42話 夜の恋


:ヤミたん無事でよかったあ

:助けられたな

:ナナシちゃんかっけえ……

:いや、まじで惚れた

:推しを守る勇姿ゆうし、アンチすらも救い出す度量の広さ

:マジで天使やん

:翼生えてるしな

:天翼の美少女(巨乳)


 うちの配信は【にじらいぶ】の執事ば賛美するコメントが大半やった。

 そんなん、そうやろ。

 あげん恰好よかところ見てしもうたら惚れてしまうけん。

 

 もしナナシ姉様が男やったら・・・・・、うちゃ確実におちとった。

 だってうちは攻撃されることは多くても守られるなんてことはなかったけん。普段やってることがやってることだけん、誰かに恨まれたりするのは仕方なかと。


 ばってん、こげなふうに無条件で守ってくれる人はおらんかった。

 やけん、白い花が舞いちるなかでナナシ姉様がうちゃ守ってくれる姿はぐっときたけん。


「ヤミヤミ様。今日はこのような事態になりましたので、インタビューを終わらせていただいてもよろしいでしょうか?」


 汚れ一つない純白の長髪を揺らしながら、うちにそんな許可を取ってくるナナシ姉様。

 礼儀正しか。

 きっとナナシ姉様の心は、あの白髪のように綺麗なんやろな。



「はい、ナナシ姉様」


「………………ねえさま……?」


 不思議そうに首を傾げる仕草も好きとーよ。

 この人がおるならきっと、そらは大丈夫。安心ばい。


【にじらいぶ】の暴露配信ばするって言いだしたんな、本当はそらが心配やったけん。。

 そらを勧誘した理由には、ものすごく悪どい狙いがあったんとか、そらの知名度を利用するだけの事務所なんかもしれんって。

 モンスターと戦ってみぃ無茶言うたんも、本当に彼女たちがそらを守れるだけの、そらが安全におるだけの実力があるとか心配やったけん。


 それに……こげな楽しかったんな、いつぶりやろう。

 少しだけそらが羨ましか。


 少しだけナナシ姉様の言うた言葉が胸に響くとよ。



『誰かの【推し好き】をけがそうとする貴方は、ゴキブリよりも汚い人間です』


 うちゃ多分、汚いゴキブリや。

 カサカサコソコソと人ん弱みを嗅ぎ漁って、これからもずっと日陰ん住人や。


 最初は承認欲求に踊らされとったと思う。

 みんなが喜ぶのが楽しくて、求められるのが気持ちようて、どんどんエスカレートしていったけん。


 成功者が転落する姿を、裏でやっとった悪事を、みんなと一緒になって吊るし上げるのは楽しかったし、快感やった。

 まるで自分が正義ん味方みたいになれたんやって思えた。

 ばってんそげんのは最初だけ。



 もう、今ではしとうなか事だらけ。

 誰かをこき下ろそうと躍起になるとは疲れるし、つらか。


 暴露する対象を調べれば調べるほど、こん人が今まで頑張ってきたこと。一生懸命に上を目指しとったこと。そげん積み重ねを壊すことが、うちゃ辛くなってった。

 それも自業自得やけん。



 ……今日みたいに心の底から楽しめる日なんて、もうのうなったばい。


 ばってんここでやめてしもうたら……じゃあ、うちが今まで壊してきたもんは何?

 責任は?

 最初からやらなよかったやんって話になるやろ?



 うちの暴露配信は誰かの好きを貶める可能性がある。

 ばってん悪い事は悪い事。


 誰かの夢を壊すかもしれん。ばってん、人はまた新しか夢を見れるけん。


 有名人に騙されて、利用されて、お金を出し続けて、搾取されるだけん悪夢なんか……うちゃが壊すけん!

 うちはうちの覚悟を貫き通すばい。




「ねえ、よる。今の配信スタイルが辛かったりする?」


「……!」


 お互いが配信を切った途端、そらがうちの内心を見透かすような質問をしてくる。

 ああ、そっか。

 うちがそらを見てたぶん、きっとそらも……うちを見よってたんやろうな。


 ばってん、うちはもう決めとーけん。



「……辛いかどうかはおいて、こんスタイルば辞める気はなかばい」


「辛いならやめてもいいかと。積み重ねてきたスタイルを放棄するのは難しいけれど、でもやりたくないのでしょう? だったらやめましょう。わたしも暴露系はそんな好きではありません」


 ナナシ姉様までも、うちゃ決意を揺るがしてくると?



「ばってん……じゃあ、うちが暴露配信をやめたらどげんしたらええん? うちは暴露配信が取り柄だっちゃ」



「どうしたらいいかは、わたしたちで一緒に考えればよいかと? 幸いにもウチには頼りになるお嬢様たちがおります」


「それって……どういう意味やけん?」


「【にじらいぶ】に勧誘してるです!」


 おっぱい魔人の発言に続いて、きるるがビシッとした口調で告げてくる。


「あなたも魔法少女なのでしょう? 変身の魔力を感じるわ。別にうちに所属したからといって、異世界パンドラまで同行しなくてもいいけれど。ただ、ヤミヤミとしての情報収集力を提供してくれるのなら事務所にとって利益になるわ。それに暴発しそうな爆弾を放置するより、手元に置いてコントロールしておいた方が安心でしょう?」


「うちを仲間にしときたか、利用したかの間違いやろ?」



「まーまー。うちなら、胸躍る冒険と美味しいご飯、可愛いもふもふが味わえるよ? さーらーに! リア凸アンチ勢も怖くない、執事くん付きだよ?」


 そらの甘言に……うちはナナシ姉様を見つめよる。

 ちょっと不器用な感じで苦笑いを浮かべる姉様は……やっぱり素敵で……。


 ああ、うちも案外……

 頭ゆるゆるのおっぱい魔人と変わらんちゃって思う。



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