女 王女選抜③
何千人もいた国民達の中から、一次審査を突破したのはたったの50名だった。
第二審査は、これから王女達と切磋琢磨し、共に競い合う王子達による審査だった。
第二審査を突破するには三人の王子から認められる必要がある。
ただし、現在残っているのは鑑定結果を認められた者達。
普通であれば、これを突破するのは簡単で鑑定結果だけの偽物を排除するのが目的。
そして、それはグレースが最も恐れていた事態だった。
グレースはダンジョン並みの魔物が野に放たれているこのパスクコーレ帝国の地で、低級の魔物一匹ですら倒せないというとても珍しい人間だった。
「そうか。そうだよな。パスクコーレ帝国は戦闘に特化した国民性なんだ。王子達に求められるのも強さなら、王女にだってそれは当たり前。やっぱり私は受けるべきじゃなかった。」
ネウレザ ステュアートが、落ち込んでいるグレースの背中をさする。
「グレースさん。平気ですよ。相手はあのスライムです。それよりも最終面接が怖いです。」
「あのね。この国のモンスターは他の国と比べてとても強いの。この国のスライムは最低でもDランクなのよ。私にはFランクのスライムしか討伐出来ないわ。」
「そうですか? でも、やはりたかがスライムです。この国で暮らす以上モンスターの討伐は基本ですからね。」
「……それもそうか。あなたは一次審査を通過したんだから、戦闘は得意なはずよね。」
「苦手ですよ。私の場合は紬技Ⅲを持っていますから、ある程度レアなモンスター素材から糸を作れるんです。 」
「何それ。Ⅲの糸ならレアもレアじゃない。王族でも絶対に確保しておきたいでしょうね。」
「でも、面接が苦手なんです。グレースさんの方で皇后様にお力添えを。」
「分かったわよ。力になれるかどうかは分からないけど、審査が終わったら伝えてみるわ。」
今回の審査はグレースの前にネウレザに居て貰った。
一次審査で本性が分かり、警戒しているグレースにモネも邪魔が出来なかった。
ネウレザの戦いは小剣を使ったもので、それだけなら特に優秀とは言えなかった。
特に天武の才が低く、小剣スキルはとても凡庸なもの。
ただし、戦い方がとても綺麗で、宙を舞うような動きをしている。
小剣使いでありながら、蹴りなどの武闘も使っている。
そこには見惚れるような美しさがあった。
あっという間にスライムを倒し、王子達にお辞儀をしてからグレースの前に戻って来る。
五人の王子がネウレザを認め、合格となった。
「何が苦手なのよ。戦闘がとても綺麗だったわ。私が落ちたら、うちの家系の事をよろしくね。」
「大丈夫です。グレースさんも落ちませんから。」
グレースが闘技場に進むと、5体のスライム討伐が始まった。
グレースの戦いを見て、同じ候補者達は苦笑している。
それもそのはずで、この世界の武器には人間のオドを流し込み威力となる。
ただしメイスと棍技は特別で、オドを流すと威力ではなく回復力などが上昇するのだ。
高レベルにならないと、攻撃威力の出るスキルも存在しない。
候補者達の中でもモネ ヴェントス ロレーヌは盛大に吹き出していた。
「ぷはははっ。何よあの子。スライム討伐にどれだけ時間を掛けているの。普通一匹に対して一撃で終わるしょ。それをたかがスライムに囲まれるなんて。」
ただし、グレースは、天才騎士の姉と自らの努力で、メイスの技ではない初期スキルを各種努力の力だけで取得している。
メイスしか装備は出来ないが、剣技、大剣技、小剣技、刀技、小刀技、拳技、槌技、槍技など数々の初期スキルに似せた自分だけのスキルが使えるのだ。
Dランクを討伐する程の威力はないが、スライム達の怒涛の攻撃の中心で数々の攻撃を駆使して対応している。
それが3分を経過した辺りで、第十王子のフィアがその異変に気が付いた。
額から冷や汗が出る程に、動揺している。
「……ウィズ兄上。あの者は絶対に採用すべきです。そして、必ず、我等の派閥に引き入れねばなりません。」
「フィア。なぜだ?」
「逆になぜ誰も気付かないのか不思議です。スタミナですよ。人間も魔物も等しくスタミナが60で一分間に3は減ります。全力で走る事もオドの連続使用にも人間は三十分くらいしか耐えられません。」
「まだ、三分くらいしか経っていないぞ?」
