男 アイテムボックス①

 春人は翼による高速での低空飛行。うららは超速の走りでその後に続く。

 その方法でたった5日間でルルシア聖皇国を抜け出し、二人はアゴラ王国に入っていた。途中にあった国境の関所は回避し、そこから少し離れた壁をうららがぶち壊して国境を抜けていた。


 だが、次なるアゴラ王国での話の前に春人には大きな変化があった。それは春人がうららと再会したその日の夜、春人達が寝ている間の出来事だった。


 朝、春人が起きると春人の体から白と黒の翼が生えていたのだ。それだけでなく、皮膚は硬くなりやや色黒に、瞳は赤色で、前髪にはメッシュのように金色が入り、他は金色が白みがかったような薄灰色となる。極めつけは、体のあちこちにルーン文字が刻まれ、胸の真ん中には結晶のようなものが埋め込まれていた。


 

 春人は翼に関して、天賦の才を取得したからだと思い、レイアに電話するもレイアにはその傾向が見られなかった。その後ステータスを鑑定した結果、春人が念の為あらゆる事態に対処出来るように最上位百億円の天賦の才を獲得した結果だという事が分かった。うららに説明をした。


「念の為に、最上位の才能を獲得しておいたんだけど、それが強力過ぎて、ルーン文字での補強や体を作り変える必要もあったみたい。」


「体を作り変える程に強力な才能って、何の才能なの?」


「まあ、翼とかは意味ないんだろうけど、制作者のいたずらもあるんじゃないかな? それと現段階で俺の切り札は言えないな。まだ危機が訪れていないし。」


 そして、何より一番致命的だった変化は、春人が戦闘に魔法を使用すると、異臭が出るという点だった。ただ僅かにあった抜け道として、春人がモンスターを食用として認めた場合、魔法の発動で異臭が出ないという事。

 

 春人は生活魔法としてなら、いくらでも取得した魔法を使いこなせる。その一環として魔法を使う分には異臭が出ないが、攻撃で魔法を使いこなすのは違うよという天賦の才の創作段階に仕掛けられた神の悪戯だった。


 そして、その日、春人がやった事はまずは食用のモンスターを狩る事。これには理由があって、春人にはレベルが上がる程に、春人の持つスキルを使いこなせるという効果がある。

 

 つまり、マテリア化によって、任意の物以外を消さないようになる事が街に入る為の絶対条件だった。冒険者ギルドに行って建物をマテリア化しましたでは話にならないと思ったのだ。


 だがこれは、すぐにLv28にまで上がってそこで解決した。レベルの上昇と共に試しに背中で触れてみた木が消えなかったのだ。そこで鑑定をするとマテリア化の効果範囲が、”手で直接触れた物以外”は自分がマテリア化したい物をマテリア化するに変わっていた。

 相変わらず、手でアイテムに触れる事は出来ないが、これならば気を付けていれば建物を消す事はない。




――そうして、移動を開始し現在に至る。


アゴラ王国のとある街にやって来た春人達は、お金がないので街に入る為に必要な分を支払えなかった。

 ただし、うららは換金用に考えていた大きなモンスターを背負っているので、街に入りさえすればギルドへの登録次第で換金が出来る。


 ただ、それよりも確実にお金を手に入れる方法を既に考えてある。


 それは胡椒、シナモン、サフランの香辛料の三点セットだ。


 春人は街に入ろうと並んでいる列を確認すると、アイテムボックスから、テーブルを出し、塩と胡椒で焼いた串焼きがのった皿を取り出す。そして、大きな声で宣伝を始める。


 「ただいまから先着順の3商品限定で香辛料の販売を致します。胡椒、シナモン、サフラン。どれでもお一つ銀貨5枚です。こちらにあるのが、試食用の串焼きです。こちらは塩と胡椒を使って焼いております。購入をご検討頂く方のみ、商品の品質を確かめたい場合はこちらをご試食下さい。」


 あまり反応が無かった。原因は春人の見た目がとても怪しかったからだ。亜人慣れしている異世界人でも、春人の見た目は限りなくグレーなのだ。翼が生えただけの色黒の人間だが、それは見方によっては悪魔や魔族に見えなくもない。翼を持つ龍人ドラゴニュート鳥人ガルラならば人とは異なる顔をしている。


「おかしいな。この時代の文明に胡椒とかは貴重なんじゃないのか?」

 

「問題はそこやないと思うんだよ。普通の人間に翼なんか生えてないもん。一瞬、魔族かもって感じるんだよ。」


「おっ。ガキンチョ。香辛料買うか?」


「ガキンチョじゃないもん。買うか迷ってるなら、これ食べても良いの?」


「いいぞ。」

 

「ありがとう……美味しいんだよ。この香り。お肉もこの辺で取れるランクのものと違う。」


「これが塩と胡椒の味付けな。」


「胡椒は高価だから食べたのは初めてなんだよ。他の二つは?」


「シナモンとサフランだ。」


「シナモンは知らないけど、サフランを買うには金貨が必要なんだよ。」


「それじゃあ。お買い得だぞ。ひとつ銀貨5枚だ。」


「お買い得と言っても、銀貨5枚は平民の10日分くらいの稼ぎなんだよ。生産職でも冒険者でもない私には、それを貯めるのに一ヶ月以上掛かるんだよ。」


「じゃあ。やめとくか?」


「買うんだよ。全部下さい。」

 

 少女はアイテムボックスから銀貨を15枚取り出し春人に渡した。

 

「おし。毎度っ。」  

 

「ありがとう。」


 少女がアイテムボックスに香辛料をしまいいなくなると、うららが春人に言った。

 

「この世界にも亜人はいるけど、春人さんは人間の顔。やっぱり、その格好は問題があるみたいね。」  


「翼が生えているだけだ。大丈夫だろ。」 

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