第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 16

 「・・・私もリエゾンになってから随分になる。

だが、時間線のリセットなんていう途方もないドナムは聞いたことがない。

・・・エヴェレットの多世界解釈は正しかったのか。

・・・えらいことになった」

萩原さんが茫然自失と言う感じで、独白とも呟きともつかない言葉を口にする。

「正直、信じられないと言うのが本音だ。

橘さん以外には誰も体験的には検証できない・・・。

そうした彼女のドナムを皆は信じているのだね?」 

ここは僕がしゃしゃり出て一言物申すべきところだろう。

「僕だって橘さんがリセットの話をしてくれた時にはです。

『橘さんって実は危ない人?』って思いましたけどね。

話を聞いているうちに橘さんが本当のことを言ってるって確信しちゃいました。

それに・・・」

僕は三島さんに目線を向ける。

「他の子達もそれに異存はないと?」

萩原さんも僕の目線の意味に気付いたようだった。

「わたくしとルーさんは直接佐那子さんの記憶を読んで追体験してますから。

・・・佐那子さんのマドカ君命な剛腕サバイバーぶりには、ただただ敬意の念しか湧きませんでしたよ?

わたくしたちはふたりとも、ただ佐那子さんの記憶を読んでるだけで気がおかしくなりましたから。

後でアキちゃん。

秋吉さんにお願いして、少しトラウマ体験を削ってもらったくらいです」

三島さんが何も知らないくせにという半眼で萩原さんを見る。

 「・・・もしかしたらこの世界は加納君と橘さんの・・・。

いや止めておこう」

萩原さんは世界線のリセットについて何か思いついたらしい。

けれどその思いつきを口にすることはなかった。

橘さんは、そんじょそこいらのアイドル程度じゃとても太刀打ち出来そうにない。

そんな飛び切りの笑顔で、機嫌よくピースサインをして見せる。

萩原さんがばつの悪そうな顔になり、ヒッピー梶原が珍しく男臭くて渋い笑みを浮かべた。

 萩原さんが軽く咳払いをする。

「毛利さんが言った加納君が君たちの要と言う意味が良く分かったよ。

しかし、君らは例外だらけの一味だね」

一味だってさ。

何だか盗賊か海賊になった気分になる萩原さんの一言だった。

 

 「加納君が命を救った少女達とご婦人・・・」

橘さんの目がギラリと鋭い眼光を発し、ひるんだヒッピー梶原が口ごもる。

「・・・少女達全員がそれぞれ個性的なドナムを授かる。

俺らリサーチャーってのは新人発掘が任務のひとつだからね。

ローマ時代から伝わる手引き書、マニュアルがあるんだよ。

そこにこの俺がだよ。

全く新しい知見を書き込むことになるなんてね。

ホント、困ったことだな。

上の方がさぞピーチクパーチクと喧しく囀(さえず)ることだろうさ」

冷汗をぬぐうヒッピー梶原が、表面的にはさも面白そうな口調で愚痴って見せる。

 

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