男 異世界人は身勝手だ②

 ――ルルシア聖皇国

 

「どうじゃ? 成功したのか?」



 歴代の胡散臭い教祖達の中でも群を抜いて醜悪なルキウス聖皇。

 絶対命令権インペリウムはルキウスが聖皇になってから、偽の神託しんたくにより勝ち取ったものだった。

 これにより、それまで聖皇と枢機卿達が話し合いで運営していた聖皇国は、ルキウス聖皇の一存で全てが決められる独裁国家へと変貌した。


 ルキウスの数ある愚行の中でも、最も非道な行いがこの勇者召喚の儀である。


 ルキウスは、同じく魔王領に隣接する国のうち2つアゴラ王国とアクロポリス王国を説得し共同で勇者召喚の儀を行っていた。


 単独の権限で国の財産である聖遺物レリックを使い、異世界の勇者達の同意もなく、三人のを転移の犠牲とし、三人の異世界人を勇者として召喚する。


 だが、魔法陣から現れたのは、五人もの勇者達だった。


 ルルシア聖皇国 アゴラ王国 アクロポリス王国の国王達は、その豊作に思わず息を呑むと嬉しそうに笑っている。


 王達の中でまずはルキウスが口を開いた。

 

「異世界より召喚された勇者達よ。まずは、そなたたちの力をみたい。こちらには我等三国で協力をし、貴重な『鑑定用』と『投影用』の魔道具と、選ばれた勇者に与えられる三つの聖なる腕輪を用意した。」



 勇者達と呼ばれた者達は、先程まで、八百屋の中にいたメンバーだった。ひとりはレジを打っていた高校生のうらら。他はそこの客達だった。中でも和泉いずみ春人はるとは、早期リタイアを達成したばかりで怒り心頭だった。  


 だが、まずは若いカップルが不満を言う。


「何なのよこれ。ここはどこ?」

「なんだよこれ。家に帰してくれ。」


 和泉いずみ春人はるとだけは、冷静にその状況を推測している。


「勇者。異世界召喚か。お前等、勝手に俺達を呼び寄せたな。ふざけるな。俺はやっと、リタイア出来た所なんだぞ。今まで死に物狂いでお金を稼いで、これからやっと遊んで暮らす予定だったんだ。」


「静まれ。……ヴォンヌ司祭。説明せよ。」


 ヴォンヌ司祭と呼ばれた男が、説明を始める。


「勇者様方、我々の大陸は、現在は魔王との交戦中なのです。戻る方法はございません。ですが、地位も名誉もお金も補償しましょう。もちろんご要望とあらば好みの異性もあてがいますよ。魔王の討伐に協力さえしていただけるのなら、この大陸で幸せに暮らせるのです。」


 春人が、ヴォンヌを睨む。


「それに従わない場合は?」


「ここから出て行って頂いて結構です。なにしろ、我々が予定していた人数より多いのですから。」


 春人は唇を噛みしめる。従わなければ何も分からない異世界に放り出されるのだ。

 反対に高校生カップルは春人達の話を聞きすぐに順応していた。


「俺が欲しいのは地位と名誉と金と女だ。」

「剛あんたって最低ね。……それなら私は、お金と綺麗な服をたくさんと豪華な屋敷とパーティーを頂戴。」


 少年は地位と名誉と金と女を、少女は金と服と豪華な屋敷に社交の場を所望する。


「もちろん。それくらい容易い事です。それでは、こちらで鑑定を。」


 カップルの少年から最初の鑑定が始まる。


 


『天堂剛 15歳 Lv1 職業 勇者 

 属性  火 風 


 ≪ 天賦の才 ≫

 言語理解

 剣技 - Ⅳ -

 烈火 - Ⅱ -


 ステータス


 HP 45

 MP 30

 SP 30

 CP 1 

 スタミナ60


 力 3

 魔 3

 守 2

 精 2

 器 2

 早 2

 運 2 』


 

「なんと。剣術Ⅳに火属性の威力が高まる烈火Ⅱ。職業は勇者様だぞ。Lv1でなんというステータス値だ。ついに本物の勇者様が誕生したぞ。」


 ヴォンヌは勇者の職業とその天賦の才などに熱くなり、勇者の手を掴み天に掲げている。

 三国の王達がその奪い合いを始めそうになったが、少女が剛に代わり鑑定の場に進んだ事で騒動は収まり次の鑑定へと目を光らせる。


 


