44話 幸せのからあげ棒
レイドクエストが
というか、俺が一番遅かったようだ。
「執事の分際で私を待たせるなんて死罪に値するわ、ナナシ」
「
「やっほー
「……………ッ!? …………! ナナシ姉様……? 少し背が高うなったと?」
「あっ、今日は
ロングツインテールの美少女中学生が俺を見て少しだけ首をひねる。
その怪訝な反応に俺はハッと思い当たる。
そういえば事務所加入のバタバタから、まだちゃんと互いに自己紹介をしてなかったのだ。
「あー、俺の本名は
「おうじ……? えっ? 声が……低い……?」
「ん?」
さらに首を深く曲げる
なんかこいつ背もちっちゃいし、たまに小動物っぽくて可愛いんだよな。
「えっと……ナナシ姉様のご兄弟、やろうか?」
「え、何言っちゃってんの?」
そんな俺と
「うちの執事は両性具有よ!」
「え、何言っちゃってんの!?」
そこで俺はようやく
まさか、と思って
こいつ……
「あの……俺、男なんだよ」
「えっえっ、でもっ、お、おぱいとか!? あったやん!」
「あれは一時的な肉体変化でな?」
「えっ、えっ、えっ、に、【にじらいぶ】の闇!」
「暴露してかまわないわ! 話題になるわよ!?」
「えっ!? ばってん、そ、そういう系は……LGBTとかで、最近はセンシティブやから……」
「あら、ひよっているのかしら? そうよね?
「え……何言っちゃってんの……」
うん、ちょっと大人気ないというか……おいおい、闇々が俺を見ながらワナワナ震えてるし、頬も真っ赤になるほど激怒してるじゃん。
若干、目もうるんでないか……?
ん、この表情って……怒ってる、よな……?
あーあー、中学生相手に
仕方ないから俺は、背の低い
それからなだめるように頭をポンポンしてやる。
「そう怒るなって。騙すような形になって悪かったと思ってるよ。
「…………そげな反則だっちゃ」
「ん? 反則?」
「……………」
すぐにだんまりしてしまう
これは本格的に怒ってそうだ。
「
「…………」
「おーい、
「…………やよい」
「ん、やよい?」
「……
自分の名前をぶっきらぼうに言うと、闇々はすぐにぎんにゅうの後ろに隠れてしまった。それでも俺の方をチラチラと見てくるものだから……余計に小動物っぽく感じてしまう。
きゅーを少しヤンチャというか、生意気にしたような感じだろうか?
「ぷーくすくす。人の暴露ばかりしてる生意気なメスガキが、何おかしな態度とってるのよ。まるで憧れの先輩に会って緊張しちゃってるみたいじゃない。ぷーくすくす……? ねえ、本気で照れてるとかじゃないわよね? 仮にも暴露系としてナナシを女子だと勘違いした、自分の情報収集の甘さを恥じているのよね?」
「
「んー、今はよるも【にじらいぶ】の一員だしね? 圧が強すぎだよ、夕ちゃん。でもまー、シロくんにそういう反応するのは意外だなー」
「ま、まあ? メスガキがどうしようと、うちの執事が相手なんかするはずないもの」
やけに高圧的な
「そういや、【にじらいぶ】恒例の新メンバー加入祝いのご飯会やってないよな?
「あっ、えっと……か、からあげ、食べたか」
「おー、からあげかあ。ふむふむ」
「ちょ、ちょっと!」
「なんだよ
「そっ、それはするわよ!」
なぜか不機嫌そうに不貞腐れる
まあこいつもうんまい唐揚げを口にすれば機嫌も直るだろう。
とりあえずレイドクエストの説明まで時間もあるし、それまでにちゃちゃっと料理でもしちゃいますか。
◇
『へっへっへっ』と可愛らしく舌をだす、ちんまいもふもふ姿に騙されてはいけない。
あの子犬は……神をも噛み殺す氷狼フェンリルさんご本人である。
「か、かわよかあああ」
「ワフッ」
しかし、
ちなみになぜフェンさんを召喚したかと言えば、今日のから揚げはフェンさんが防衛戦時に仕留めた『
【宝物殿】にあるフェンさんの獲物を俺が使ってもいい代わりに、調理する際は必ず呼ぶとの約束になっている。
ちなみに『
そしてきゅーはなぜか竜系の食べ物は好きじゃないのか、今は俺の胸ポケットにひそみながらぐっすりと眠りこけているようだ。
「レイドクエストの前だから、軽めの量でいくぞー」
まずは『
それから……んー、すりおろし生姜とすりおろしニンニク、味に深みが出る料理酒、みりん、そしてコク旨醤油、仕上げに風味豊かなゴマ油を連想する。
「————【
ボウルには闇と黄金が混じり合う、まろやかな味の源泉が沸き上がる。
うーん、食欲をそそる香りが俺の
ごま油の
さて、完成した液体にもも肉をひたす。
そしてもみもみもみ。
できれば一時間ほど味がしっかり沁みるようにしたいのだが……ふむ、試しにアレを使ってみるか。
「————【
食材の時間経過を自在に操る
下手すると食材が腐ったり、もしくは状態が巻き戻って種になったりするかもしれない。そんな失敗した時のリスクを考えて今まで使用していなかったが、今回は食材も豊富だし万が一があっても大丈夫だろう。
「よし、きっかり一時間に……調整できたか?」
もも肉はほどよい色合いに染まっており、下地の旨味が十分にしみ込んでいる。
それらに片栗粉をまぶす。
もも肉の白きベールを纏った花嫁衣裳に感慨深いものを感じる。
父さんは、父さんは……お、おまえをっ、嫁に行かせるなんて、みとめな————
えええい、ぶちかませえい!
