女 帝国城塞の光禁城②

グレースは、ネウレザとコトに先にアカーシャ宮殿に入って貰うと、二人の王子の前に立った。先に第三王子サッズの方を向く。


「まず、サッズ王子。審査の件ではとても感謝しています。ですが、私がサッズ王子を支援する派閥にされた仕打ちをご存じですよね? それにロレーヌ家のモネは私の事を落としたかったみたいですよ。」


グレースの言葉にサッズが申し訳なさそうに頭を下げる。


「知っているよ。すまない。叔父上やロレーヌ公爵家が君には本当に酷い事をした。だが、叔父上達と俺は関係ないと思ってくれ。それに絶対に裏0切らないから信用もして欲しい。」


だが、それでも、グレースは信用出来ない。ロレーヌ公爵家の人間は平気で嘘をつくとモネから学んでいる。どこまで行ってもレムリアとロレーヌには敵対関係の構図が付きまとうのだ。


「私は皇后を助ける為にこの光禁城にやって来ました。そもそもロレーヌ家とその勢力は私達の敵なのではないですか? 信用しろと言われても、信用しようとしたモネがやった事もご存じでしょう。」


「それなら、信用して貰う為に俺は何をすれば良い? 君が俺にロレーヌ家の後ろ盾を捨てろと言えば、俺は叔父上との関係も絶てる。誓いを守る為に何かの形として残すのはどうだろうか。」


サッズの熱意と言葉がグレースには理解出来なかった。落ちこぼれの自分と仲良くなってもサッズには何の得もないと思っているのだ。


「……なぜ、そこまでするのですか?」


「信じて貰えないだろうけど、それはとても簡単な理由だ。俺は君が好きだ。君の心と才能が好きだ。」


「サッズ王子は誤解をしているようですが、私に才能はありません。」


「自己評価が低いな。王子達全員と帝王が君の事を評価しているのだぞ。それでも才能が無いというのなら、それでも良い。俺が君を好きな所はそれだけではない。言ったろ。君の心も好きだ。」


ここまで好意を示してくる相手に冷たく接するのは、グレースとしても気が引ける。本来グレースは誰にでも気を遣える優しさの塊だった。


「親族を捨てろとは言いません。……友として、それでも良いなら少しずつ親交を深めましょう。ただ、私はあなたを簡単には信用出来ない。」


「叔父上達の事は後々考えよう。最初は友としてで十分だ。だが翠玉の瞳も金色の髪も綺麗な顔立ちも、君の何もかもが好きだ。そして、これからももっと好きになる自信がある。だから信用して貰えるよう精一杯頑張るよ。また明日、この時間に会いに来ても良いか?」


サッズのひたむきな好意で、グレースはようやく心を溶かした。気を許すとこれまでのサッズの言葉が少し可愛く感じる。


「……ふふふ。審査の時とは印象が違いますね。良いですよ。では、友達としてこれからよろしくお願いします。」


「どんな印象なのかは気になるが、それは、また後日聞くとしよう。それではグレースまた明日な。」


「はい。また明日。」


第三王子のサッズはロレーヌ家と似てしたたかだ。歯の浮くようなセリフもグレースの信用を得る為に考えたもの。ロレーヌ家を切ろうとした事もはったりで計算だった。騙したのはウィズが欲するグレースの力が自分にも必要になるのではと感じたから。それは現時点で決して愛などではなく、全ては王位継承の為に必要なだけなのだ。とはいえ渦中のロレーヌ公爵家の長男を断罪するだけの器量はある。それを持って全ての疑惑を取り除こうと考えていた。



続いて、サッズとの会話が終わるのを待っていた第六王子のフェイがグレースに語り掛ける。


「先程も言ったように俺は友として親交を深めたい。ただしグレースが信頼出来る人間だった場合、俺は君に無茶なお願いをする事になるだろう。つまりこの友情には、少なからず打算的な感情が混じっている。だから最初に謝っておくよ。グレースを利用するかも知れない事、本当に申し訳ない。」


フェイがグレースに謝り、頭を下げた事でグレースはフェイの人柄が理解出来た。あくまでも真摯で友には嘘が付けない。その不器用さはグレースにとっては新鮮でむしろ誠実に感じていた。


「本当に打算的な人は君を利用する可能性があるなんて言いませんよ。だからそれはフェイ王子の誠意だと思っておきます。これからよろしくお願いしますね。」


「グレース。さっそく器の大きさを見せて貰ったな。俺に敬語はいらないぞ。呼び名もフェイで良い。俺は君の友になりたいんだ。」


グレースはフェイに対してときめきはない。ただ良い人である事は友としては十分に価値のある事だった。なによりも気さくで心を明け透けにするフェイに対して、自分も身構える必要がなかったのはとても大きい。


「うん。わかったはフェイ。私達、仲良くなれると良いって心からそう思うし、その予感がするわ。」


「ああ。これは俺からグレースへの贈り物だ。この武器の種類はメイスの中でも星球武器モーニングスターという珍しい分類になる。そして、これは『明けの明星ヴィーナス』という名の最高級の武器だ。」


「フェイありがとう。これはメイスなの?」


「そうだぞ。そしてこの星球武器モーニングスターはメイスの中でも特殊なものでな。武器にオドを流すと半分が回復力となり半分は攻撃力が上昇する。ただし半分とはいえ術者のオドが高ければ馬鹿には出来ないぞ。通常の攻撃武器よりも強化耐久値が異様に高いんだからな。」


フェイからの贈り物は、グレースにとって、これ以上ないくらいに価値のあるものだった。グレースの天賦の才『棍技』をハズレだと言わしめるものは、メイスがこの世界にない回復力を上昇させる武器である事だった。攻撃力が少しでも上がるなら話は変わってくる。


「信じられない。そんな武器があったなんて。フェイ本当にありがとう。これで私は落ちこぼれから脱却できるかもしれない。」


グレースは嬉しさのあまり少し泣きながらフェイに抱きついていた。


「こらこら。俺達は友になるのだと言っただろ。抱きつくなっ。」


「だって、本当に嬉しいんだもの。」


その後、数分間。グレースは嫌がるフェイから離れなかった。


自分を輝かせる事になる武器とかけがえのない友。グレースはその二つを同時に手に入れていた。

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