第17話 宿命

 ウルフが手にした大和国の剣は不思議なほど素晴らしく斬れる。


 既に何十人もの命を犠牲にしていたが、その剣の奥行がまだ見えない。剣の限界が見えないのである。全く抵抗を感じずに、何でも斬れてしまう。


 その剣を作った大和国への興味と、もっと素晴らしい剣を手にしたいという欲望を抑えることが出来なくなっていた。


 東の果てにある小さな島、そこにある大和国を、すぐにでも自分のものにしたい。その方法を毎日のように考えているのである。その思いは日増しに増長し、大和国をよく知るであろう男に好奇心が湧いてきていた。


 エビルである。


 東にある島国と敵対し、王達をことごとく死に追いやったという話をルークからも聞いている。

 その男をどうしても召喚したいのである。そして、エビルをうまく使って、より素晴らしい大和国の剣をその手にしようと考えているのである。


 一方のエビルも、次期皇帝ウルフに会いたいとずっと考えていた。いや、会わなければ始まらないと覚悟もしていた。


 エビルはこれまでに何度も東の島を掌握する機会があった。しかし、ことごとく、あと一歩というところで失敗しているのである。その思いを達成するには皇帝の力が必要であり、何とかウルフに近づきたいと思っていた。


 エビルは、ザオ王朝次期皇帝ウルフが自分に会いたいと聞いた時、これまで見たことのない常軌を逸した歓喜の舞を見せたという。その様子は余りにも異様であり、見ていた回りの狗魔族から数日間笑いが消えるほどの舞であった。

 

 そして、今、ザオ王朝の城、ザオロン城に狗魔族首領のエビルが来ている。


 エビルが、ウルフの前に静かに膝まづいている。


 エビルの頭から足先に至るまで、赤と黒で染め抜かれ、異様な文様が入り混じっている。もう、この世の生き物とは思えぬ奇怪さである。あまりの異常な姿にウルフですら少し恐怖を抱いているのである。


「おまえが東の果ての島から来たエビルか。」


「はい。」


「・・・。さて、お前は大和国を知っているか。」いつものように周りを凍てつかせるような緊張が、その部屋を制圧していた。


 ウルフの噂はエビルも聞いており、言葉を間違えると自分の命がないことも理解している。危険な賭けでもあるが自分の目的を成しえるには避けては通れない。


「大和国は女王が治める国。素晴らしい『たたらば』を持っています。そこでよく斬れる剣を作っています。」


 エビルの声も野太いが、ウルフの前では少し浮ついてしまったためか、いつもより声が高いことを自分自身で確認していた。


「ああ。その剣はここにある。これは本当に素晴らしい。」


 脇にある剣を触りながら、目の前の異様なエビルを吟味している。

 そこでエビルは少しかしこまると、ウルフを見上げ、進言した。


「東の島を私にお任せいただけますれば、更に素晴らしい剣をウルフ皇帝様にお送り申し上げます。」


 ウルフはまだ皇帝ではない。が、既にウルフを皇帝と言ったことに我が意を得た。


 そして、日頃から感じていたことを実現できると直感的に感じると、鼓動の高まりと沸き立つ血を抑えることが出来なくなっていた。

 ウルフは周りにいる護衛兵をすべて部屋から出すと、エビルと二人きりでしばらく話をしたのである。


 ザオロン城の空は厚く黒い雲で覆われ、稲妻が鳴り響いていた。二人の思いが重なり合った未来予想図に悪魔たちが狂喜乱舞している。


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