サラダ油を熱した鍋に、花嫁を投入。
ジュワーっといい音が鳴り響く。
もはや耳が心地よい
「おっと、今回はこだわりの『二度
温度を170度前後に調整しながらまずは様子見だ。
一つ一つを丹念に揚げてゆくためにも動かざるごと山のごとし。
というのも、こんがりと揚げ色がついた頃にもも肉を返すのが最高だからだ。せっかくの綺麗な花嫁衣装も、焦っては崩れてしまうというもの。
それから
「その隙に第二陣を投入!」
第二陣を揚げ終われば、真骨頂の二度揚げだ。
今度は火力を190度近くまで上げてから、丁寧に丁寧に揚げてゆく。
てゅぽんっ、じゅわぁぁぁー、ころんっ、ころんっ、じゅぅぅぅぅぅ。
一度目の揚げかたよりも、やや頻繁に肉を転がしてゆく。
この二度揚げ方法によって、ガッツリと味のついたザクザク食感が楽しめるぞ!
「よし、あとは前回のBBQで使った
ぷつりと————わずかに肉汁がしたたる。
そんな黄金から揚げ棒の完成だ。
「おまたせ、
「はわわわぁぁぁぁ……」
よだれを垂らすツインテールの美少女は、もはや暴露系で人を断罪する影が薄れ切っていた。完全に食いしん坊さんの表情をしている。
それは彼女の隣にいるフェンさんも同じで、神喰らいの威厳なんて欠片もない。
「いただくばい! シャクっ、シャクっ、もぐもぐ……うまかぁ……」
「ヘッヘッへッ、はぐはぐはぐっ、わふわふっ……アオォォォォォォォン!」
「んくっ、んんっ……肉汁じゅわ~です!」
「食べ歩き、なんてはしたないと思っていたけれど…………あむ、あむ……これは……美味しいわ……サクッとした衣と、しっとりとした食感……揚げたては格別ね!?」
「んー、んんっ……! 最高だね! カリっと香ばしい、神食感だよ……!」
うんうん。
みんなの満足そうな笑顔が見れて、俺も大満足だ。
それから俺たちはから揚げ棒を片手に、レイドクエストの説明を受けれる黄金領域へと向かう。
「んんー……食べたら眠うなってきた」
「わふっ」
なぜか
フェンさんは構わず、トコトコと歩み続ける。
もふもふと揺られる
そんな牧歌的な光景は……なんかこう、フェンさんには絶対に言えないけど、傍から見たら羊が少女を乗せて散歩してるように見えるのは俺だけだろうか?
いや、俺だけではなかった。
「ま、まあ? 今日ばっかりは大目に見てあげるわよ」
「黒宮ちゃんはやっぱりまだまだ子供っぽくて可愛いです」
「やよはあたしたちと比べて身体が小さいからね。少量でも消化に体力つかってるのかな?」
ああ、そこはかとなく推したちの尊い母性愛を感じるぞ。
そんな彼女たちを視界に収めておくのも忘れない。今回は配信こそしてないけれど、録画はしてある。
「もう食べれんとぉ……むにゃむにゃ……
ふっ。
可愛らしい後輩ができたもんだ。
よく見ると口からよだれ垂れてるし、
これからは他人の悪事ばかりを晒すのではなく、自分の可愛らしいところもどんどん晒していっちゃうんだろうなあ。
なんて
「ここが————【竜骨の城ホワイトライン】」
白い地平線と呼ばれるのも頷ける、圧巻の長城だ。
そして城壁の上には俺たちを見下ろす一団が見受けられる。
逆光でよく見えないが……白、いや、輝く銀髪をなびかせる少女が俺たちに手を振っていた。周囲には長身の男性や女性もいて……ん!?
あれは、ケモ耳女子もいるぞ!?
「————【
「【
「一番新参のあたしたちが最後に到着だもんねー」
「はわっ、……もうついとーと?」
【にじらいぶ】にほんの少しの緊張が走る。
なお、一人は眠りこけていた模様。
◇
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【極上ジューシー小竜から揚げ棒】★★★
ザクザクの
『
天におわしめす神々もお忍びで人間界を見回る際、そのお供にからあげ
基本効果……3時間、ステータス命値+1、防御+2を得る
★……
★★……永久にステータス防御+1を得る
★★★……特殊
【飛べない竜】……衝撃による吹っ飛び率を大幅に軽減する。
【必要な調理力:130以上】
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