第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 7
「加納円さん、毛利ルーシーさん、それから橘佐那子さん」
ここで官僚男が佐那子さんをちらりと見て目礼する。
どうやら佐那子さんと男には面識があるようだ。
「今回のことに関しては深くお詫びを申し上げなければなりません」
どういうことだろう。
僕たちが怪我をさせられた件については、夏目総司だけに責任がある。
そう思っていたのだが。
本当の黒幕が目の前の官僚男だと言うなら話は別だ。
だが、そもそも彼のお詫びには主語がない。
主語は私なのか私達なのかあるいは、責任を共有する別の関係者なのか。
それが分からない。
「誰が誰に詫びようと言うのですか。
・・・失礼ですが、いったいあなたは何者ですか。
わたしたちは頭のおかしい変質者に襲われて、命を落としかけたのです。
この席も警察か検察か、何処かまっとうな司法機関の事情聴取だとばかり思っておりました。
事と次第によっては、わたしどもといたしましても弁護士の先生にお願いして、法に適う適切な場を用意したく存じます」
先輩が冷ややかな、例によって雪の女王然とした口調で官僚男に畳みかける。
出鼻をくじかれたのか官僚男は驚いたように目を見張り、仕切り直しとばかりに背筋を伸ばした。
彼が佐那子さんと面識があり親しいのであればなおのこと。
少なくとも先輩がそんじょそこいらできゃぴきゃぴしているただの女子高生ではない。
そのことは先刻ご存知のはずだ。
官僚男は最初、明らかに僕らを舐めて掛かっていたようだ。
それが当て外れだったとしても体制を立て直すのは早かった。
多分頭の切れる有能なエリートなのだろう。
何気に彼が佐那子さんを咎める様な目でちら見した様子から分かることもある。
佐那子さんが僕らについての情報を、官僚男にほとんど開示していないことは明白だね。
佐那子さんは官僚男を信用していない・・・。
と言うことは、官僚男がヒッピーと比べても、遜色なく怪しいばかりか輪をかけて無礼な奴だってこった。
ヒッピーは僕にとっては年来の主治医の先生だ。
けれど最初の入院の時から怪しさは満点で、おまけに徹頭徹尾失礼な人だった。
「これはとんだご無礼を申し上げました。
どうぞお許しください」
官僚男は椅子から立ち上がると深々と頭を下げ、次いで後ろに向き直るとボードに何やら書き出す。
人を見下すような不遜なオーラが一瞬できれいさっぱり消えた。
どうやら官僚男の権威主義的な尊大さには意図があったようだ。
一目で子供と見た僕らをお手軽に掌握し、自在にコントロールするための演技だったのだろう。
先輩の物腰と知的水準を評価して即座に戦術を改めたと言うところか。
官僚男の字は達筆と言えるほど几帳面で上手なので、字の下手な僕としては私的にちょっとした殺意が湧いた。
「私はOrganization for the Foster Unit のリエゾンを務めます、萩原朔也と言う者です。
こちらはもうご存じだとは思いますが医師の梶原景介です。
彼は私共の組織、Organization for the Foster Unit 略してOFUのリサーチャー兼リクルーターを勤めています」
「里親協会?
ですか?
萩原さんが連絡係で、梶原先生が調査と勧誘を担当?
さっぱりですわね」
先輩がアラートを二段階位進めた。
席を一つ置いた佐那子さんも険しい顔つきをしている。
萩原氏が今度は顔を強張らせため息をつく。
円卓なのでみんなの表情が良く分かるのだ。
それにしてもヒッピーの名前を初めて聞いた・・・様な気がする。
何回もお世話になっているというのに恩知らずな僕である。
僕の頭の中で梶原医師はヒッピーで始まり、一時は高等遊民に昇格したが、またヒッピー戻っている。
先輩やふーちゃんと話すときもそれでことが足りていた。
誰も梶原先生なんて口にしたことがないような気がする。
僕らも僕らで大概無礼な奴等だなと頭の中で苦笑した。
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