第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 8
「・・・里親協会だなんて確かに怪しいですよね。
私も最初に聞いた時にはそう思いましたし、今でも常々そう思っています。
組織の年寄連中もどうやら思いは同じ様です。
OFUをもじって、日本国内じゃ桜楓会と名乗っているくらいですから」
「申し訳ありませんがあなたがたの組織の名称にまつわる事情などに、わたしどもとしては一切興味も関心もありません。
あなた方個人のお名前は分かりました。
あなた方が属しているとおっしゃる団体の呼び名も分かりました。
それで?
里親協会からお使いで来られた方々が、マドカと佐那子さんとわたくしが、夏目総司にケガをさせられたことを詫びると?
最初に主語抜きで夏目の凶行を謝罪されたのがこの場の主たる御用件である。
そう仰るのなら、彼があなたがたのお身内であると理解しても宜しいと言うことですね。
そうであるならば、次にあなた方とお会いするのは、法廷と言うことになりますが」
仲間の僕でさえ、その場で畏まって地面に額を擦り付けたくなる。
そんな冷徹で容赦ない先輩の鋭い舌鋒だ。
エリート然とした萩原氏とヨレヨレなヒッピー梶原先生の表情が更に強張り互いに目を見合わせる。
すると二人は恥も外聞もなく助けを求めるように佐那子さんを拝む仕草をした。
「・・・拝まれたって私からは何もでませんよ。
萩原さんって見るからに偉そうでしょ?
OFUって言うのは二足の草鞋のかたっぽで、本業は防衛省のキャリア事務官なんですって。
昔同じ釜の飯を食ったよしみとかなんとかうまいこと語って、私に取り入ってきたって訳です。
事務方と制服組じゃ同じ自衛隊でもはなっから仲間意識なんてないんですけどね」
なるほど萩原氏は本当にエリート官僚な訳だ。
それにしても、下々が想像するお役人様をそのまま絵に描いたような御仁である。
そうした彼のステレオタイプぶりには、少し違和感もある。
「萩原さんからは私も詳しいことは教えてもらってないんですけど・・・。
以前みんなにお話したことがある橘佐那子の私家版世界史こぼれ話を憶えていらっしゃいますか?
“異なる時間線には能力者の組織があったりなかったり”っていうやつです。
私の推測では、どうやらこの時間線での能力者の職能団体が、OFUってことらしいです。
萩原さん・・・」
佐那子さんがひたと官僚男、萩原さんに視線を合わせる。
「この円さんを中心として集う仲間内に私が居て良かったですよ?
あなたがちらっと漏らしたトンデモ話。
不思議でもなんでもなくすぐ腑に落ちましたから」
佐那子さんがさらっと言及した“異なる時間線”云々は、目の前のおっさんふたりには、ある意味爆弾発言とも言えたろう。
頭の回転が速そうな・・・。
実際早いに違いない萩原さんが何やらピンときたのだろう。
ぎょっとした顔付になって目を剝いた。
どうやら、佐那子さんが“異なる時間線”云々なんて言うとてつもない事象に関りを持っている。
そのことについては今の今まで、お二人とも全く寝耳に水だったみたいだ。
萩原さんは、ただ佐那子さんが予備自衛官という伝手だけを頼りにして、僕たちに対する根回しを頼んだ。
そう言う事なのだろう。
慎重でクレバーな佐那子さんが、あえてこの場で他の時間線=パラレルワールドに言及したのだ。
OFUとやらは僕らが特殊な能力を持っているの知っている。
そして僕らの能力に強い関心を持っているのは確かに違いない。
とすれば、OFUは去年の春の入院を切っ掛けに僕と僕にまつわる周辺状況を、陰でこそこそ嗅ぎまわっていた可能性が高い。
そうであるなら、佐那子さんや他のメンバーにも何らかしらの能力があることを、OFUとしては以前から想定済みと考えるの自然だ。
今回、萩原さんが佐那子さんに期待していたのは、根回しのことだけらしい。
OFUは少なくとも佐那子さんの能力を知らなかったってこった。
要するに、佐那子さんは僕たちの能力のことはおろか、自分のリセットについても萩原さんには全く教えていない。
レンジャー過程には諜報の訓練もあると言うからね。
萩原氏が体現している能吏程度の心構えとスキルでは、佐那子さんが駆使する智謀の足元にも及ばない。
そう言うこったろう。
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