男 アルペンルートの武器工場②

「おいらが探していたのは、あの魔物っす。珍しい個体らしくて、素材には莫大な報酬が貰えるらしいっすよ。うららさん。倒してくれるっすか?」


 ピシアの目がお金のマークになっている。だが豪華な鎧を着た獅子の魔物は、かわいらしいまだ子供の魔物だった。


「ピシアちゃん。ごめんね。私にはこの子を討伐出来ない。ヨシヨシ、良い子ね。【鑑定】。なるほど、あなたはマクニールという魔物なのね。マクちゃんと呼べば良いかしら?」


「がうー。」

 

 うららが、マクニールに近づくと、マクニールがうららの手を舐めている。


「マクちゃん。かわいいっ。」


「信じられないっす。あの個体は人が近づくと逃げるって話だったっす。」


「……星獣マクニールねえ。姿もそうだけど、仰々しいな。あれ? うらら何かしたか? マクニールをテイムしているぞ。」


「ううん。名前をつけただけだよ。」 


 それを聞いた年長者のレンジロウが、その答えを教える。

 

「魔物を飼いならすテイムは、二つの条件で発動するんだ。ひとつはテイムしたいとされたいをお互いが望む事。二つ目は飼い主が魔物に名前を付ける事。ビーストテイム自体が希少だから、知ってる人はほとんどいないと思うけどね。」

 

「やったー。私とマクちゃんは心が通じ合ったんだね。」


「がうー。」 


 ピシアは当てが外れてがっかりしている。春人は少し考えた後でピシアに質問する。

 

「……ピシア。父ちゃんがやっていたお店を存続させる為に、お金が必要なんだよな? 」


「……そうっす。あとはおいらの生活もあります。」


「そのお店に定期的に商品が並んだらどうなんだ?」

 

「おいらは鍛冶をした事がないっす。父ちゃんが教えてくれたけど駄目でした。」


「ピシアじゃなく最初は俺がたくさん納品するよ。交渉次第ではジロウさんも作ってくれる気がするぞ。上等な武器を製作出来るような才能を付けたからな。それにジロウさんは武器だけではなく、これからはあらゆる装備品を作れるようになる予定だ。ジロウさんどうだろうか?」


「もちろん。そういう事ならお手伝いするよ。元々、春人には恩返しをしないといけないと思っていたからね。」


「ピシア。そういう事だ。もう安心しても平気だぞ。」


ピシアが春人に抱かれたまま、春人の胸に顔を埋める。


「……春人さん。ジロウさん。嬉しいっす。ありがとうございます。これで父ちゃんのお店がなくならないっすね。おいら、生きていけるっすね。」


「ああ。春人の頼みだ。一生ピシアのお店に納品するよ。」

 

「ピシア良かったな。アルペンルートの情報が欲しいから、子供用のスマホも渡す。困った事があればいつでも連絡すれば良い。」


「スマホ? なんすかそれ?」


「俺といつでも連絡が取れる魔道具だ。みんな。冒険者ギルドやピシアの店に行く前に、周辺の魔物を倒しておきたいんだが、それでも良いか?」 

 

「「うん。」」

 

 春人は、イライザに指示を出す。

 

「イライザ。危険度C+以上の魔物を近場から順番に案内してくれ。」

 

 それから、アルペンルート周辺の凶悪な魔物討伐はすぐに終わった。元から討伐の早いうららと、大きくレベルを上げた真のトゥルー友情コムラーズの面々が同行しているのだから簡単な事だった。


 それに移動には馬よりも早く空を飛んでいる。夕方になる前にはアルペンルートの武器工場についていた。春人達は何よりも最初に、冒険者ギルドに報告に行った。依頼書を見て受付のラミアは、首を傾げている。

 

「……えっと。本日、ラグエルの街で七日予定の同行依頼を出して、すぐに依頼は達成した。依頼主が春人さんで真のトゥルー友情コムラーズには七日分の報酬と評価Sを付ける。ついでに、その道中で現在この街で問題となっている緊急依頼を全て達成したので、それぞれのパーティーでその報酬が欲しいという事ですね。少しお待ち下さい。私では対応が難しいため、ギルドマスターを呼んで来ます。」

