第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 5

 僕らが医療関係者に注目されるとしたら、どんなファクトが彼等の興味を引くだろう。

もうそれは、人一倍頑丈で傷の治りが早い肉体を持っている。

その事実しかないのだと思える。

僕なんて三度目の正直だしね。

とすれば、怪我をした僕らの治癒過程に医学的な疑問を持たれたと言うことになる。

 この会合の話題は超能力云々ではなくて、その辺に探りを入れるためかなと思ったりする。

だけど考えてもごらんよ。

僕らが異常な人達として括られることに変わりはないんだぜ。

ならば、それはそれで僕らも身構えざるを得ないよね。

 少なくとも傷の治りが早いことと、空を飛んだり世界をリセットすることは結びつかないはずだよね?

そこんところの心配から、無理矢理目を逸らしても問題は山積みさ。

ここは病院だし、医学の探究とくればマッドサイエンティストによる人体実験はお約束だからね?

ましてカトリック教団の付属施設ともなれば異端審問官の一人や二人いそうだけど、実際どうなんだろう。

・・・冗談はさておき、ここが真っ当な現実世界で良かった。

いくら驚異的な回復力を持つ人間が居たとしてもだよ。

そいつをいきなり超能力と結びつけるパラダイムシフトは、マッドサイエンティストにだってちょっと難しい20世紀って言う時代さ。

有難いことに、挙動の怪しい奴を異端と決めつけて、いきなり火あぶりにすることも現代では不可能だ。

 けれど心配と不安に満ちた猜疑心で見方を変えればどうだろう。

もしかして、尻尾を掴まれるような決定的なヘマを僕がしでかしたって線もあり?

・・・それはどうだろう、どうだろうな。

一人で飛ぶなんてことは練鑑を脱走したとき以外にはなかったしね。

あの時は秋吉が後始末もしている。

やっぱり思い当たる節はない。

 何と言っても夏目に能力のことを示唆されたあの夕べからこっち。

先輩も僕も手術やら入院やらと気忙しくて、正直、夏目がどうなろうと知ったこっちゃなかった。

明かされた能力の副作用=不老の事だって思い出すことすらなかった。

それだけに“あきれたがーるず”全員が集められて尋問?事情聴取?を受けるなんて想定外の出来事だ。

 今日まで毛利邸での女子会はなかったし、そもそも一堂に会しての話し合いすらできなかった。

そのことは情報の共有と言う面から考えてみると、痛い空白期間だったのは間違いない。

本当なら真っ先に相談しなけりゃならないインテリジェンス担当の佐那子さんにさえ。

夏目の与太話のことを一言だって伝えていないのだから。

 

 この会合は色々と分析を試み吟味した結果。甘く見積もれば怪我関連だけのことかと思う。

三島さんと秋吉が同席を求められたことの説明が付かない。

その点だけがどうにも引っかかるけどね。

 今現在夏目がどういう状況にあるのかは分からない。

夏目は自分の能力を隠すだろうし、それならば僕や先輩の能力について言及することもあり得ないだろう。

百歩譲って、意識を取り戻した夏目があらいざらいゲロッたとしよう。

超能力なんて荒唐無稽な話をどこの誰が信じるだろう。

真実を包み隠さず明かしたところで、外科病棟を退院した後今度は精神科のお世話になるのが関の山だ。

 やはり医学関連か?

だがしかし、そもそも自分の身体のことではあるが分からないことだらけだ。

強靭な肉体については医学的側面を尋ねられても説明に困るだけだし、先様もそんなことは望んじゃいないだろう。

状況分析の落着き先が見つからず、回文のように思考がぐるぐるした。

 




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