男 異世界にできた可愛い妹①

 秘密の森サルトゥスアルカヌム 勇者召喚の翌日


 春人はルルシア聖皇国、聖都の南西にあった広大な森に逃亡していた。

 そして、モンスターから逃れ続ける事2日目の朝。

 春人は3日間何も食べていない。


「徹夜は良いけど、空腹の限界だ。」


 ふと、大木を見ると穴の中には、少女が膝を抱えて寝ている。

 春人は、少女に声を掛ける。


「君。何をしているの??」


「……。」


「ごめん。おーい。起きて―。」


「ひゃっ。」


「起こしてごめんね。ずっと走りっぱなしだったから

 お腹が空いているんだけど、食べ物か飲み物を持ってませんか?」


「……あなたは。持ってないのーー。」


 少女は春人に抱き着いていた。

 そして、例の如く、服などが消えてしまう。


「ちょっ! まずいぞ。頼むこれを着てくれ。」


 春人は、自分のパーカーを脱ぎ、少女に渡す。

 少女は意味が分からなかったが、下を向くと自分が裸である事に気付いた。


「きゃーーー。」


 一分後。服を着た少女が話始める。


「私はアレオパゴス王国から来たレイアなの。ルルシア聖皇国が、アゴラ王国とアクロポリス王国と一緒に怪しい行動をしている事を聞きつけ調査にやって来たの。」


「それね。たぶん勇者召喚の事だろうな。」


「信じられない……否、奇跡を見た後では信じるしかないの。それじゃあ。あなたは勇者様なの?」


「一応は勇者召喚でやってきた異世界人なんだけど、俺だけハズレみたいよ。勝手に召喚されるし腹が減って死にそうだし。あの国から逃亡して困っているんだ。」


「酷い話なの。この件は国際問題として報告と対処をさせて頂きます。でも安心して。行く所がなければうちの国で保護するなの。」


「ハズレを保護してもメリットはないぞ?」


「いいえ。ひとつだけ言える事は、あなたはハズレではないの。でも、勘違いしないで欲しいけど、うちの国は勇者様に何も求めません。ただ私のお兄ちゃんになってなの。」


「お兄ちゃん?」


「王宮から抜け出したお兄ちゃんを探して、私は迷子になったの。私は何の才能も持たない本当のハズレなの。助けてお兄ちゃん。」


「わかった。わかったお兄ちゃんだな。」


 レイアは再び春人に抱き着いて泣いている。

 今度は現実世界の服を着ていた事で衣服は消えなかった。

 春人は、自分が触ると異世界の物が消える事を一日掛けて理解している。

 ただ現実世界の物だけは消失しない。

 レイアは春人に頭を撫でられて泣き止むと、今度は服が消えていない事に安堵する。

 レイアもまた先程服が消えた事は春人の能力であると確信している。


「昨日、ルルシア聖皇国でお城がひとつ一瞬で消失しました。先程、私の服が消えた事を考えると、それをやったのはおそらくお兄ちゃんなの。」


「ああ。俺もそう思う。」


「それがとてつもない才能であると理解しているの?」


「これは生物には効かないんだ。触った物だけを消す能力なんて、何にも使えないハズレの能力だよ。」


「お兄ちゃん。これは能力の質と規模の問題なの。それ程の才能を持つ者がレベルアップしたら、どんな能力を手に入れるか。私には想像もつかないなの。」


「昨日鑑定したけど、生活に役立つものしかないよ。やっぱりハズレだ。」


「スキルを確認したの?」


 春人はその質問に?である。

 現実世界にはそんなものはなかった。

 レイアは春人にステータス画面の確認の仕方を教える。

 ステータス画面とはいえ自分の詳細なステータスは確認出来ないが、レベルや使えるスキルはステータス画面に表示されているというのだ。


 春人は改めて自分のステータスを確認する。


『和泉 春人 20歳 Lv10 称号 無職

 魔法属性 

 無属性


 ≪ 天賦の才 ≫

 全言語理解

 料理  - Ⅰ -

 節約  - Ⅰ-

 豊穣  - Ⅰ -

 遊戯  - 無 -

 素材  - 無 -

 生活  - 無 -


 ≪ 自動スキル ≫

 全言語理解

