第18話 終わりの始まり
貢物を届けるのは海国の役割であったが、海国はレイ女王に代わって間もないこともあり国の再建に苦労していた。レイも貢物を届けるという責務を果たしたいと望んだが、大和国女王のオオツキはそれを許さなかった。
オオツキも今回の貢は危険だということを察知しているのであって、絶対に失敗は許されないと理解しているからである。そこで、オオツキが最も信頼するエンヒコとヒロトにその役割を命じていた。
そして、今、エンヒコとヒロトが乗った船は、大陸を流れる大きな川を遡り、黄金の国、ザオ王朝の港まで来ていた。
船から見える広大な街は栄え、商人や役人、異国から来た権力者たちが飲み、笑い、叫び、酔い、
これはどうしようもない事実であり、どうしようもない規範である。逆らうことは絶対に出来ない、逆らうことは死、逆らうことは消滅を意味するということが解る。
ザオ王朝皇帝が住む城、黄金と大理石で出来たザオロン城が聳える街が、ヒロトの心を蝕んでいる。山に囲まれた小さな国、大和国とは比較にならない大きさと荘厳さに、驚きというよりも自らの無力さを痛感しているのである。
この国には絶対に敵わないという諦めが支配している。ヒロトは小さな声でエンヒコに聞いてみた。
「麻糸、毛皮、朱、米これだけの貢をしなくちゃいけないなんて。皇帝さまはどんな暮らしをしているのかな?」それを聞いたエンヒコはヒロトを睨みつけた。
「ヒロト、よく聞くんだ。ここから先は皇帝さまの話はするな。誰がどこで聞いているか分からん。貢物を置いたら大和国へ帰る。ただそれだけだ。」
エンヒコもまた、これまで感じたことのない恐怖が襲っていた。自分一人で何事も収められた今までとは次元が違うものが目の前にあるのである。自らの肉体と剣ではどうしようもないことがあると、生まれて初めて理解しているのである。
大和国を出てくる時に・・・
「言葉だけで命がとられるということを肝に銘じてください。」というオオツキの言いつけを思い返していた。そして、自分の考えが
「ヒロト、これから貢物をザオロン城へ運ぶが、皇帝への謁見は一人でする。お前はこの船で待っていなさい。」
「えっ!どうして?ぼくもお城へ行きたいよ。」ヒロトは最後の最後で自分だけ残ることに納得いかない様子である。
「ダメだ。今回だけは船で待つんだ。もし、何かあればすぐに船を出して大和国へ帰れ。」
「何かって、何さ?」
「去年は狗魔族に襲われ貢物を持って来ていない。それは執政官のギルトさまに了承いただいているが不安が残る。」
「僕も一緒に行くよ。父さんだけに危険なことはさせられない。」言い終わる前にエンヒコはこれまでにない口調で息子を怒鳴った。
「ダメだ!」
その目は見たこともない悲しく、憤りともいえる苦しい目をしている。
「お前はここに残れ。」
エンヒコの絞り出した言葉にヒロトも従うしかないと思ってはいる。
「もし、万一、何か起これば、そのようなことがあれば、船に誰かを来させる。おまえは、必ずオオツキさまに全て伝えるのだ。わかったな。」
「何かって、だから何さ?」ヒロトは頭では理解していたが心が受け付けなかった。
「分かったな。」再びエンヒコは言った。
「・・・・・」ヒロトの腹が受け付けない。
「分かったのか!」エンヒコの心底からの叫びがヒロトの腹の底にようやく届いていた。
「わかったよ。・・・父さん。」
「ヒロト、今から言うことをよく聞け、もしものことがあれば・・・・・」エンヒコは、あとの行動について細かくヒロトに指示を出した。
体中から湧き出る恐怖と寒さがヒロトを襲っていた。ヒロトはエンヒコの話を聞きながら、何も起こらないでくれと願うのみであった。
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