『雨宮雫 15歳 Lv1 職業 大魔道 

 属性 水 風 土 


 ≪ 天賦の才 ≫

 言語理解

 杖技 - Ⅰ -

 流水 - Ⅳ -


 ステータス 

 HP 30

 MP 45

 SP 10

 CP 1

 スタミナ60


 力 1

 魔 5

 守 1

 精 3

 器 1

 早 2

 運 2 』


「大魔道に三属性、それに水属性の威力が高まる流水がⅣだぞ。我が国に大魔道士様が誕生されたー。」

 

「ヴォンヌッ。貴様、勝手にそなたの国の物であると決めるな。」


 今度は流水がⅣである事と、三属性や大魔道のジョブなど、雫のポテンシャルを称え獲得を求めて、三国が議論している。


 ヴォンヌ司祭は国王達の争いを横目に次の女性をエスコートする。それで三国の王達は議論を止め鑑定に集中する。



『 村雲あられ 21歳 Lv1 職業 聖女 

 属性  聖


 ≪ 天賦の才 ≫

 全言語理解

 棍聖技 - Ⅲ -

 錬金  - Ⅲ -

 治癒  - Ⅲ -


 ステータス 

 HP 150

 MP 100

 SP 100

 CP 1

 スタミナ 60


 力 10

 魔 10

 守 10

 精 10

 器 10

 早 10

 運 10  』

 


「……聖女だと。治癒? 回復魔法などこの世に存在するのか? ステータスなど、その全てが規格外。何よりもこの聖皇国にこそ相応しいお方だ。」


 ルキウス聖皇が立ち上がり、拍手で称える。他の二国はずるいぞと口々に文句を言い出した。


 聖女が誕生した事にルルシア聖皇国の幹部達が喜び合う。聖女とは今までの歴史の中でたった一人しかいなかった伝説的な職業だった。ステータスも他の勇者達よりずば抜けていた。


 今回の勇者召喚のホスト。ルルシア聖皇国が、神の名の下に我が国に相応しいと聖女を勝ち取る事になった。



 やや遅れ、次の鑑定へ移る。春人に目の保養と言わしめた美女店員が鑑定を開始する。


 


『愛媛うらら 17歳 Lv1 称号 戦女神 

 属性 天  


 ≪ 天賦の才 ≫

 全言語理解

 一騎当千  - 絶 -

 武戦技  - Ⅰ -

 戦威魔法  - Ⅰ -   

 戦気完全開放 - 超 - 


 ステータス 

 HP 150

 MP 100

 SP 100

 CP 100

 スタミナ 60


 力 10

 魔 10

 守 10

 精 10

 器 10

 早 10

 運 10 』



 

 見た事のない属性と、豊富な天賦の才や聖女程のステータスに一同が静まり返る。王や聖皇国の幹部達にとって、そのどれもがはじめてだった。一同は混乱する。

 これに、大魔道雫が嫉妬している。


「……店員のくせに。」


「おいお前っ。早く鑑定しろよ。」


 その混乱の中で勇者剛が、春人の手を引いて鑑定の魔道具の所に連れて行く。

 一同は鑑定に注目した。

 


『和泉 春人 20歳 Lv1 称号 無職


 属性 

 無


 ≪ 天賦の才 ≫

 全言語理解

 料理  - Ⅰ -

 節約  - Ⅰ -

 豊穣  - Ⅰ -

 遊戯  - 無 -

 素材  - 無 -

 生活  - 無 -


 ステータス

 HP  15

 MP  10

 SP 100

 CP 160

 スタミナ 60


 力 1

 魔 1 

 守 1

 精 1

 器 1

 早 1

 運 10 』


 


 


 勇者の剛と大魔道の雫が春人の鑑定結果を見て、大笑いしていた。


「なんだよこいつ。無職だって。使えそうなステータスはほぼ1だし、料理、節約、豊穣、遊戯、素材って、せっかくの異世界で戦闘には、まったく関係ないじゃんか。これは勇者の召喚なんだぞっ。残念。お前だけは大外れのいらない存在だな。」

「ウケルー。無職で魔法無しとか。生活には困らなそうだけど。」


 二人は、春人の事を馬鹿にして大袈裟に笑っている。その言葉に誘導され、異世界人達も馬鹿にしたように苦笑していた。


 うららですら常連だった春人を気遣う様子も見せず目を背けている。


「……ちくしょう。」


 春人は、その場にいる全員の馬鹿にするような視線や声に、悔しくて拳を握りしめ立ち尽くしていた。

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