第14話 土国の戦い
「俺が酒を飲んだばかりに・・・・・。くそ!くそ!俺はなんてバカなんだ。」
ケイイチはこのところずっと自責の念に陥っている。
土国の応援に駆け付けた大和国のセイラ、エンヒコ、ヒロト、山国のハル女王、リュウを前にしても悔むばかりであった。
「ケイイチさま、あなたが行ったとしても・・・お父さまは、貴方が逝かなくて良かったと言うでしょう。」セイラはケイイチを庇う言葉がもう思いつかない。
「しかし、私が行くべきでした。毎日そのための訓練も見回りもしているのですから。」と自分が死ぬべきだったという。
「ケイイチさま。私も父をエビルに殺されました。私もケイイチ様と同じように苦しみました。でもようやく分かったんです。悔んでも父は帰ってきません。私たちがしっかりと思いを継いでいかなくては。」
ハルに続いてリュウも勇気づけた。
「ケイイチ国王、一緒に戦いましょう!山国は五百の弓隊を連れてきています。同盟国が結集すれば、狗魔族を殲滅させられます。」
「われら大和国は千の兵を招集しています。」ヒロトも続いた。
「ところで、エンヒコ。敵の数はどの程度まで増えているのですか。」セイラは狗魔族が増え続けていることに疑問を抱いていた。
「偵察が調べたところ既に参千を超えている。特に大陸から兵が集まっているとのこと。そこが不思議でならんのですが・・・ただ、我々も土国の兵や民も含めると三千を超える。数の面では互角。」とエンヒコがセイラ達に答えた。
「どう戦うかですが、この土国城で敵を待ち受けるのが得策だと思うのですが。」
エンヒコがケイイチに顔を向けた。
「ケイイチさま、城で向かい受けるのはどうでしょう。」
セイラも同調してみたが、ケイイチは少し悩んでいる。
「土国の城は四方を高い壁に覆われています。その壁も三層になっています。一番外側の壁は相当な厚さがあり、仮に大軍が押し寄せてきても絶対に打ち破られるものではない堅牢な城です。」皆がその言葉に安心した。
「しかし、守りについては何ら問題ないのですが・・・・この城の唯一の弱点は水です。周りを敵に囲まれると、数日で水不足になり中の兵や民は餓死するでしょう。もちろん、そのような内情は狗魔族には分からないでしょうが、城の中で守るよりも、西方の村に築かれているであろう狗魔族の拠点をこちらから攻めることが必要かと。」ケイイチの苦しそうな回答にみな理解していた。
「打って出るか。でも、打って出るには作戦が必要ね。」セイラは改めてエンヒコに聞いてみた。
「ケイイチ殿、西方の地図はありますか?」
「はい。もちろんです。こちらです。」と王の間の大きな机に皆を案内した。
王の間の机の上には土国全土のジオラマがある。一目で分かる豊かな国である。
全員が机の上のジオラマを見詰めているのだが、誰もが渋い顔をしている。なぜなら狗魔族が集結している村は少し高台になっており、下から攻めるには明らかに不利な地形である。当然に弓や槍も使いにくいと考えられる。
「敵は三千人程。真正面から攻めてはこちらも相当に死者が出るな。」と、エンヒコが蓄えている髭を撫でている。
「厳しい戦いになりそうですが、土国が一番最初に攻め込みます。」ケイイチは既に復讐に燃えている。
当然にエンヒコやヒロト、リュウも先の戦いでエビルを倒すことを誓った仲間であり、決して逃げるつもりもない。
「ケイイチさま、この戦いは土国だけの問題ではありません。同盟国の運命がかかっています。」セイラがケイイチを改めて諫めた。
「どちらにしてもこの戦いが最後になるという覚悟です。」ケイイチは決死の覚悟を決めているのだ。
「リュウさま、何か妙案はないかのう?この地形は狗どもに有利。」と、エンヒコはまた蓄えている髭を撫でた。
エンヒコは作戦を考える時が一番楽しそうである。死者を少なくすることが自分の使命と考えており、それは、これまでに多くの鎮魂の儀を執り行い、死者を神に返してきたからこその思いでもある。
