第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 11
「俺たちの先達はどうも元々は一匹狼が多かったようだけどね。
命が掛かってくるとなると渋々ながらも連帯を模索し始めたみたいだな。
君らはもう知っているのかもしれないが。
・・・超能力を持つものは生命を維持できなくなるほどの外傷を負わなければ、多分不死だ。
・・・超能力なんて言い慣れないんだよ。
俺たちはあえてそれを口にしなきゃならない時には、ドナム(donum)って言ってる。
ラテン語で贈り物、ギフトのことな。
超能力は誰からの贈り物なのか、なんてこと聞くな。
俺も知らねーから。
とにかくだな、ドナムを持つものは、感染症に罹患しないし悪性新生物もできない。
なによりある一定の年齢に達すると加齢しなくなる」
夏目に聞いたことはどうやら本当のことらしい。
歳を取らなくなると言うヒッピー梶原医師の発言で、佐那子さんと三島さんそれから秋吉にも目に見える動揺が走る。
「それは違うでしょう!」
佐那子さんが叫んだ。
佐那子さんのうろたえぶりは、三島さんや秋吉とは質を異にしていた。
萩原さんと梶原医師が怪訝な顔をする。
「だって私と円さん・・・。
加納君は違う時間線でしっかり年を取りましたし、病気にもなりましたよ」
佐那子さんは自分の能力であるリセットについて超簡単に説明した。
佐那子さんは正気を失うほど繰り返された、他の時間線における記憶の重要部分は慎重に伏せた。
自分の体験のごく一部をつまみとり面白可笑しく話して聞かせただけだったけどね。
それだけ聞くと、佐那子さんが昨晩見たパラレルワールドな夢でも通りそうに思える。
それ程の端折りぶりだったよ?
なんのこっちゃと言うくらいに事の本質をぼかしても、OFUのふたりは心底驚いたように見える。
「ドナムを持つ者の加齢など聞いたこともないが、それよりも何よりも橘さんは歴史をリセットできる?
そしてリセットのトリガーは加納君の死だと!
橘さんの言っていることが本当なら。
ドナムについて私達が持つ知見には存在しないケースだ。
梶原、君の意見が聞きたい」
萩原さんが深刻そうな表情で傍らの梶原医師に問いかける。
梶原医師は今まで見せたことのない真面目な面持ちで額に皺を寄せ、腕をくんでしばらく考え込んだ。
「世界のリセットとドナム持ちの加齢か。
どちらも前例がないな」
梶原医師はいきなり無精髭をザリザリ摩り、続けてモジャモジャ頭ガリガリ搔いた。
女性陣が顔を顰めてドン引きするのが分かった。
「うちも人手不足でね。
他にも大きな案件をいくつも抱えているのさ。
正直なところ加納君の力についての調査さえ、初期調査以降それほど詳細には行っていない。
手持ちのレポートでは飛行能力とあって、その力自体はドナムとしてはあまり大したことのないものなんだよ」
ちょっと安心したような。
何だか残念なような。
複雑な気分になった。
「他には特に危険な複合力も無さそうだしね。
弱い力は成人を迎える前に消えてしまうことが多い。
正直な所、加納君レベルなら放置でも良い位だ。
そもそも加納君は病状の回復が異常に速いという一点。
それだけで、ドナムスクリーニングに引っかかっただけだからな。
常時観察ではなく定時観察対象に分類していたんだよ。
こっちの認識としてはだ。
たいしたドナムを持っちゃいない加納君を定時観察する。
その過程で現れた、関係者の一人が橘さんってことでね」
梶原さんが橘さんをチラ見する。
「加納君の定時観察でドナムがあることをかろうじて確認できたのは毛利さんだけだ」
ふたりの飛行訓練を見られたのだろうか。
そこは迂闊だったな。
「そのふたりのごく親しい周辺人物が橘さんと三島さんに秋吉さん、それから加納君のお姉さんの双葉さんって訳だ。
加納君は去年の春から何回もうちの病院に入院したろ?
そもそも異常と思える回復力が君を観察対象にするきっかけだったからね。
こいつはなんでこうも短期間に入退院を繰り返すんだって。
そこは不思議には思ったんだ」
僕だって何度も入院する羽目に陥ったこの一年は、不思議な一年としか言いようが無いんだよ?
「そこで君が入院した経緯を調べていくと四人の近しい女性が立ち現れた。
初回の入院以降に続々と四人もね。
こっちとしても興味が湧くじゃないか。
それではと、加納君の過去も洗わせてもらった。
結果は、まあスカだな。
どちらかと言うと人付き合いの悪い平凡だが孤独でもある少年像が浮かび上がるだけだった。
ドナムの匂いは明らかに去年の春以降に強くなったわけだ」
ジュリアとのことがあって以来。
僕は未だガキだってーのに、殆どご隠居さんモードだったからね。
ヒッピーの言う、要は友達のいない底辺モブって言う僕の人物像は当たってる。
「当然と言っちゃなんだが。
時期的に加納君のドナム発現と登場が重なる三島さんと橘さんにも、何らかのドナムがあるのではないかと疑ってはいたんだけどね。
実のところ、毛利さんのドナムの程度を知った時点で気が緩んだ。
加納君と毛利さんのドナムは超能力的にはかなりショボいからね」
そりゃどーも。
おや?
先輩が少しむっとしたお顔になったよ。
可愛い。
・・・ちょっとした眼福やな。
「三島さんと橘さん、後から加わった秋吉さんについては、目に見えるとっかかりもなかったしね。
それで調査も先送りにしたんだ。
双葉さんは一般人だろ?
・・・少しうかつ過ぎたよ。
既知のドナムと比べても、チラ聞きした橘さんのドナムはかなり異質と言うよりは特異なものみたいだ。
話半分としたって途方が無さ過ぎて、何と言ったらよいか・・・。
ちょっと言葉がみつからない。
こうなると三島さんと秋吉さんのドナムがなんだかってのは、もう知りたくないような気さえしてくるよ」
ヒッピー梶原医師がゲンナリと言う表情をして冷めたコーヒーを啜る。
当面は加齢問題より橘さんのドナムが大問題ってことみたいだ。
“あきれたがーるず”の意見はきっと違うと思うけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます