45話 天使光臨


「きみ、綺麗な顔してるな」


【竜骨の城ホワイトライン】に到着して早々に俺は話しかけられた。

 それも超がつくほどの……美少女すぎる美少女にだ。


「ふむ、かっこいい。もそういう風に生まれたかったよ」


 自分を『俺』呼びする美少女……いわゆる俺っ? さんにたじろいでしまう。

 年齢は多分……夜宵やよいより一つか二つ下、ちょうど中学生になりたてといった幼さが色濃く残る容貌だ。

 白銀の長髪をさらりと耳にかきあげ、蒼穹の瞳で俺を見つめる彼女は————

 まごうことなき天使だった。



「おい、タロ。いきなりナンパかよ」

「そうだよタロ。【にじらいぶ】のみんなも困惑しちゃってるじゃないか」


「あっ、いや! ちがくて! 俺が何を言いたいかというと、羨ましいってこと。こんなに可愛いたちに囲まれてさ。俺の方なんか、ほら、むさい2人がうるさいんだよ」


 タロと呼ばれた銀髪の美少女はクスクスと笑いながら、長身の男性2人を揶揄やゆする。


「こんなチンチクリンの戯言は放っておいていいぜ。俺は傭兵団クラン【百騎夜行】の副団長、日暮ひぐれ晃夜こうやだ。気軽にコウとでも呼んでくれ」


 知的な黒髪メガネイケメンさんが握手をしてくれる。

 うあー大学生のお兄さんって感じだ。


「僕は傭兵団クラン【百騎夜行】の団長、朝比奈あさひな夕輝ゆうきだよ。今回のレイドクエストを、話題の【にじらいぶ】と共闘できるって聞いて楽しみにしていたんだ。ユウと呼んでくれたら嬉しいかな」


 爽やかな笑顔でこちらを立ててくれるあたり、コミュ力お化けの予感だ。

 イケメン大学生の余裕や懐の深さを感じる。


「俺は訊太郎じんたろう仏神宮ふつじんぐう訊太郎じんたろうです! みんなはタロって呼ぶぞ」


 まっぶしい。

 仮にも推しがいる俺に、推し変を迫ってきそうな笑顔にくらくらする。

 彼女から伝わってくるまっすぐさに、どうにも酔いそうだ。


 彼女……名前からして女子っぽくないので、ワンチャン男のという線も捨てきれないが……直で見てしまえばわかる。女性特有の可憐さにあふれまくっているのだ。


 俺がタロさんの輝きに当てられてるなか、【にじらいぶ】としてきるるん筆頭に挨拶を交わしてゆく。

 今回レイドを組む上で、協力する冒険者についてあらかたの情報を調べている。

傭兵団クラン【百騎夜行】……最強の一角、最強の規模、最強の踏破率。

 そんな前評判の割にすごい気さくだ。


 そして【天導の錬金姫エル・アルケミスス】と言えば、【黄金双極】か【絶双ぜっそうの騎士】と必ずセットで行動していると聞いてたが……【黄金双極】の方は金髪の美少女2人だと耳にしているので、今回は2人の美青年を見る限り【絶双ぜっそうの騎士】だろう。


 さらにヤミヤミの収集した情報によると、タロという少女は……かなり横の繋がりがエグいらしくて、絶対に敵に回してはいけない人物だと【にじらいぶ】内に共有されている。あとは……2年半前まで男子高校生だったとか、性転化病を患って幼女になってしまったとか、よくわからない話もある。