「そうですね。・・・狗どもは主に槍で攻めてくる。ここは弓で遠くから攻めるのが得策だと思いますが・・・」弓の名手でもあるリュウが苦しそうに答えた。
「そうよな。狗どもを誘い出して弓でやるのが一番。んー!?ところで弓は今どの程度あるのだ。」エンヒコはまた髭を撫でながらみなに聞いた。
「土国には、多分二百ほど・・・。」ケイイチは剣や鎌を揃えてはきたが、弓などは調達してこなかったことを悔いた。
「私どもには三百はあります。合わせると五百です。」ヒロトが任せとけと言わんばかりに乗り出した。
「山国は五百。合わせると千の弓隊だ。この戦い勝てる!」リュウが長い髪をかき上げながら目をエンヒコに向ける。
「どうゆうこと?」ハルはリュウに目を向けた。
「ここまで敵に攻めさせるのです。」
「・・・なるほど。」
「でも弓矢はどの程度必要かしら。」ハルは少し不安になって聞いてみた。
「あと1万本は必要かと」リュウは敵の多さから追加するよう進言した。
「わかった。・・・・ヒロト、すぐに発って桔梗に作らせるんだ。」
「はい。父さん。五日後までに帰ります。」
「急げ。四日で戻るんだ。」
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土国の西の果て、エビルの言う狗魔国が出来つつある。
しかし、急拡大させた軍隊でありながら、そこから一歩も動こうとはしない。通常であれば、更に東を攻めて領地を拡大させるはずなのだが、全く動こうとはしないのである。
「何だか不気味ですね。何かを待っているのでしょうか?」リュウは不思議そうにエンヒコに聞いてみた。
「何にせよ。好都合だ。桔梗のお陰で弓矢も間に合った。今攻め入るのが得策かと思います。」エンヒコは最終決断をセイラに促した。
「このままお見合いしててもこちらに分が悪いのは明白。明日、決行しましょう。皆さま如何でしょうか!」
「はい。」「やりましょう。」「おう!!」
決戦は明日早朝に決まった。
その夜、リュウは、作戦通りに村を出た。村から南にある窪地に囲い込むよう千の弓隊を配置し準備を整えた。
狗魔族をおびき寄せ、大きな窪地の中に誘い込んだら、隠れていた弓隊が一気に周囲から射るという作戦である。
そこまでおびき寄せるのは、ケイイチ達土国の兵や民。約五百人が
加えて、この作戦にはもう一つの策が必要でもあった。それは最後尾にいるであろうエビルを仕留める必要があるからだ。エビルは極めて用心深く、決して戦いの場に自分を置こうとしない。つまりは、作戦が始まったら西側から村に侵入し、挟み撃ちにすることが必要であった。そのため、昨夜から西側の茂みの中にエンヒコ、ヒロトを中心とした兵を約千人配置させるよう動いていた。
決戦当日の朝である。
配置を終えた時に既に勝敗は決していたと言っても過言ではなかった。
ケイイチを中心に五百人の土国民が攻め入ると、寝起きの狗魔族は最初は驚いたものの、また馬鹿が攻めてきたと色めき立った。
村にいた大半を攻めに向かわせ、逃げる土国民を執拗に深追いしたのである。
狗魔族が村から下って窪地に入ってきた時、リュウから合図が発せられた。朝焼けの空が真っ黒に染まるほどの矢が射られるなかで、狗魔族は次々と倒れ、完全に錯乱状態となっている。
生き残った輩も、また村へ帰るしかないのだが、ようやく逃げきったと思った狗魔族も、先回りしていたエンヒコとヒロト達の剣が、ことごとく敵をつらぬいていった。
この戦いで同盟国の死者は数百人、狗魔族はほぼ壊滅したといえる圧倒的勝利となった。
しかし、しかしである。狗魔族は汚くも賢い。この戦いは一方的な戦いに終わっている。狗魔族で最も用心深く、ずる賢いエビルがこのような戦いをするはずがないとみな分かっていた。
それもそのはず、この戦いの場に、首領エビルはいなかった。その身は既にザオ王朝にあったからである。
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