 料理  - Ⅰ -

 節約  - Ⅰ-

 豊穣  - Ⅰ -


 ≪神大 自動スキル ≫

 遊戯化 

 マテリア化 

 快適生活獲得

 特級鑑定


 ≪ アクティブスキル ≫

 美味しくな~れ 2 / 1Day

 5%割引チケット 1 / 1Day

 10%割引チケット 1 / 1Day

 15%割引チケット 1 / 1Day

 じゃがいもの種 

 大根の種 

 ねぎの種 

 人参の種 



 ≪神大 アクティブスキル≫

 上級鑑定

 < 遊戯スキル >

 格闘遊戯 - 遊戯 -


 < 生成スキル >

 風呂トイレ 

 調味料 

 道具 

 住居 


 < 製造スキル >

 テイルム

 アルモル

 ツール


 < 召喚スキル >

 使用人サーバント


 

 ステータス


 HP 69/69

 MP 37/37

 SP  37000/37000

 CP 160

 スタミナ 60


 力  19

 魔力 19

 守り 19

 精神 19

 器用 19

 素早 19

 運 19000 』


「あれー。モンスターを倒していないのに、レベルが10に上がってるぞ。表示も前回鑑定したものとかなり違うな。お! 属性が無しではなく無属性って事だったのか。これを見る限り無は無属性と神大に対応しているって事なのか? こっちは詳細に説明がある。ステータス画面を見た時の自分への鑑定が特級で、他人のを確認するのが上級という事か。」


「なるほど。物が消えていたのはマテリア化か。それもただ消えたんじゃなく端末に保存してあると。端末? 手を離してもずっと俺から離れないこのタブレットの事か?」


「お兄ちゃん。……恐ろしいワードがたくさん出て来たなの。分かるなら教えて欲しいなの。」


 春人は自分のステータスについて、詳しくレイアに話した。

 それを聞いた後でレイアが恐る恐る説明をする。


「勇者様どころではないの。まず公にはなっていないけど、この世界の頂点は無龍様なの。無龍様は七賢聖様をも従えているの。お兄ちゃんの属性やランクに無が入っている事はきっとそういう事なの。」


「よく分らんが、ほとんど快適に暮らす為のものだよ。」


「それに鑑定はとても貴重で、世界に三つしかない。その全てが魔道具で、世界各国で共有しているものなの。」


 だが、春人はその話を聞きながらタブレットにも集中していた。


「……あれ? タブレットに貯金額と投資分の利回りが入ってるぞ。もしかすると、俺を哀れんだ神様が俺の想いを聞き届けてくれたのか? この世界で俺はリタイア生活が出来るというのか?」


「リタイア生活? わからんちんなの。そういえば、最初にずっと走りっぱなしだったって言ってたけど、人間は連続で30分しか走れないの。それに今思えば、私が隠れていたのは、樹属性魔法【迷いのロスト樹洞カーボン】で誰にも見えないはずだったの。お兄ちゃん。私は怖くなってきたの。」


「あはは。気にする事じゃないよ。俺の能力は生活特化だけだし、他の人から見たらきっとハズレだ。」


「どう考えても一番のアタリなの。お兄ちゃんのは勇者召喚どころの話じゃない。レイアは魔法は樹属性、天賦の才は森の民アルセイデス 種族特性の森とハズレの棍技Ⅰしか持っていないの。ハズレというのはレイアみたいな事を言うの。」


 春人は落ち込むレイアの頭を優しく撫でていた。

 春人にはレイアの気持ちが痛いほどよく分かる。

 自分も他の勇者や召喚した国王達に無能を馬鹿にされた。

 しかし、レイアの場合は鑑定してからこの年までだ。

 ずっと悲しい思いをしてきたはずだと居たたまれなかった。


 それと春人はお兄ちゃんと呼ばれ、懐いてくるレイアの事がとても可愛かった。

 春人は家族や兄弟もなくずっと一人で頑張ってきたから、余計に癒されている。

 僅か数分しか経っていないがレイアには幸せに生きて欲しいと心の底から思っていた。

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