34話 名無しの正体
放課後。
俺はいつものミーティングが行われる前に、
「なあ、
新メンバーのぎんにゅう加入、大手YouTuber海斗そらとのコラボ。同時並行で高級グルメの通販運営。
そして前回の防衛戦で……危うく
そう、きるるんは死にかけたんだ。
現実だ。
死んだら終わりなんだ。
「大丈夫よ」
そう軽くあしらう
どうもこいつは……何かを生き急いでるような、そんな感じが否めないのだ。
今は順次うまくいっている。
だから焦る必要なんてないのに、
「でもさ。もうちょっとパンドラ配信は慎重にやらないか? この間だって、死にかけたし……」
「私が危機になれば話題になるでしょ? みんなにスリルを味わってほしかったのよ」
そんな風に気丈に振舞ってはいるが……あの場で、きるるんのもとに駆け付けた俺は知っている。あの時、確かにきるるんの身体は震えていた。
いつも熱意に燃える深紅の瞳にすら、恐怖の色が濃厚に広がっていたのだ。
でもあの時は配信中で……。
だから俺は、そんな彼女の本音を隠すように震える手を握った。
本当は『二度とこんな危ない突撃をするな!』と怒鳴ってやりたかった。
でも、推しを支える名無しとして、あそこでは『無理をしてはいけません』と無難な言葉しか送れなかった。
そして俺は理解している。
同じことがまた起きても……きっと
なぜならあの時、
あとで配信を見直してわかった。
俺が気付けていなかったピンチを、
口では憎まれ口や、軽口を叩いても……怖くても。
彼女は本気で魔法少女として……誰かを守ったり、助けたり、そういうのが好きなんだと思った。
「どうして、そんな風にできるんだ?」
「
「でも、あと一歩で本当に死ぬところだったんだぞ!? どれだけ、きるるんが! 誰かの希望になっているのか理解してほしい!
「リスクヘッジは十分にとってるわよ? あの時はナナシなら————きっと、助けに来てくれるって。感謝してるのよ?」
「リスクヘッジ……」
俺が本音をぶちまけても、
あんなに怖い思いをしたのに、だ。
何なんだよ、この温度差は。
「俺は、
何を考えているのかも、だ。
いつも楽しそうに、ぎんにゅうや海斗そらと配信するきるるんは……クラスで見る
クラスじゃ常に威圧的で、同級生を虫けらでも見るかのように牽制している
「なあ……クラスの時の
「————どちらもれっきとした私よ」
正面からそう言い切る
「リスクヘッジと言えばだけど、ナナシ。銀条さんに私を引き合わせる時、【手首きるる】の中の人ってバラしていたらしいわね。今度から誰かに紹介するときは、そういうのは辞めてほしいわ。もう、登録者100万人の魔法少女VTuberなのよ?」
でも、やっぱりわからない。
なら、どうして。
「リスクヘッジか。じゃあ
「べつにそれならそれでよかったわよ」
「どうしてだ?」
「その問いに一つだけ、言葉を重ねるのなら————」
「——————には……、ちゃんと私を知ってほしかった、から」
ん?
……誰に知ってほしかった?
ん、あ、ああ!
あまりにも言われ慣れなくて、一瞬だれのことを言ったのかわからなかった。
ちょっと照れながら、俺をナナシと呼ばなかった
推しに名前で呼ばれたと理解すると、逆に思考が停止してしまう……言葉なんて出てこなかった。
「ぷーくすくす……ほ、ほら! あなたはチョロすぎるのよ!」
その頬が
「だ、だから名前でなんか呼びたくなかったのよ! こ、このナナシッ!」
「あ、あぁ……おう……」
「こんなだからナナシちゃんって呼んであげているのよ? まさか配信中に、ナナシがぽかーんってバカみたいにアホ面ひっさげていたら仕事にならないじゃない!」
「…………へえへえ、少しは俺の仕事も評価してくれよ、きるる様ー」
俺も少し照れくさくなって、話題を切り替えようと愚痴っぽく返答してみる。
「あら。ナナシの仕事は十分評価しているつもりだけれど? それともなに? ナナシも私みたいに
「いや、べつに様付けとかいらな————」
「いいわ。それほどまでにナナシが望むのなら呼んであげるわ」
「いや、俺は別に————」
俺が否定するより早く、
今度は
なにせ驚くほど綺麗に整ったご尊顔が、すぐ触れられる至近距離に迫ってきたのだ。
そんなゼロ距離で、不意に
その笑みは、満開の桜が咲き誇るかのように美しかった。
「いつも、
俺の名は
その場にいない方がマシだと
だけど、推しの前では絶対に————
彼女を、彼女たちを支える、名無しの執事であろうと思う。
「王子様なんて
ぽそりと呟いた彼女の独り言が、いかにも
あーあー、俺まで頬が
もうこれは仕方ないだろ。
控えめにいって推しは最高に可愛かった。
◇◇◇◇
あとがき
七色の推したち、まだ真っ白な路(ルート)は一体何色に染まってゆくのか。
推したちの春を
そんなわけでまだまだ続きます!
面白いと思ってくださった方は、作品のレビュー★★★などいただけたら
大変嬉しいです!
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