第12話 魔法の力

「おはようございます。セイラ姫。」


「んー。眠い・・Zzz」


「今日の予定ですが・・・セイラ姫、聞いて下さい。」

「はい・・・」


「セイラさま!!」

「はい!!」


「・・・今日の予定ですが、午前中はオオツキさまから魔法のレッスンです。午後からエンヒコ様の剣の訓練があり・・・セイラさんっ!!」

「!!・・お、おはよう、ミリアさん。」


「しっかりしてください。明日からは五穀豊穣を願った祭事があるんですよ。大和国王女として・・・・。セイラ!!起きなさい!」


「はい!・・ごめんなさい。もう起きました・・・」


「もう!!お願いしますね!ほんとにもう毎日毎日、今日の予定ですが、・・・・って、寝てますがな!!このくだりはもう終わりです!もうやめて!!」



 セイラの朝はいつも同じようにめんどくさい。ちなみに朝が弱いのは、母親譲りである。

 もっとも、セイラからすれば、毎日夕方になればクタクタになるのだから、眠いのも当然だといえた。


 日々、魔法や薬草の勉強に加え、剣や弓、狩などあらゆることを学ばなければならない。女王になるための帝王学である。

 これは、母オオツキの方針であり、民の幸福に役立つ事はなんでもやるべきだと考えていたからである。


 剣や弓などは及第点であったが、占いや魔法は今一歩。もう少し時間が必要である。ただ、占いや魔法で二つだけ母オオツキを超える能力があった。


 一つは占いである・・・。


 誰が好きで、それが成就じょうじゅするかどうかが確実に分かるという恋占いである。この時代において全く不用な能力といえた。

 その割には、この占いの体力消耗は半端なく、数日食事が喉を通らなくなってしまう。恋だけに副作用も恐ろしい・・・。


 この後遺症が残ると分かったのは山国のハルの願いを聞いた時であった。


 ハルは自分の将来が不安だったようだ。どうしても意中の人が自分をどう思っているかが知りたかったのだ。

 その依頼に応えた時、恋愛を疑似体験しただけで、なんとも言えない感情がセイラを大人にした。その後は自ら進んで、恋占いをするようになったのだが、あまりにハマりすぎて見る見ると痩せ細っていったためにオオツキから恋占い禁止令を受けることとなってしまった。


 セイラが占いをする時は、水を張ったたらいに足を付けて行う。


 たらいの水に、自らの髪に編み込んだ朱色の麻糸を落とす。そして、浄水を数滴落とすと、知りたい人の魂が乗り移り、その人の考えや思いを知ることができた。


 浄水とは、大和国の新滝の水に、女王の丸い鏡を一晩漬けることで完成する。この浄水は鎮魂の儀などでも使われるもので、最近は使用頻度が増加し、毎晩のように作らなくてはならなかった。


 もう一つ、オオツキを超える能力がある。


 それは、生命力を回復させることができる魔法である。この能力のお陰で、何人もの命が助かっている。

 但し、この魔法も副作用が激しく、一度使うと、数時間はほとんど動けなくなるという難点があった。つまり、多くの死傷者が出てしまう戦いなどでは封印せざるを得ない禁断の魔法でもある。


 しかし、セイラとしては、救える命は全て救うという考えを持っており、三日に一回はこの魔法を使用し、三日に一日はぐったりしているという日々を送っている。


 

 確実に成長しているセイラを見て、オオツキは考えていた。やがて来るであろう自分の寿命のことを。

 

「はやく、セイラに引き継がなくては・・・・・」

 

 オオツキの優しい青い目が赤く染まっていた。

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