第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 20


 「さっき藤原さんは『自分は遠隔感応使いだ』って仰ってました。

それってうちの三島みたいに人の心が読めちゃうってことですか?」

僕は三島さんや三島さんと繋がった先輩みたいに読心ができる訳じゃない。

そこで橘さんや秋吉のためにもあえて大きな声で質問してみた。

「いーえ。

私のドナムは人様の目と耳。

付け加えれば鼻や舌の感覚を、それと気付かれずに横から拝借するだけですよ。

遠隔感応なんて呼んでいますけれどね。

三島さんみたいに人の思いや考え、記憶を読み取ることはできません。

こう言っては何ですが、三島さんみたいなタイプの読心はデータベースから見ても、かなり稀なドナムだと思います。

私は先程それを実感してしまいました。

三島さんに心を読まれている時一瞬でしたが・・・」

シスター藤原は目を伏せて一拍置く。

「私としては想定外の情報まで引き出されていることに気が付きましたからね。

私だって伊達や酔狂でドナム使いをやって来た訳じゃありません。

思わず三島さんの手を振り払うところでした。

三島さんの情報抽出の速度は異常に早いようです。

少し頭もぼーっとしてしまって、最後の方はほとんど何をされているのか分からなくなりました。

読心とは言っても三島さんのドナムは、他人の情報をまるでストローでちゅうちゅう吸い取るようなドナムです。

少なくともわたくしのデータベースにそうした読心ドナムの記録はありません。

正直、三島さんの手を取ったことをかなり後悔しましたよ?」

好きなバンドの話でもするかのようなシスター藤原の笑顔である。

「お褒めに預かって光栄です」

三島さんがにっこり笑う。

二人の視線が空間で行き会って火花を散らしたように思えた。

 

 「藤原さんは先ほどこれからの事と仰っていました。

今それをお聞きしてもよろしいですか」

先輩が、萩原さんに対する時とは打って変わり敬意に満ちた淑女モードに入った。

奥ゆかしい先輩のことだ。

シスター藤原から源氏関係以外の情報をぼったくったことに少し罪悪感もあるのだろう。

「単刀直入に申し上げます。

OFUとしては今後あなた方には、私共の仲間として活動を始めてもらうことになります。

具体的には桜楓会の会員として、これから時折割り振るボランティア活動に参加して戴ます。

随時の情報共有やドナム保持者同士の互助は、表向きそういった体裁をとります。

私の心を余さずお示しした以上、NOとは言わせませんからね」

シスター藤原は新入生に入部を進める上級生のような軽い口調で、さらりと言ってのけた。

柔らかな笑顔を浮かべながらね。

「わたしたちにはOFUとかかわりを持たないと言う選択肢はないのですね?」

先輩はとっくに分かってましたと言う表情をする。

けれどもそこには怒りも諦めもない。

ただ僕や橘さんや秋吉に対しての配慮が感じられるだけだ。

 三島さんも涼しい顔をしている。

彼女が源氏物語の失われたエピソードをシスター藤原から読み込んだその時。

OFUについての情報も余すことなく吸い上げたのは確かだろう。

ミ・シ・マらしいと言えば三島さんらしい。

<輝く日の宮>だっけ?

彼女が光源氏の初エッチの巻を読みたくて仕方がなかった。

そのことに嘘偽りはないだろう。

けれども『敵情を知り尽くしてやれ』と言う目的こそ。

彼女がシスターに対して行った読心の本筋に違いない。

 先輩に負けず劣らず頭の回転が速い三島さんのことだ。

シスター藤原が手を差し伸べて自分の心を開示すると意思表示をした瞬間。

彼女は奪取すべき情報をリストアップしただろう。

情報の奪取については、お楽しみとは別建てで読心をコントロールしたと言う事さ。

 賢い三島さんは僕を相手に読心術を自由自在に操りながら、なおも日々スペックの向上を図っているからね。

それくらいお茶のこさいさいだろう。

 三島さんが鼻息荒く僕を引きずっていく時にだよ。

僕と三島さんの一時接触をあれほど嫌う先輩がニコニコ顔で静観してたんだ。

それが何よりの証拠だろう。

この辺の二人の呼吸は正に阿吽で、僕にもまねできない。

最近はひょっとするとこのふたり。

僕の介在が無くてもサイコな意志疎通が出来るようになっているのかも。

なんて思うこともある。


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