男 アイテムボックス②

街には通行証を買わないと入れない仕組みだった。通行証は銀貨2枚だが三か月で有効期限が過ぎる。先程の少女は先に街の中に入っていったが春人達は列に並んでいた。しばらくすると、通行証の窓口が開き順当に列が減っていった。春人達も窓口の兵士にお金を支払い無事通行証を得て街に入る。そして冒険者ギルドを目指して歩いていた。


「なあ。この街。なんか臭くないか?」


「春人は気付かなかったかも知れないけど、ルルシアの街も同じような匂いだったよ。」


「そうなのか? ……なあ。家からはあちこちで煙が漏れてるし、街も煙いぞ。……そうか、まだ煙突が無いのか。それに文明のレベルが低いと、ゴミや○○〇の匂いがこんなにもキツイんだな。」


「きっとこの辺にある住宅が問題なのね。ギルドが商業区画なら、少しはマシになるんじゃないかしら?」


「それを祈ろう。俺、ちょっと耐えられそうにないわ。」


「それは私も同じなんだけどね。」




 

 


――少女コユキは商業ギルドにいた。


 先程街の入口で購入した香辛料をギルドに売却しようと考えていたのだ。そして、それにギルドが掲示した金額は金貨3枚。コユキが驚いて顔をしかめると、それが四枚に増えた。


コユキは心の中で飛び跳ねて喜んでいた。贅沢をしなければ、それだけで2年間は遊んで暮らせる金額。


 だが、その取引は受付で行われ獣人の森ビーストウッズ冒険団に見られていた事にコユキは気がつかなかった。商業ギルドを出ると獣人の森ビーストウッズ冒険団の団長ギーオがコユキの肩を叩く。振り向くとギーオとメンバーのコルネリスとアンドレアがニヤニヤと笑っている。


「コユキ。ずいぶんと羽振りが良さそうじゃねーか。」


「関係ないんだよ。」


「それが関係あるんだよな。お前は明日まで俺達に運搬人として雇われている身分だ。」


「それが何やって言うの?」


「明日までは、お前の持つアイテムボックスの中身は俺達のもんだ。俺達はお前のアイテムボックス5つとその中身を買っている状態なんだぞ。」


「しかし、おかしいな。お前Lv15の運搬技Ⅰなんじゃなかったか? 5つはまだ俺達の荷物が入ってるよな? もしかして――」


「これは、あんた達のものなんだよ。」

 

 コユキは金貨4枚をギーオに差し出し、泣きそうになっていた。


「最初から素直に渡せよガキがっ。」


 金貨四枚を握った手でギーオはコユキの顔面を殴る。手の中に金貨がある分、ギーオのパンチは重くなっていた。コユキは道に転がると今度は本当に泣いた。


 コユキはついていない。コユキの弱さでは運搬技Ⅰでも持て余しているのに、実は運搬技がⅧだなんてばれたら、誰かに一生奴隷のように扱われかねない。運搬技はレベルでアイテムボックスの数を増やすだけの天賦の才だ。ただしそのランクで大きく持てる荷物の数が変わってくる。ランク無しは極端に少ないが、ランクⅠからⅡでも数が倍変わる。ランクが1つ上がる毎にその倍率が増え、ランクⅧとなるとランクⅠの9倍の数だけ荷物が持てる。しかし一般人の最大はⅢに等しい。それでも名のある冒険者からスカウトが来るほどだ。もしコユキがLv100になった場合、コユキがいるだけで180個のアイテムを収納出来る。それが誰かにばれたら大変な事になるので、コユキはあらゆる国や街を運搬屋として転々としていた。


ギーオは、地べたで泣いているコユキの胸ぐらを掴むと、睨みながら、コユキに命令した。


「さっきお前が売ったアイテムは、どうやって手に入れた?」





 ――冒険者ギルド


 春人は、冒険者ギルドの受付にいた。

 

 春人が受付から渡された冒険者証のカードを持つと即座にマテリア化してしまった。仕方が無いのでうららが冒険者登録をしていた。しかし、その間に春人はタブレットを操作し冒険者証を素材にしてスキルで製造した。製造スキルは単体のアイテムでまったく同じ物を製造が出来ない。試しにマテリアル化されていた石と掛け合わせたら冒険者証が硬い紙になった。

 

 それで春人もうららと一緒に冒険者の登録をする。


 冒険者証には、ステータスなどは表示されない。ただし、名前を書き終わってから冒険者証にオドを流すと戦闘のスタイルが表示され、枠の色が自分の魔法属性になる。書いた名前が正しければ、オドで名前が刻まれる仕組みになっている。冒険者証を受け取った受付嬢のアミンが頭を抱えている。


「いったい、これはどういう事なんですか?」


 二人共正しく名前が刻まれ、春人の冒険者証は技でうららが物理/魔法となった。二人共に枠がレインボーに輝いている。


「ひょっとして、そのキラキラがいけないんですかね?」


「それも異常ですが、極稀にあるらしいです。だから問題ですが、それは大問題ではありません。申し訳ありません。ちょっと失礼致します。」 


 小一時間程して、アミンが受付に戻って来た。

 

 レインボーは全ての属性を扱える事が暗示されているみたいで、極稀にあるみたいだが、戦闘スタイルは物理か魔法の二択らしい。攻撃と魔法が同時にあるのも異常でそれが技なのも異常、春人には技の理由がなんとなく理解出来ている。


 「と、いう訳でうちのギルドは、これを放置致します。なんかカードが硬いのも異常ですけど、お二人共に全属性ですし、何より目を付けられたくないとの事です。ついでにアイアンランクにまで昇格をしておきますか? ギルドマスターから恩を売って置けとの指示です。」


「ははは。極稀にいるならなんで恩を売る必要があるんですか。それでランクを昇格すると何か変わるんですか?」


アイアンランクの依頼までが受けられます。それをレベルでいうと50です。」 


「そんなの無理に決まっているじゃないですか! 俺達は初心者なんですよ?」


本気で驚いている春人を見て、アミンは大きく肩を落とす。芝居が大袈裟過ぎで怖いさえと感じていた。これ以上何を求めるのだと涙が出そうになった。これでもアミンはずっと我慢をしていた。あまりの緊張と怯えで震えていてもおかしくはない状況の中でずっと我慢をしていた。目の前にいる白と黒の翼を持つ美少年と、となりにいる美少女が持つそれ。美少女がその感じで、血だらけで笑っているのも逆に恐ろしい。

 

「……その。うららさんがさっきから、引きずっている巨大な魔物。ウィバーンです。ミスリルランク相当の魔物ですが……はっきり言いますと……それは我が国最強のドラゴンです。我が国はそれの存在にずっと恐怖で怯えていました。ギルドマスターが恩を売っておけと言いつつ、怖がってここに来ないのはおかしいと思いませんか? 私、今すぐにでも、この仕事を辞めたいと感じております。せめて、これで恩を売らせて頂けないのでしたら、本当に辞めようと思います。」


 アミンはこれ以上の事は出来ませんと言いたかった。だが、恐ろしくてそれは言えない。だから、どうしてもランクを昇格させて欲しいとアピールをした。どうしても、それで納得して貰いたい。ただの受付嬢である自分の権限では、ギルドマスターからの指示以上の事は出来ないのだ。


「……昇格をお願いします。」


春人が頭を下げた後で、うららもやっと状況を理解し大袈裟に喜んで見せた。

 

 

「わーい。本当に助かっちゃったなー。春人さん、後でアミンさんにお礼・・でもしなきゃね。」


 

 

 ――終わった――


 アミンは気絶をした。

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