第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 10

 閑話休題。

夏目の行状は、信じられないことにどうやらOFUによって司法機関から隠ぺいされたらしい。

 現代だろうが上代だろうが異能の民の振る舞いは、善行より悪行の方が俄然目立ったろう。

ことにそれが表沙汰になったのであれば、大騒ぎになることは必定だ。

歴史上度重なった異能の民による騒ぎは結果として、魔術、妖術、幻術の類に総括された。

 人間集団は村落から都市国家、王国、帝国へとシステムアップした。

それにつれて能力や異能の使い手も社会での立ち位置を変えていくのだった。

彼らは神の子転じて、多くは悪しき魔女や魔法使いとして断罪、迫害されることになる。

僕に言わせれば自業自得ってこった。

 超能力者ってのは、時の為政者や権力者にとっては都合の良い生き物だったろうね。

戦争や政治経済活動の役にたつしな。

邪魔になれば自然災害から失政までの一切合切。

都合の悪いことは何でもかんでもおっかぶせることができる邪悪な存在としても利用できる。

為政者や権力者は超能力者を、真に使い勝手の良い道具や資金源。

あるいはスケープゴートとして重宝したろう。

 歴史上有名な例を引けば理解が進む。

例えば、ヨーロッパにおける超能力者職能団体のブランチのひとつはどうだろう。

その悪目立ちし過ぎた社中はテンプル騎士団という。

テンプル騎士団は能力を存分に使い経済的に豊かな社中になった。

だが彼らは何を勘違いしたのか増長して派手にやりすぎた。

彼らは十四世紀初頭にフランス王フィリップ四世と時の教皇庁によって身包みを剥がされてしまう。

そのあげく、騎士団員はことごとく異端の徒として殲滅されてしまったのだから是非もない。

 超能力者が職能団体として早い時期に結束できていればどうだったろう。

一般人と協調や対立を重ねながらも、あるいは世界制覇すら夢ではなかったかもしれない。

テンプル騎士団だって世俗権力と教会の狭間で、両者とうまく折り合いを付けながら勢力を拡大していったのだ。

 しかしながら、当事者たる超能力者にとって事態はいつでも、対応が追い付く前に悪化するのが常だった。

力を持つ少数派は、いつでもタイトロープの上に居ることを忘れてはならない。

それが能力者の歴史から読み取れる教訓だろう。

少しの油断、わずかな増長が、嫉妬や怨嗟の種となる。

ささいなことが、力を持たない多数派によるジェノサイドの引き金を引いてしまうのだ。

 翻って見れば古代の超能力者たちが、OFUの前身である互助組織を立ち上げようと思いつく。

そのことを模索し始めた頃には、時すでに遅きに失していたと言えるのかもしれない。

既に超能力者の存在が権力に知られ、散発的ながら目に見える弾圧がはじまっていたからだ。

ローマ帝国に着目すればキリスト教徒の迫害という史実がある。

殺された者の多くは超能力者だったことが、組織内の伝承として残っているそうだ。

こうしたことは、なぜか同時期に世界の各地で起こった。

そうして、ただでさえ人数が少なかった超能力者は更に数を減らしたと言う。

 悲劇的な経緯を経た末に組織が辿り着いた結論はひとつだった。

“ただひたすらに目立たぬこと”

組織が定めた能力者の誓約は、究極的にはその一点に絞られた。

言い換えれば、一般人に存在を覚られれば迫害や弾圧を受ける可能性が高い。

そこでメンバーには個人として秘密を守り、相互を監視し同時に互助することを求めたのだ。

『秘匿律の死守』は能力者の金科玉条と成った。

 異端審問や魔女狩り、怪異の盗伐、鬼退治等等。

秘密の漏洩とそれに続く超能力者への迫害や弾圧は、組織が根付いた世界各地で散発的に続いた。

だが彼らはお互いに協力し合う。

時には表社会の政治や権力にも介入してきた。

そうして何とかこれまで生き残ってきたのだった。

 文明の勃興や衰退が世界規模での同時代性を持っていることはよく知られている。

そのことと超能力者の迫害や弾圧には何か関係があるのだろうか?

僕はふと巧妙な語り口で世界史を説き起こす教師のことを思い出していた。

老師みたいな顔をした国府高校の小沢先生は、

超能力の裏面史を知ったらそれをどう解説するだろう。

もしかすると先生は顎を指で摩りながら首を傾げ、表の世界史との結節点に言及して何か重要な秘密を解き明かすかもしれない。

そんな妄想が浮かぶまでに、世界史にも言及した萩原氏の前振りは興味い。

 

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