第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 21

 それにしてもだよ。

「毛利さんと萩原さんを通して私も会議に参加してましたぁ」

なんてシスター藤原は言うけれどさ。

僕や三島さん、橘さんと秋吉の視聴覚も絶対に確かめていたと思うな。

 心を読めなくても表情や話し方、微妙な所作を観察できれば分かる事は多いよ?

シスター藤原は千年以上もドナムを使ってきた訳だしね。

シスターはその場のコンテクストから、観察対象の思考を存分に類推できるのじゃないだろうか?

それこそ心を読むレベルでね。

 ドナム使いとしてのシスター藤原は、最早名人達人の領域と考えた方が良い。

だからシスターに、三島さんを騙す秘密の裏技があったって不思議でもなんでもない。

そうでなければシスターが、ああも無防備に三島さんの読心を受け入れたことの説明が付かない。

 僕たちに示されたシスター藤原の信頼はそのまま僕たちに、

『OFUに対する無条件の信頼を要求する』

と言うことでもあるに違いない。

 「ごめんなさいね。

あなたたちに拒否権はありません。

一つ間違えると世界中のドナム保持者が、現代版の異端審問に晒されることになりかねませんからね。

私達はお互いに分け隔てなく助け助けられ、可能な限り長く続く平穏で幸福な暮らしを手に入れましょう」

「わたしたちに依存はありません。

ボランティアに参加する前に差し当たり、わたしたちはどうすれば良いですか?」

先輩がまたもや既に知っていることを、三島さん以外のメンバーのために質問してくれる。

「これからもう少し詳しくあなた方のドナムを分析して、データベースに収納したいと思っているのです。

あなた方は何もかもが例外だらけですからね。

私も、その・・・。

千年以上ドナム保持者として生きてきました。

しかしながら。

一人の人間を親元としてドナムが多発的に拡散発生した。

そうしたケースはこれまで見たことも聞いたこともありません。

世界中の何処のデータベースに尋ねたって首をひねるばかりでしょう」

「データベースって記録保管庫とか磁気テープじゃないんですか?」

データベースに尋ねるってなんのこっちゃと、僕は思わずシスター藤原の話の腰を折ってしまった。

「マドカ。

そういう質問は後にしなさい」

先輩に叱られた。

「いいのですよ。

お分かりにならないところは、少しづつご説明していかなければなりませんから。

疑問な点は話しの途中でも遠慮なく聞いてくださいまし。

円さん!」

シスターが小首を傾げて、自身満々と言う体で天使の笑みを浮かべる。

笑止。

うちの天使たちに比べるとかなり見劣りするのが痛々しいよ?

シスター。

「OFUに於けるデータベースって言うのはですね。

情報をため込んで検索したり、相互の関連性を見つけることができる。

そうしたドナムを持つ者達のことを言います。

その昔は御文庫なんて雅な呼び方をしてました。

これはそんなに珍しいドナムではありません。

ひとりでいくつか保持しているドナムの内の一つにすぎないと言う人が多いですね。

かくいう私もデーターベースのひとりですよ。

私が持つデータの中に、円さんのような特殊なドナムを持った人。

ドナムの感染源とでも表現したくなる人は、過去にも現在にもまったく見当たりませんね」 僕はレイ・ブラッドベリの“華氏451”に出てくる暗唱人間を思い出していた。

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