第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 22

 「あなた方が保持するドナムについてはです。データーベースを除いたドナム保持者の間では、しばらく㊙の限定情報になるでしょう。

加納円君が考えなしにホイホイドナム保持者を作り出しただなんて・・・。

そんなこと、仲間内にだってうかつに晒せる情報じゃありません。

加えて、各人に生じたドナムは毛利さんを除いて。

加納君が肉体的に接触あるいは介在しない限り発動しないだなんて・・・。

OFUが知るドナムの知識では説明できない現象ばかりですからね。

それに・・・。

橘さんの“世界線のリセット”については、果たしてこれをドナムの範疇に入れて良いものかどうか・・・。

それすらデータベースの歴史認識だけでは判断できないと私は考えます。

OFUとしては、先ずは世界中のデータベースと情報を突き合わせて共有するところから始めなければなりません。

夏目総司についての調査もじき始めなければなりませんし。

彼については皆さんにもご協力いただくことになるかもしれません」

シスター藤原はやけに年寄り臭い、いや年成りな溜息をつく。

「とにかく、現時点で分かっていることから総合するとです。

私たちが当面目指す至上命題はですよ。

円君をいかに死なせず長生きさせるかにつきますかね。

橘さんには後ほど、あなたが意図的に隠していらっしゃるよしなしごと・・・。

そんなものもひっくるめてですが。

もう少し詳しく情報を提供していただければと考えております」

亀の甲より年の劫というからね。

シスター藤原にとって僕らなんて、昨日今日生まれた坊やとお嬢ちゃんでしかないだろう。

シスターは読心のドナムはないと言い切っていたけれどどうだろう。

僕らの考えなど千歳(ちとせ)を数えるシスターの老獪な知恵をもってすればだよ。

まるっとお見通しなんじゃなかろうか。

 「今のところあなた方の誰に異変が起きても結果は同じ。

橘さんのお言葉通りなら。

円さんの精神と身体が不安定になり、やがて若くして死に至るようです。

円さんが死ねば、そこで橘さんのドナムがオートマチックで発動。

世界がやり直しになるわけです。

さすがにそれは勘弁してくださいですね」

シスター藤原が十字を切る。

彼女の出自を考えればそれってどうなんだろう。

シスターの信仰についてじっくり意見を伺いたいところだ。

「本当の所、毛利さん以外の能力はまんま本来はまどかさんの能力。

そう考えて良いのかもしれません。

こういう言い方は何ともあれですが。

三島さん、橘さん、秋吉さんはドナム的にはまどかさんの周辺デバイスと言うことかもしれません。

そう考えると、先ほど橘さんが「違う世界線では病気にもなったし歳も取った」と言った理由が説明できるかもしれません」

「と、おっしゃると?」

先輩が小首を傾げる。

「あなた方のドナムは本質的には本来まどかさんが保持していた能力なのでしょう。

それをどういう目的かは見当もつきませんがね。

まどかさんの無意識が自分から切り分けて、紐付きでほかの人に分配したのです。

まどかさんのセントラルドナムは間違いなく飛行術です。

それをまず二つに分割しました。

水平移動のドナムを毛利さんに渡して、垂直移動のドナムだけを自分に残したのでしょう。

飛行の能力は元々がセントラルドナムですからね。

毛利さんはそれを、まどかさんの干渉を抜きにして自在に操れるわけです。

三島さんの能力と繋がれるのもそれが理由でしょう。

他の時間線で毛利さんが亡くなった時にはリセットが起きなかったとのこと。

紐付きとは言ってもやはり橘さんのドナムは独立していると考えられますね。

分家みたいなものでしょうか。

あなた方の全体像を総合して思うのですが。

ひょっとしたら、毛利さんは秋吉さんと三島さんのドナムを、円君みたいに発動できるのではないですか?」

“あきれたがーるず”が同じタイミングで目を丸くした。

そんなこと考えたこともなかった。

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