46話 土下座配信


「そなたらが冒険者ギルドの者か」


【竜骨の城ホワイトライン】の司令室へ案内された俺たちは、禍々まがまがしい鎧に身を包んだ3人の青年たちと相対している。全員がヘルムを被ったままでその素顔はうかがえないが、鋭い眼光だけは俺たちを捉えていると主張している。

 彼らが醸し出す雰囲気はまさに歴戦の猛者でありながらも、洗練された上品な動きで椅子にかけてくれと促してくる。


「まずは我らが【竜喰いの騎士】の声に応えてくれて礼を言う」

「【我らが竜鳴に賭けて】」

「【我らが竜鳴に賭けて】」


 彼らの文句台詞に首をかしげる【百騎夜行】や【六華花魁りっかおいらん】の面々。

『自分たちがほふる竜の悲鳴に賭けて、感謝の気持ちは本気である』と言っている。ここでも技術パッシブ【万物の語り】が有効で、少しだけホッとした。

 正直に言えば目の前の三人とは、敵対してはいけないと俺の中の何かが警鐘を鳴らしているからだ。

 意思の齟齬そごが生じて、万が一にも険悪になる可能性は少しでも削っておくべきだ。


「きるる様……彼らは非常に感謝している、と申しております」


「翻訳ありがとう」


「さて、冒険者諸君への依頼内容の確認をこの場で伝えよう」


「ちょっとまちなんし」


【竜喰いの騎士】に待ったをかけたのは【六華花魁】のリーダー格らしき女性だ。


「仕事仲間に顔も見せずに話を進めるだなんて、失礼でありんせん?」


「我らがこの身につけた鎧も兜も、脱がされる時は死ぬときのみ」


「【我らの竜鳴に賭けて】」

「【我らの竜鳴に賭けて】」



 絶対に脱がないと宣言する【竜喰いの騎士】に顔をしかめる【六華花魁】の面々。

 んん……すごい要約されているな。

 これは【六華花魁】のスタンス的に揉め事が起きるかもしれないので、先制して意訳しておべきだと判断する。


「……どうやら、【竜喰いの騎士】たちは自分が屠った竜で武器防具をつくり、それを身に着けるのを誇りとしております。ですので、いついかなる時も他人の前では絶対に防具は脱がない風習があるようです。その誇りが屈する時、すなわち死ぬとき以外ありえないと」


「…………あの短い門答で、よくそこまでわかりんすね?」

「適当をうそぶいてるでありしゃんせ?」


「「「その者の言葉に偽りはない! 我らが竜鳴に賭けて!」」」


 その覇気だけでビリビリと空気が揺れる。

 さすがの【六華花魁】もこれには口をつぐんだ。



「えっと、それでクエストの内容を確認してもいいかな?」


 ユウさんが話の先を促せば、即座に【竜喰いの騎士】たちは異様な重圧感を霧散する。



「ここ度重なる【竜たちの行進】により、【竜骨の城ホワイトライン】の一角が崩れ始めている」

「我らが討伐対象は【無限つなぎの白竜ホワイト・ウロボロス】、ただの一頭」

「この【竜骨の城ホワイトライン】の基盤になった巨竜と同種だ」


「かつて言い伝えられている個体より遥かに小さい……とは言え、脅威には変わりない」

「【無限つなぎの白竜ホワイト・ウロボロス】は我々に任せてほしい」

「ただ、他の竜族の相手をそなたらには対応してもらいたい」


 どうやら複数の竜が頻繁に攻撃を仕掛けてきており、ボス級は【竜喰いの騎士じぶんたち】が狩るから、それ以外の竜種を撃退してほしいといった依頼らしい。

 今までは他の竜からの攻撃に防衛戦力として、【竜喰らいの騎士】を1人か2人は割かなくてはいけなかったので、なかなかボスを仕留め切れなかったらしい。それを冒険者の協力を請い、3人で集中的に攻撃すれば狩り切れると判断したらしい。

 というか、たった3人でこの長大な城を防衛してきたことに驚きだ。

 いや、もちろん彼ら以外にもここに駐屯している兵士っぽい人達はいる。それでも規模的に見れば100人に満たない少数なのだ。



「もし勝利できれば、【巨竜の城ホワイトライン】に二重防壁が作れるかもしれない」

「もちろん、そなたらへの報酬は用意している。一つは金貨5000枚。これらを1人1人、等分とうぶんしてほしい」


「5000枚!?」

「なんたる大金かや……」

「すごいわね。今の金貨の価値を考えれば相当な額よ」


 Lvを上昇させたり記憶量を増やすには金貨が必要なのだが、現在ではこの金貨の入手が非常に困難である。

 そのせいで未だに最高ランクの冒険者でもLv20前後止まりなのだ。

 5000枚をこの場の全員で等分すれば、1人357枚ずつになる。一気にレベルを2~7も上昇できる量だ。



「さらに、この依頼が成功したあかつきには……【黄金領域】と【白亜はくあ領域】にいる【竜喰いの騎士】がそなたたちを同胞と認める。竜討滅の同志として必ずや力を貸すだろう」


