第9話 ツル

 山国の東側にこの島で一番高い山が聳える。


 頂上付近は一年中氷った山である。その名を『ツル』という。


 山国女王ハルは、『ツル』の中腹にある王宮に暮らしている。山を守ることが山国王家の使命であり、それが全てである。なぜ山を守るのかという疑問を抱いたことはハルには全くない。そこに『ツル』があるからだと答えるしかない。山国の民は、『ツル』から水、食料、動物の命を得て生きているのだ。


『ツル』の頂ははがねの塊である。雪や氷を除き、鋼を削り出し、大和国で精錬される材料とするのだが、頂上で採掘できるのは山国の王だけである。すなわち、採掘される量は極めて少ない。


 これまでに何度もこの鋼をめざして、多くの狗魔族が登頂を試みていた。しかし『ツル』の山は険しく、通常の人は登りきることは到底出来ようもない。


 一つ目の難所はどう猛で人より大きなオオワシの巣がいくつもあり、登る者を見つけると襲撃するのである。


 二つ目の難所は頂の直前に垂直にそびえる氷の絶壁を自らの手足のみで登らなければならない。


 これらを乗り切れる人間はこの世界にはまずいない。山国の王を除いて。

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