 まあ俺も女体化ポーションなんて作れちゃったし、案外本当の話なのかもしれない。


「いやー傭兵団クランを名乗っておきながら、今回は最初から出張れるのが僕らだけだったんだ。そこは申し訳なく思っているよ」

「早い話、心配はいらない。ジョージらなかまが増援として駆け付ける予定だ」

「みんな別件で忙しくてさ。ごめんな?」


「本当に不愉快ふゆかい極まりんす」


【百騎夜行】の挨拶によって作られた和やかな空気を、一瞬で破壊したのはキツネ耳のお姉さんたちだ。

 あ、少女もいる。


「【にじらいぶ】のみなさんには常識というものは通用しなんし?」

「まさかこれほど待たされるとは……予想外でありんす」

「下の者が上の者より後に来るなんて、芸が足りんす」

「芸なんてありしんす?」

「能無しの間違いでありんすね」

「まこと、わちら六華りっかに比べたらはなのない小娘ばかりだこと」


 6人の和服美人、和装美少女ことキツネ耳のお歴々は口々に俺たちに鋭い指摘を浴びせてゆく。

 遅くなってしまったのはこちらに非があるので、きるるんを筆頭に俺たちは頭を下げた。


「うちら三尾さんびが本気になれば人間なんてちょこざいな」

「四尾や五尾の姉様たちならいざしらず」

が高いでありんす」

「せいぜいあてらの足を引っ張らないでくりゃしゃんせ」

「上下関係はきっちりしんす」

「これに懲りたら舐めた態度を改めしんす」



 うわー……。

 こっちは噂通りだ。

 上位冒険者パーティーの【六華花魁りっかおいらん】は、『妖狐フォクシア』という種族で構成されている。

 妖狐フォクシアはモンスター側に属する者もいて、その尾の数で序列や強さが決まる種族だ。そして妙齢の妖狐フォクシアであれば人化、つまり変化の術もお手の物らしく、彼女たちは『三尾の妖狐フォクシア』でありながら冒険者側で活動している。


 それはとても心強いのだけど……とにかく人間を下に見る、高圧的な態度を取るらしい。

 どうしてそんな風なのかはわからないけれど、元々敵対していた種族なのだからそれなりの遺恨があるのかもしれない。


 そんなピリついた空気に終止符を打ったのは【天導の錬金姫エル・アルケミスス】だ。


「まあまあ、【にじらいぶ】のみんなもこうやって謝ってるわけだし。それに集合時間に遅れたわけでもないんだから。これから共闘する仲だし、始めからモメてたらよくないぞ」


 小柄な美少女が【六華花魁りっかおいらん】と【にじらいぶ】の間に割って入ったことで、これ以上の追撃は阻まれたようだ。

 しかし、突如としてタロさんのにこやかな笑みがスッと消える。


「それと舐めてる、というかあなどってるのはどっちだろうな?」



 代わりに絶対零度の表情が現れ、【六華花魁】の周囲だけ氷点下になった寒気を覚える。

 お、おう……。

 美少女ほど凄むと怖いって聞くけど、たしかにこれはオーラが半端ない。



「一緒にレイドを組むパーティーの情報収集は、ちゃんとしておいた方がいいと思うぜ?」


 彼女は不意に俺の胸ポケットに視線を寄越した。

 それからコウ君とユウ君がなんやかんやで場をおさめてくれ、作戦前に少しだけ互いを知る時間が得られた。

 俺はきるるんの命により軽食というか、ミノタウロス肉の【雪羊のチーズ牛丼】とハイオーク肉の【雪とろろ豚丼】をふるまった。六華花魁たちは『遠慮しんす』と受け入れてくれなかったものの、タロさんとユウくん、そしてコウくんの三人は美味しそうに平らげた。

 これは上位冒険者への宣伝と、今後の付き合いも考えて貢物みつぎものってやつだ。



「なるほど……これはすごいな。ありがとう……!」

「へえ、早い話、美味いだけじゃないってか」


「新たなる可能性……錬金術に通じる何かを感じるぞ!? どうかな? 今度、俺のアトリエに来てみない!?」


 うっ、3人がまっすぐに向けてくる曇りなき瞳がっ!

 まぶしくて直視できないっ。





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【雪羊のチーズ牛丼】★★☆

食べ始めたら終焉を迎える。

とろっとろチーズの濃厚な味わい、そしてミノタウロス肉の旨味が口の中で追いかけっこを始めてしまう。まさに美味の無限ループに陥るからだ。

気付けば完食してしまう絶品だが、気付かぬ間に怪力を手にしているので食べ扱いに注意。また、雪羊特有のぬくもりも継承している。


基本効果……3時間、ステータス力+3を得る

★……3時間、特殊技術パッシブ【灯る雪】を習得する

【灯る雪】……信仰MPを3消費して、【夢の雪国ドリームスノウ】に降り注ぐ、暖かな雪を降らせる。

★★……3時間、物理攻撃ダメージと青魔法ダメージ+30%を得る

★★★……永遠にステータス力+3を得る


【必要な調理力:200以上】

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【雪とろろ豚丼】★★☆

こってり甘辛な豚肉を、雪とろろと一緒にいただくことで風味の芸術が奏でられる。

コク深い余韻からサラリとした味わいが広がり、瞬時にして疲労回復する。

旨味と共に、ファイアオークと雪とろろの耐性力が体内を駆け巡る。


基本効果……3時間、ステータス信仰MP+3を得る

★……3時間、赤魔法ダメージ+30%を得る

★★……3時間、火傷耐性(中)と凍傷耐性(中)を得る

★★★……永久に裏ステータス赤魔法耐性+5、青魔法耐性+5を得る


【必要な調理力:220以上】


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