第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 15

 全員が再び自席に戻ると萩原さんとヒッピー梶原が呆気にとられたような顔をして僕のことをまじまじと見た。

僕だけは席を立たなかったから?

それともいきなり頭をはたかれたから?

 「先ほどは、わたしたちを懐柔しようとしている。

などと失礼なことを言ってしまいました。

ごめんなさい。

もうお気づきかとは思いますが・・・。

わたしたちの要はマドカなのです」

話を三島さんから引き取った先輩が、表情を和らげて横に座る僕と目を合わせた。

「これからわたしたちの能力・・・。

ドナムについての概要を説明します。

マドカとメンバー個々の関わり方がもしかすると、とても重要なのかもしれません。

・・・それぞれが適時、わたしの説明を補足してくださいな」

先輩は皆に声を掛け、僕に軽く頷くと正面を向く。

「ことの始まりは一年前に遡ります・・・」

 先輩の澄んだソプラノが歌ではなく言葉を紡いだ。

昨年の春に階段で起きた事故と、そのあとに先輩と僕に生まれた能力のこと。

暴走族に襲われて僕が三島さんを助けた後に生まれた能力のこと。

バルコニーから落ちる秋吉を助けて生まれた能力のこと。

先輩は巧妙なレトリックを交えて、橘さんに負けず劣らずの精密さで、必要十分と思われる情報だけを提示して見せる。

先輩の独演は予め十分に練られたシナリオを元にしているように完璧だ。

三島さんも秋吉も途中で口を差し挟むことはない。

どうやら僕と先輩のドナムはありふれたものらしい。

三島さんや秋吉みたいなドナムも珍しくはあったが国宝級とまでは、いかないようだ。

それよりみんなのドナムが発生した過程と発現条件に、萩原さんもヒッピー梶原も腰を抜かすほどたまげたようだ。

ふたりとも僕の顔を穴のあくほど見つめる。

そうしてこの小僧のどこにそんな力がと言う表情で額に皺を寄せた。

照れるじゃないかと僕は頭を搔いたものさ。

もっとも、ふたりの苦悩はこれじゃ終わらなかったけどね。


 頃合いを見はからって、語り手のバトンが先輩から橘さんに渡される。

橘さんはあえて先輩が説明しなかった時間線のリセットについて触れた。

橘さんがさっきよりちょっと詳しく語った後こそ見ものだったよ?

萩原さんとヒッピー梶原がふたりして。

まるで死刑の判決を受けたみたいに硬直したんだ。

おまけに顔面が土気色に変色しちゃったからね。

そりゃ驚くよね。

何百回も繰り返された人生なんて。

 この件は先輩でも説明が難しかったので、語りを橘さんにバトンタッチした訳さ。

先輩から説明を託された橘さんは、ぼやくことしきりだった。

「エーッ、またですかぁ。

さっきので充分じゃないですかぁ。

めんどくさいなぁ」

なんてその場では口を尖らせてたけどさ。

「受けが良さそうなところだけを適当に見繕って、盛ったり削ったりしながらお話してみましたぁ。

嘘はついてませんよぉ?」

なんて、毛利邸に戻ってからケラケラ笑っていたよ。

 最初に話した時、橘さんが意図的に省いていたネタ。

「他の時間線では何処にも、OFUなんていう胡散臭い秘密結社は無かったですよー」

と言う話は確かに受けてた。

だけど他の時間線でOFUが見当たらないなんてのは、小ネタもいいところだよ?

なんたって核戦争やらパンデミックやら異常気象にまつわる話なんて序の口だからね。

『ハルマゲドン上等、ノストラダムスすっ込んでろや!』的な?

橘さんのパラレルワールド物語には、いわゆる一つの人類滅亡パターンが目白押しなんだ。

萩原さんとヒッピー梶原が二人揃って目を丸くして息を吞んだものさ。

 ちなみに、この時点でも橘さんはOFUの事を全く信用していなかった。

その証拠に、僕たちが以前彼女から聞かされた多くのエピソード。

僕たちの関係性と能力に関わる部分は、またもや意図的にすっ飛ばしている。

それがありありと分かったからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る