 聞き慣れない単語に俺たち冒険者一同は首をかしげる。

 黄金領域は神々が復活して、人の領域として栄えた地を指し示す。

 だが……。


「白亜領域……? ゲーム時代でも聞いたことない領域名だね……」

「クラン・クラン時代にも、多分ないぞ」

「パンドラ時代でもなかったと思う……その白亜領域って————」


 タロさんがみんなの代表として質問しようとしていた矢先、【竜喰いの騎士】たちの雰囲気がガラリと変わる。

 いつの間にか手には豪槍を持ち、三人全員が起立した。



「————どうやら来たようだ」


 何が来たのか。

 そんな疑問を挟む余地などなかった。

 彼ら【竜喰いの騎士】は疾風となって城壁へと踊り出てゆく。


 俺たちも急いで城壁へと張り付く。

 この長大すぎる城の全てを守り切るのは無理だが、竜が来る場所にピンポイントで配置につけばギリギリ対応できるかもしれない。



「なんだか、寒くなって、きたわね……」


 急激に気温が下がってきている。

 そして東向こうの一帯が白く染まり始めているのに気付く。

 またたくまに白い何かが、東方面の城壁へと近づいてゆくので、俺たちも全力で移動を開始する。


 そして数十秒後、その正体が一体なんなのか理解した。

 しもだ。霜が走っている。

砂の大海サンドブルー】に芽吹き始める霜の領域。



「グルゥゥゥゥゥゥゥッ」


 ヤミヤミを背中に乗せていたフェンさんが急激に巨大化を果たす。


『どうしたフェンさん』

『ちと厄介な者が近づいてきておるぞ』


『厄介?』

『世間知らずの稚児ちごだの。どれ、軽く遊んでやるとするか』


『いや、フェンさん。今回は俺たちと一緒にいてくれない?』

『ほう。その見返りは?』


『俺のご飯でどうだ。しかも今回は竜がたくさん取れるかもしれないだろ? そしたらスペシャル豪華な竜肉祭りを開催してやる』

『その話、のった』


『くきゅー?』

『ん、竜の卵には興味ある? わかったよ、きゅーにもあげるさ。どっちが多く狩れるか競争して夢中になりすぎないようにな』


『誰に物を言っておる。我、神喰らいぞ? 竜など一噛みぞ』

『くっきゅー』


 胸ポケットから出てきたきゅーも、フェンさんに続いてその巨体を顕現させた。

 同時に【青い大海サンドブルー】の砂中から姿をゾクゾクと現す竜たち。その中心には白蛇のように長大な個体が一頭だけ見える。

 新幹線の二倍はありそうなサイズ感で、遠目からでもその迫力は尋常じゃない。

 

 今回はアレを相手にせずに済むのはよかったと思う反面……。

 他の竜たちの中には、きゅーやフェンさんと同等の巨体を誇る個体も散見される。


 常人であれば萎縮してしまう光景が迫るなか、手首きるる、ぎんにゅう、海斗そら、そして闇々よるがスッと前に出た。

 あ、ヤミヤミはけっこう足が震えてる。



「ナナシちゃん。配信、スタートよ!」


 そんな恐怖を塗りつぶす情熱の赤が、リーダーであるきるるんが宣戦布告の火蓋を切った。


「承知いたしました」


 そうして配信を始め——————

 んっ?


 なぜか隣にいた【六華花魁りっかおいらん】の女性たちがそろいもそろって、口をパッカリと開けて驚愕している。

 しかもなぜかその場で平伏してしまった。



「「「「「「きゅっ、九尾様のお連れ様とは露知らず、若輩の身でありながら数々のご無礼! どうか許しておくんなし!」」」」」」


 えっ、ちょっ、配信始めちゃったぞ!?


 こうして竜たちが迫り来る中————

 上位冒険者パーティーである【六華花魁りっかおいらん】が【にじらいぶ】に土下座する絵面から配信は始まってしまった。


 初手からカオスすぎる配信が幕を開けた。






闇々ヤミヤミよる 変身後ステータス】


身分:魔法少女/未来姫みらいき/夜姫よるひめ

Lv :3

記憶:3

金貨:7枚


命値いのち:1(+2)信仰MP:2 (+2)

力 :1(+1) 色力いりょく:2(+1)

防御:2(+1) 俊敏:2(+2)


【スキル】

〈魔法少女Lv1〉

〈先読みの魔眼Lv1〉

〈夜魔法Lv1〉


技術パッシブ

〈記録魔法Lv2〉〈情報探知Lv1〉



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