第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 13
漫画やSF小説で絵空事と思っていた本物の超能力を始めて見た気がする。
・・・いや、エスパーと出会ったことよりも何よりもだ。
司馬遼太郎の小説を読んで胸躍らせた日本史の現場でその時代を実際に生きていた。
いわば歴史の生き証人と知り合いになってしまったことの方が僕には衝撃だ。
言うに言われぬこの心の高揚は感動って奴だろうか。
けれどもそのこととは別に、僕たちだって超能力マターの当事者だってことがある。
毛利先輩、三島さん、佐那子さんそれに秋吉も能力・・・ドナムを持っている。
エスパーってことさ。
それを実際に使い使われ役立てて、これまで幾つものピンチをくぐり抜けてきたのだ。
だからなのかも知れない。
どうも自分や身内のことで慣れちゃっているせいもあるのだろう。
萩原さんのドナムを前にしても僕には『超能力ワオ!』っていう程の驚きがいまいち湧いてこなかった。
びっくりしたことに違いはないのだけれど。『なんだか安っぽいB級SF映画のワンシーンみたいだな』
と、僕のダイモーンが囁いたのだった。
ダイモーンってのはストア派が言うところの中の人な。
改めて考えてみるまでもなく“あきれたがーるず”にドナムが発現した?
発症した?
原因は僕なんだろうし・・・。
もしかしたら僕ってドナムメーカーなのかも。
その方がすごくね?
・・・冗談はさておき、まあとにかく。
見ると聞くとじゃ大違いってのは確かだね。
萩原さんのドナム実演を目の当たりにしてのびっくりは、これまでの驚きとは一味違った。
それは本当だよ?
“あきれたがーるず”の面々もびっくりについては、僕とご同様さまみたいだった。
全員大きな目を見開いて、揃って可愛らしくポカンと円く口を開けていたからね。
だけど彼女たちの“びっくり”は、僕の“びっくり”とは質が違うみたいだ。
斜にかまえたひねくれ気分で割引された“しょっぱいびっくり”じゃない。
見たまんまを素直に受け入れた“ピュアなびっくり”みたいだよ。
「うそっ。
まるでイルージョンみたい。
今のって本当に種も仕掛けもないんですか?
・・・あり得ないんですけど。
それに信長の伊賀攻めをおぼえてる?
緒方洪庵の適塾?
何ですかそれ」
三島さんが“あきれたがーるず”を代表して思ったままを口にしたもんだ。
「おいおい、何言ってるんだい。
君らだってイルージョンみたいなドナムがあるんだろう?」
萩原さんが呆れて見せたのは、三島さん的にはちょっと違ったのだろう。
「梶原先生の透視能力は全然本当って気がしませんけどー。
本当ならエッチな感じがするだけですぅ」
三島さんが腕で胸を隠し、ジト目でヒッピー梶原を睨む。
・・・もしや服だけ透けて見えるってのもあり?
だけど次の瞬間。
ヒッピー梶原には、絶世の美女の内臓や骨格も透けて見えることに思い至った。
『三島さん。
ヒッピー梶原のスケベ心なんて、とうの昔に枯れ果ててると思うよ?』
「だけど萩原さんのはヤバイです。
テレポーテーションなんて目の前で見せられたらなんかの視覚トリックって思っちゃいますよ。
ねえ、ルーさん?」
「・・・そうね。
わたしの常識が『信じられない!』ってムンクの絵みたいな顔して絶叫してるわね。
ここに双葉さんがいたら頭の中でハイドンの94番が鳴り響いていると思うわ。
・・・もっとも。
空を飛んだり。
世界線をリセットしたり。
人の心を読んだり。
お手軽に洗脳ができたり。
わたしたちも『いい加減にしなさい!』って叱られてしまえば、その通りだと思うけれど」
先輩はさらりと僕らのドナムを要約した後。
三島さんから萩原さんに視線を移して表情を殺した。
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