対面なのに妙に息の合った返事をしたので俺は苦笑した。





「ましろちゃんは双子キャラでVTuberをがんばってるんだあ。なんだか楽しそう」

「本当ん双子やけん、合いの手入るータイミングとかもわかってそうばいね」

「はい。でも、なんてゆうか自分たちにこれだーって武器がまだわからなくて」


 なぜか真白とあおい夜宵やよいはすぐさま打ち解けているようだった。

 キッチンリビングにあるソファに座りながら、けっこうな勢いでトークが花開いている。


「んんー、そういうの探すのって————」

「ばってん、リスナーへのサービス範囲は————」

「わっ、たしかに! 参考になります……! でもどうしてお二人はそんなに詳しいのですか?」


「あたしたちもそういうの好きでね————検証系とか————」

「よくリサーチしとるばい————特に暴露系の————」

「まだ登録者が1万5000人だけなので————」


「個人勢で1万人超えはすごいと思うし、それなら————」

「コラボとかは考えたりしいへんの? うちやったら————」

「そういう考え方もあるのですね、ふむふむ————実は次の企画で————」


 さて。

 俺の方は料理を始めますか。

 今回のメニューはかつ丼!

 

 俺たちの作曲が勝つんだ! という縁起も込めてドラゴン肉をふんだんに使用した、かつ丼にする。


 まずは厚切りドラゴンロース肉にラップをかける。

 そして上から麺棒で適度にトントンと叩き、ひっくり返してトントン。


 この行程が肉のやわらかさをアップさせるのだ。

 それから軽く両面に塩胡椒をかけて下味を施す。


 次に薄力粉をまとわせ、溶き卵にひたし、パン粉をまぶす。

 あとは揚げ油をフライパンに入れて火を通す。

 

 きらきらと光る油が十分に熱しられたと判断したところで、ドラゴンロースを投入!

 バチバチバチィィィっとロースの産声が上がる。


 じゅぅぅぅぅわわああああっと重厚な音色が響けば、肉におもむきある味わいがつく瞬間だ。

 表面に次々ところもが色づき、ザックリとした食感が容易に想像できてしまう。


 5分ほど揚げたところで、クッキングペーパーに置いて油分を取る。

 それから包丁でザクッザクッと、食べやすいサイズに切り分けてゆく。


「あとは秘伝のタレを作っていくう!」


 まずは玉ねぎを薄切りにしてフライパンに投下。次にさっと水を追加して、醤油とみりん、砂糖と和風だしの素を融合! 


「————【嵐神の暴風ストームシェイク】!」


 黄金比率で極上タレの完成、からのぶくぶくと煮たせてゆく。

 そして今回の主役!

 衣をまとったドラゴンロースを、極上タレに乗っけてゆくうう。

 さらに仕上げは、まろやかな味わいが引き立つ溶き卵の参戦だあああああ!

 

 竜肉がじゅんわりと黄玉色トパーズを付き従えてゆく様は、まさに究極肉の威厳に満ち溢れていた。

 そして偉大なる竜肉が舞い降りるにふわさしい場所は、無論ふっくらと炊きあがった純白に艶めくごはんだ。

 おさまるべくして、ほっかほかのドラゴンロースがご光臨された。



「よし完成だ。おーい、できあがったぞー」

「それで、しろくんって今まで彼女いたことあるの?」

「いないと、思います」


しろ先輩の好みとか知っとる?」

「好みかどうかは知りませんが……前にスマホで巨乳の裏アカ女子を見てて……ちょっとキモかったなって」


「銀条さん……つよし、ね」

「うちは発展途上ばい!」



「おい、真白ましろ……おまえ、何言っちゃってんの?」


「え? だってほんとのことだもん」


「そうか。お前にだけはこの特製かつどんはやらん!」


「おにいは世界で一番かっこいいあにです。みなさんお兄をよろしくお願いします」


「っこの、お調子者め……」


 そんなわけでざくっと肉厚、じゅわっと優勝! 竜かつ丼を3人分、テーブルへと置いてゆく。箸と麦茶の準備は真白ましろがやってくれた。


「……わああ……匂いもたまらなかったけど、ほわほわだあ……」

「……ふわりと雲みたいに卵が仕上がっとるばい」

「食べごたえすっごくありそう」


「「「いただきます!」」」


 三人はまだ熱が冷めやらないかつ丼をふーふーしながら一心不乱に食べてゆく。


「はふっ……ふーっふーっ、んぐっ……深い、深いよぉ……カツのお味とお醤油の旨味がご飯にしみ込んでて、深いよぉ……」

「はぐっはぐっ……ふーっ、ふーっ、全部んお味が混じゃる、これが美味の原点や!」

「もぐもぐもぐ……もぐもぐ……ザクザクからのじゅわっとやわらかお肉……シンプルにカツがおいし! カツしか勝たん!」


 どうやら三人は大変ご満足の様子。

 お腹いっぱい幸せいっぱいといった表情で、麦茶を豪快に飲み干していた。


「なんだかおにいの作るご飯って、たまーに食べた後すっごいみなぎるんだよねー。ありがと! 編集がんばってくる!」


「あたしたちも負けてられないね! がんがん編曲してこ!」


しろ先輩……! 曲ができあがったら、うちを褒めてくれると?」


 夜宵やよいにもちろんだ! と言ってやろうとする前に、真白ましろ夜宵やよいの背後へと回り耳元へポソリと呟く。


「やよちゃん……お兄は巨乳好きだよ……」


「きょ……くうぅ……しろ先輩……次はうち、鳥肉料理をいっぱいたべとーばい……! あ、あと、大豆? たんぱく質……? それからえっとバストアップにいい食べ物は……」


 おい、真白ましろ

 おまえ、ちょっとこっち来い。

 兄妹水らずで少しばかり大事な話をしような?




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【勝利の竜丼】★★☆

『赤竜フラムド』のロース肉を豪快な衣で、サックリと仕上げた絶品かつ丼。

どんな苦境に立たされても、このカツどんを味わえば尽きぬ情熱が芽生える。

運命神は言った。『運命に抗うなんて容易なことじゃ。このカツどんを食せばよい』

勝利の女神は言った。『約束された勝利? それはこのカツどんで結ばれよう』


基本効果……3時間、特殊技能パッシブ『情熱』が発動する

『情熱』……あらゆる困難においても心が折れない。精神系の状態異常を無効化する。


★……永久にステータス命値HP+1 色力いりょく+1を得る

★★……3時間、特殊技能パッシブ『英雄の燃焼』を得る。

『英雄の燃焼』……命値HP4ダメージ以下を受ける度に、ダメージを燃焼して即座に回復する。さらにダメージ=やる気へと変換する。


★★★……特殊技能パッシブ赤竜の息吹きフラムド・ブレス』を習得

『赤竜の息吹き』……信仰MP5消費して、鉄をも溶かす炎熱を吐く。威力と範囲は色力いりょくに依存する。


【必要な調理力:290以上】

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