女 お茶会①

 ――皇后もグレースの父や姉であるシャリアも殺された。


 王子達はすでにほとんどが死に絶え、グレースの心を支えていたカルアやホリスなどは、そのずっと前に死んでいる。


 やっと目が覚めれば、最後までグレースを守っていた侍女のゾーイの亡骸が横たわり、モネがミュウの体からショートソードを引き抜いている所だった。


『化物病』世界的に流行した謎の病。


 パスクコーレ帝国の対策はある意味正解だったのかもしれない。

 グレースの元に集まった病人たちは強制的にレガリオ領に隔離され、グレースが眠っている間に炎で焼かれた。


 しかし、世界では、今のグレースのように病人だったもの達が新しい人外の力を手にしている。


 パスクコーレ帝国においては、レガリオ領『灰の大地』に残った病人はグレースただ一人。それも体が悪魔や魔族のように変化している。


「聖女モネ。賢王ウィズ。貴様等はあまりにも殺し過ぎた。貴様等の正義を私は絶対に許さない。」


「何が許さないなのよ。このっ醜悪な魔女がっ!! あなたもここで死ぬのよ。」




 その死闘は数時間に及んだ。




 最後に、モネの聖剣がグレースの体を貫いていた。


「……ぐはっ……モネ……なぜ、貴様は私の事を……ずっと忌み嫌ってきたのだ。……いったい……私が何を……したと言うのだ?」


「ふん。最後だから聞かせてあげるわ。あなたは――」









 ――目覚めると侍女のミュウが心配そうにグレースの顔を覗いている。


「グレース殿下。ずっとうなされていましたが、大丈夫ですか?」


「ミュウ……生きて……いや……夢か。」


 グレースがミュウに抱きついて泣いている。


「はい?」


「良かった。妙にリアルだったの。……ずっと苦しくて、みんなが殺されてしまう夢。」


「うふふっ。ヨシヨシ。怖かったですねー。もう大丈夫ですよ。」


「姉様みたい。もっと撫でてー。」


 ミュウが頭を撫でるのでグレースは思いっきり甘える。グレースはまだ13歳で離れて暮らす家族が恋しい。


「……甘やかすのは終わりです。光禁城は魔物の住む場所でございます。今まで王女殿下が暮らしていた場所はほとんどが平民でした。ですが、光禁城に住む全て者の等級が9位以上なのです。いくら王女殿下が正五品に昇格なさっているとはいえ、その上がたくさんいる事をお忘れなく。」


「はーい。分かりました。」


「その態度はなんですか? 私は先生などではなく、王女殿下にお仕えするただの宮内侍女ですよ。王女殿下として、常に厳格な態度を心掛けて下さい。」


「ミュウさんの意地悪。」


 ミュウはグレースがそうなるのを避けたかった。ミュウは侍女だがこの国の王族や貴族のルールをグレースに教える為に採用された。


「グレース殿下っ。身分の下の者に敬称は絶対に使わないで下さい。本日は第三王子サッズ殿下とのお約束があります。すぐにお仕度をなさって下さい。」


「……わかったわ。衣装の用意をして頂戴。」


「かしこまりました。」






 ――第三王子サッズが開いたお茶会には、サッズの派閥にいる第七王子のシボリと第九王子のエンデュアが待っていた。

 グレースの住んでいるアケーシャ宮殿から、グレースとネウレザ、コトの三人がサッズに招待されていた。第三王子の住まう宮殿に集まっている。


「グレース王女。ネウレザ王女。コト王女。本日は私のお茶会に来て頂き感謝します。さあ、好きな所に座ってくれ。」


 グレースは、着席をすると、まずは王子達に挨拶をする。


「サッズ殿下、お招き頂きまして心から感謝申し上げます。第七王子殿下と第九王子殿下におかれましては、この度初めて正式にお話出来る事を光栄に存じます。審査では、ご支援を賜りましたこと、重ねてお礼申し上げます。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。」


 その皮肉を聞いてシボリが堪らずに返事をしていた。


「グレース馬鹿を言うな。俺達はしばらく振りだが何回か会っているだろう。今は王子と王女で同格なんだし、シボリとか兄とかで良い。お前達もな。」


 シボリはグレースに話し終えた後、ネウレザとコトの方も向いて念を押した。シボリはサッズを推している以上、この三人と仲良くすることはミッションに近かった。


「はて? 記憶にございませんが、どこかでお会いしたでしょうか? そう言えば、皇后陛下を私に取られて意地悪をしていた王子が一人いましたが、その方にとてもよく似ていますね。」


「……うっ。5年以上も前だぞ。その時は俺もまだ子供だった。」


「ふふふ。シボリ兄上。冗談ですよ。年齢も二歳差ですから、凄く怖かったんですよ。」


「……悪かったよ。」


 シボリが決まり悪そうに俯いた所で、エンデュアが挨拶に続いた。


「みんな~よろしくね~。僕は話題のグレースとお話をするのが、とても楽しみだったんだよ。ネウレザもコトもとってもキュートだし、今日はみんなで仲良くスキンシップをしながらでも親交を深めようか。」


 サッズはエンデュアを睨む。


「エンデュア。お前は14歳のくせに女遊びが激しすぎる。全員立場上は王女だぞ。指一本でも触ったら、父上に報告するからな。」


「三兄上。……ひどいよっ。」


 エンデュアが泣きそうになりながら、俯いてしまった所でネウレザが緊張しながら挨拶をした。


「サッズ殿下、シボリ殿下、エンデュア殿下。本日はお招きいただき感謝の念に堪えません。皆様との親交を深められることを、心待ちにしておりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。」


 サッズがにこやかに頷いている。シボリとエンデュアも気を取り直して笑顔でその言葉を受けている。


 全員がコトに視線を向けると、しばらくの沈黙の後でコトが話はじめた。


「……サッズ殿下、シボリ殿下、エンデュア殿下。……本日は……お招き……賜りまして……誠にありがとうございます。」


 サッズがネウレザとコトの緊張を見て、優しく声をかける。


「今の俺達は家族なんだ。多少の失礼があっても問題にはならない。だから、気にせずに普通に話をしよう。グレース、ネウレザ、コト。俺達の事は兄や弟と思って接してくれ。――それではお茶の用意を。」


 全員の席の茶碗に、それぞれがリクエストしたお茶が注がれる。サッズがお茶会の開始を宣言した。


「それではお茶会を始める。この光禁城で俺達は味方だ。共に助け合い、共に困難を乗り越え、共に上を目指したい。俺達は愛と信頼が築く家族の絆を大切にしている。みんなで楽しい時間を過ごそうじゃないか。」

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