男 アルペンルートの武器工場③
ピシアが案内したお店は、アルペンルートでは有名で、立地も良く、とても大きな武器店だった。
店の中は巨大な売り場の他に四畳半程度の作業部屋と大型の倉庫しかない。ピシアは既に住居を売り払い、何もないこの武器店で生活をしていた。
「お店は大き過ぎる程だけど、本当に何もないんだな。」
「中にあった物は全部売ったっすよ。一年間は持ちこたえたっす。」
「この世界の生産はスキルでするから、作業部屋にも設備はないんだな。お店を改築しても良いか?」
「どういう事っすか?」
「これだけ大きいなら、居住スペースを分けて作っても問題は無いだろ。」
「そう出来るなら嬉しいっすけど、おいらに、そんなお金はないっすよ。」
「新築を建てる分には高いけど、俺には城一個分の素材があるんだ。【 フルリフォーム 】」
スキル【 完全修繕 】をメインとし、【 住居生成 】【 風呂トイレ生成 】【 ツール 】とを組み合わせたスキルが【 フルリフォーム 】になった。春人は最初に大きなお城をマテリア化し、その素材があり余っている。またピシアの店舗を修繕という形で使用し、最小限の改築用素材の追加だけで済む。お金やSPの消費が高かったのは、風呂とトイレの生成部分だけだった。
横長の大きなコンビニぐらいだった店舗は、奥から、寝室、風呂、トイレ、キッチン、応接室が増設された。反対側には倉庫がある。それでもまだ売り場は、普通のコンビニくらいの広さが残っている。それも装備品を並べる大きな棚やレジカウンターまでが付いている。
王室御用達の武器店といってもおかしくはない高級な内装に仕上がっていた。
ピシアだけでなく、
「なんて事っすか! 父ちゃんのお店がこんなに綺麗になった。春人さん。ありがとうございます。」
ヴァンサンとレンが笑い出した。
「あはは。もう何でもありだな。」
「うん。俺は今後、何があっても驚かない自身があるよ。」
春人はみんなにお願いをする。
「今から、売り物を製作するから、出来たらみんなで並べてくれるか? 棚やレイアウトも移動出来るように作ってあるから、ピシアの指示で移動してあげて欲しい。」
先日、レムレースがアイテムボックスにお土産を入れて持って帰った時の話だ。レムレースはお土産の引き換えに、たくさんの財宝を春人に渡していった。そのうちの1つに金属がある。安くて一般的な金属からレアで貴重な金属まで、さまざまなものを大量に置いていった。
春人は、ジロウに相談し、それらの金属の中から一般的に流通しているくらいの武器などを作り出す。今までに討伐した危険度E~Cランクモンスターの素材も使って、武器を100個防具を100個。
スキル【 調理器具生成 】で、フライパンや鍋など異世界でも使えそうな調理器具を作る。
スキル【 風呂トイレ生成 】【 ツール 】【 薬剤調合 】などを組み合わせ、【トイレットペーパー製造】や【石鹸・シャンプー製造】のスキルを開発し、それらを製造していく。【 ツール 】が素材を使用する分【 風呂トイレ生成 】と【 道具生成 】で最初に作ったトイレットペーパーよりも安い。
「商品はこんな所で良いんじゃないか? ジロウさんもさっそく作ってくれたみたいだしな。俺も定期的に商品を納品するよ。」
「これだけ良い品ぞろえをしていたら、ピシア一人の店番では危ないんじゃないか?」
「ピシアにも戦闘用の才能を付けるよ。」
「だったら、最初は俺達がレベル上げの手伝いをするよ。」
「……皆さん。本当にありがとうございます。商品の代金は製作者で、うちは手数料を貰う形で良いっすか?」
「ジロウさんの分は、ジロウさんと相談してくれ。俺の分は面倒だからピシアが全部受け取って良い。その代わり、スラムが貧しいみたいだから、そこから従業員を雇ってあげてくれないか?」
「スラムから人を雇うのは大歓迎ですが、これだけして貰ってそんなわけにはいかないっす。」
「俺は子供にはめっぽう弱くてな。恩に感じるなら、自立してから他の誰かに優しくしてやれ。」
――二日後、冒険者ギルド
ギルドマスターのエルエルがコユキとレンジロウにお金を渡す。
「以上が討伐依頼達成の報酬と素材買い取りのお金です。お納めください。それでは『 愛媛八百屋店 』のお二人が
春人が冒険者証をマテリア化し、即座にスキルで同じ物を生成する。
「ありがとうございます。昇格試験とかはないんですね。」
「
「……ああ。緊急依頼はもう絶対に受けない事にします。」
「そんな意地悪な事を言わないで下さい。
レンジロウがいつも通り報酬をその場で分配しているが、
「……ゴクリッ。」「「……。」」
――アルペンルートの街 南側入り口
「ヴァンサン達はまだこの街にいるのか?」
「ああ。転移でいつでも戻れるにせよ。ピシアの店の風呂とトイレからは、しばらくは離れられない。……と、それもあるけど、ピシアのレベルがもう少し上がってからだな。」
「ありがとな。ジロウさんとピシアは、まだたくさん強化するから楽しみに待っていてくれ。二人共、戦闘系は
「ありがとう。私欲に走らず、パーティーや困っている人を助ける事にその力を使わせて貰うよ。」
「ありがとうっす。おいらも春人に受けた恩はスラムの子供達に返すっす。」
春人はみんなの言葉に自然と笑顔になっていた。弱肉強食の異世界であっても、優しい人間がいる事が嬉しかった。
「それじゃあ。皆さんお世話になりました。いろいろと勉強させて貰いました。何かあったらスマホで電話してね。」
「こちらこそ、本当にお世話になりました。この街の事は俺達に任せてくれ。俺達は春人のおかげで
「春人。うらら。コユキ。ありがとう。君達に出会えた事は本当に幸運だった。それに楽しかった。次に会う時は絶対にもっと強くなっているからね。マクちゃんもまたな。」
「三人共、元気でね。春人のご飯が食べられなくなる事が本当に悲しいです。今からでもお嫁に……いたっ。ちょっとヴァンサン。」
「私も春……いたぁっ。ヴァンサン。私はまだ何も言ってないわよ。……お別れは寂しいけれど、君達が遠くにいても心は繋がっているわ。」
「春人。うらら。コユキ。マクちゃん。また、絶対会おうね。お世話になりました。」
「春人。俺達を信用してくれてありがとう。『愛媛八百屋店』に救って貰った命は、他の誰かを救う為に使うよ。それとヴァンサンも言ったように、俺達をいつでも呼んでくれ。」
「アルペンルートの武器工場。鍛冶屋ピシア、改め、ピシア百貨店は、街一番のお店になってスラムの子供達の味方になるっす。春人さん。みなさん。ありがとう。」
うららとコユキが名残惜しそうに言葉を返す。うららは正直もう少し一緒にいたかった。特に年齢も近い年上の女性達との会話が楽しかったのだ。
「この世界も悪くないなって思ったの。ほんの一時だけど賑やかで、パーティーでの戦い方も学べて本当に楽しかった。また会いましょう。」「がうー。」
「私が今まで見て来たパーティーの中で
春人が冒険者達との別れを締めくくる。
「
「「「またねっ。」」」
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