 

 ラミアは急いで奥の部屋に入って行き、しばらくするとその部屋から、小太りのおじさんが出て来た。冒険者ギルドにいた他の冒険者達もギルドマスターが出て来た事で、春人達に注目している。現在のアルペンルートの冒険者達は仕事が出来ずに、殺伐とした重い空気だった。


「はじめまして。アルペンルート冒険者ギルドのギルドマスターをしております。エルエルです。春人さんとそのパーティーの皆さん。真のトゥルー友情コムラーズの皆さん。この度は緊急依頼の達成ありがとうございました。討伐したモンスターは、緊急で引き取りに向かわせるた方がよろしいですよね?」

 

「いいえ。それなら、みんなのアイテムボックスに入っていますよ。」

 

 エルエルは、騙されているのではないかと少しだけ眉を顰める。

 

「みんなと言うのはどういう意味でしょうか? まるでみなさんが運搬技の希少ランクを持っているような言い方ですが。緊急依頼の魔物は数が膨大です。おそらく100体以上はいましたよ。」


「はい。正確には172体だったそうです。ですが、これは異常ではありませんよ。全員で少しずつアイテムボックスにしまってあるんですからね。」


 春人はあまり変な噂を立てたくはないのだ。 

 

「あの。これはスチールランクでも難しい依頼です。それがアイアンランクとレザーランクのパーティーだけで、たった数時間で狩り尽くしたという事はそもそもが異常なのです。」


 春人が、あまりにも真っすぐな視線で正確に数を言ったので、エルエルは信じた。そして、話を続ける。

 

「その上で、普通の運搬技はレザーを基準にするとLv30で5つです。Lv30で容量が10個あれば希少。15なら最高級のアイテムボックスとされています。172体なら、一人につき19個は入っている計算になります。それでも魔物以外には何も入れていないと仮定した場合のみです。」

 

「俺とコユキ以外は、全員がLv40を超えてますから。」

 

「Lv40だとしても、ⅠからⅢで1~3個の増加です。まあ。ですが、それは良いでしょう。この街を救って頂きまして、改めて私からお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました。それでは確認の為に倉庫に魔物を出して貰いましょうか。ラミア。私はご案内をしてくる。確認が終わるまでは、情報を漏らすなよ。」


 エルエルは、春人達を倉庫に案内する。春人達と真のトゥルー友情コムラーズでそれぞれ別々にモンスターを取り出していく。

 

「これは驚きました。……緊急依頼は誰もが受けられる依頼です。ですが春人さんのパーティーは白銀シルバーランクと青銅ブロンズランクで、真のトゥルー友情コムラーズの皆さんは青銅ブロンズランクの討伐依頼です。当然ポイントが高く、皆さんは正規のルートで昇格する事になりますが、それでもよろしいでしょうか?」


 真のトゥルー友情コムラーズは歓声を上げるが、春人だけがその言葉に慌てている。

 

「え? 待ってください。俺達は昇格はいらないです。」


「緊急依頼を受けた以上、ポイントは入ってしまいます。正規の昇格ですから、昇級しても有利な条件が増えるだけで、ギルドから求められる事は何もありませんよ。」 

 

「……それなら仕方ないですね。」 


「解体はこちらでやっておきますか? これだけの数だと三日は掛かります。」

 

春人はその言葉に悩んでいる。食べられる物は素材マテリア化で一瞬で解体出来る。それにうららやコユキには解体の作業を学んで欲しい。

 

「それなら、俺達の方は、食べられないものを優先で半分だけお願いします。食べられるものは肉だけ戻して貰いたいですが。」

 

ヴァンサンはレンジロウを見る。レンジロウが頷くと、エルエルに言った。

 

「俺達の方は逆に食べられる物を優先で三分の二の解体をお願いします。肉は早く売らないと痛みますからね。」

 

 春人達は冒険者ギルドを出てピシアのお店に向かった。

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