「スキルや魔法を使った場合は別だからです。1回の使用に1減ります。そして、あの者がスキルを使った数がおかしい。もう50回以上は使っていますよ。その場合は約3分でスタミナが尽きる計算です。」
「……たしかに。」
「本来、スキルは無手で切り崩し、弱点への決め手として使用します。我々はむやみにスキルを使わないように教育をされている。グレース嬢の秘密が解明された場合、歴史に残る大発見になりますよ。仮に彼女が国外に取られてしまった場合、我がパスクコーレ帝国は大きな痛手を負う事でしょう。そうでなくとも、他の王子の派閥に取られたら我々はおしまいです。兄上が誰よりも懇意にするべき相手はグレース嬢なのです。」
第五王子のウィズが立ち上がり、グレースに近づくとスライム達を討伐する。僅かに遅れ一匹狼の第六王子フェイがそれに続いていた。
「もうよい。あえて倒さずに、敵に囲まれた場合の対処法を見せるとは。それも素晴らしい立ち振る舞いだった。私はグレース嬢を認める。あなたには是非、王女になって頂きたい。」
ウィズがそう言って、グレースの手を取ると膝をつき口づけをする。
突然の事にグレースは顔を赤らめた。
がっかりされていると思ったら、逆に盛大に褒められてしまった。
「私もグレース嬢の友となりたい。どうかな?」
フェイはウィズよりも前にグレースを助けようと剣を握っていた。
後ろにも目があるようなグレースの非凡な戦闘技術を気に入っていたのだ。
グレースはフェイの爽やかな笑顔に癒されていた。
友人になりたいとの申し出だが、誰かに似ているその笑顔は反則級である。
フィアがそれに続いて立ち上がる。
「さすが、ウィズ兄上です。ご慧眼に感服致します。私もグレース嬢を認めましょう。」
グレースは、フィアがまたもや自分を評価した事が素直に嬉しかった。
ウィズ王子を立てているのだと分かっていても、才能のない自分を認める発言は嬉しい。
第七王子のシボリが自信が無さそうに手を挙げる。
「私もです。」
シボリと第四王子のエティケは、皇后の実子で、当然皇后からレガリオ伯爵令嬢を推すように指示を受けている。
迷っていたがエティケの方もシボリに続く。
「私もだ。」
グレースは皇后の実子である二人からの支持得られる事は分かっていた。
その上で、あと一人は無理だと思っていた。
だが、そんなグレースの考えとは裏腹に、事態は更に加速していく。
ライバルのウィズがグレースを支持しあろうことか太鼓判まで押した事で、頭の良い第三王子のサッズがそれに反応した。
自分の派閥にいたシボリが、先にグレースを認めた事もサッズにとっては好都合だった。
グレースには好印象を与え、他の王子達には弟分のシボリを大切にする王子となる。
ウィズの行動を見て、自分もグレースに目を付けたわけではないという言い訳が出来る。
「グレース嬢は秀逸な人材だ。流石リリム嬢にライバルと言われるだけの事はある。私もあなたを認めます。必ず王女に選ばれ私とも懇意にして頂きたい。」
サッズはグレースに近づくとウィズと同じように手に口づけをした。
グレースはまたもや赤面する。
考えられない展開にもあたふたしてしまう。
サッズの派閥にいる第九王子のエンデュアが、これに続く。
「もちろん、私もグレース嬢を支持します。」
これには第一王子のベネブも続く事となった。グレースを認めぬ者が今やベネブの派閥のみとなったからだ。弱いグレースにはまったく興味が無いが、万が一の為に形だけ賛成しておく。
「これで決まりだな。私と兄弟達も賛成だった。なあカイオス、パイエル。そうだろう? 皇帝陛下にも全会一致の才女の事を進言してやる。私が言えば一枠は決定したようなものだな。」
第二王子のカイオスと第八王子のパイエルがそれに賛同した。
「もちろんです兄上。」
「はい。グレース嬢を認めます。」
こうして、皇帝に最も愛されるベネブからの報告により、皇帝は最終審査をする前に、第一王女をグレースに決定した。
だが、彼女のポストはあくまでも悪役令嬢。
悪としてヒロインの前に君臨する為に王子達の関心を買ったに過ぎないのだ。
本当はヒロインよりも弱く
その定められた結末は、ヒロインと王子の誰かに無残に殺される役目だ。
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