第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 12
どうやらエスパー業界じゃ、僕や先輩程度のドナム持ちはカースト最底辺の小物らしい。
少しムカついたが僕や先輩には、確かに垂直上昇や水平移動しか芸がないのだからしょうがない。
「で、だ。
加納君は毛利さんとつるんでよく飛んでるよね。
最初にこの報告を受けた時には頭を抱えたよ。
考えなしの若造に多いんだが。
無用に力を誇示して厄介ごとを引き起こすヤツなんて今までも珍しくなかったからね。
まあ、後から垂直と水平の移動を二人で手分けして飛んでいるのが分かった時にはな。
ちょっとほっとして笑っちまったがな」
能力を持った人が他にも沢山いるってことを知ってしまうと、自分のショボさが何だか恥ずかしい。
「何と言っても俺らの組織が掲げる絶対方針は『ドナム使うなら人の目気にしてこそこそやっとくれ』だ。
俺個人としたってリサーチャー兼リクルーターっていう立場上、面倒な厄介ごとはご免だからな。
『この小僧、彼女にいいとこ見せたくて調子こいてるな!』なんてイラついてたよ。
だがドナムを見りゃ、まあこいつらは大したこと無さそうだ。
俺はそう踏んだわけだ。
最初はね。
・・・間違ってたがな」
ヒッピー梶原はやっぱり失礼な医者だった。
思わず僕は先輩と目を見合わせちゃったよ。
「萩原や近いブランチの連中にも声を掛けて、色々知恵を借りて対策を考えていたんだがなぁ。
あれよあれよというまに・・・。
立て続けに起きた橘さんや三島さん、秋吉さんにまで続く関係性の発展ぶりにはこっちもビックリさ。
『余計な手間を増やしやがって。
この小僧、まだガキのくせして節操を知らないナンパ師かよ』
ってね。
終いには怒りを通り越して戸惑うばかりだったよ。
隠したい情報は、知っている人間が少なければ少ない程管理が楽なんだ。
そんなこたぁ小学生だって分かる理屈だからな」
そりゃそうだろう。
当の本人が驚いているくらいだからね。
三島さんが我が意を得たりとばかりに会心の笑みを浮かべてるよ。
僕が度々警察のお世話に成ったり。
秋吉関連で練鑑に放り込まれたり。
そんな風に大忙しだったことは、だいたいOFUに把握されてたってこった。
いつの頃からか変態中年以外の人間にも僕らは見張られていた。
そう言うことになる。
もっともOFUは変態中年と違って、もっぱら僕専門に張り付いていたんだけれどもね。
「ここ何年か遠視の力を持った身近なメンバーが長期出張中でさ。
ドナムの仕様を偶然にしろ直接観察できた毛利さんは別として、他のお三方についてはまともに調査できてないからね。
やっぱり、三島さんと秋吉さんにも力があるんだよね?
それを踏まえて橘さんのドナムについて詳しく教えてもらえると助かる」
ヒッピー梶原医師が僕に目を合わせてきた。
僕の口から説明しろって言うことだろう。
「さっきから僕たちの情報だけが吸い上げれている感じなんですけど。
梶原先生と萩原さんもドナムのあるエスパーなんですよね?」
僕がジト目で見ると、ふたりは酢を飲んだような顔を見合わせてから苦笑いを浮かべた。
瞬間、目の前に居たはずの萩原さんが突然姿を消し僕の肩に手が置かれる。
振り返るとそこには萩原さんが居る。
次の瞬間再び目の前の椅子には萩原さんが何事もなかったかのように腰を下ろしていた。
「私の力はテレポーテーションってやつだね。
ちなみに私は伊賀上野の出身だよ。
織田信長の伊賀攻めは昨日のことの様に良く覚えている」
萩原さんがサラッととんでもないことを口走る。
「俺の力は透視かな。
医者としちゃ大層重宝な能力だな。
透視する時、焦点を加減すればレントゲンのように物体の中身を精査できるんだぜ。
患者の体内を直視ってのは、俺にとって正確な診断のきもだな。
俺は萩原よりだいぶ若いよ。
最初に医学の勉強をしたのは大阪船場の 適々斎塾(てきてきさいじゅく)って所だ。
緒方洪庵先生の塾なんだけどね。
君らも日本史で習ったろ?
先生に教えを請うって言うよりゃ、他の門人と切磋琢磨するって感じだったがね。
だから俺の恩師は本当のところは福沢諭吉かもしれん」
梶原医師がニヤリと笑う。
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