第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 2

 「私、痛いの我慢して仰向けになって後ろを見たんです。

そしたら、さっきまで拳銃をもってへらへらしていた夏目が芝の上に転がっていました。

ルーさんは円さんをゆっくり芝に横たえようとしていました」

佐那子は胸のすくような思いだったと先輩のとっさの判断と行動を褒め讃える。

「・・・先輩。

僕を抱えたまま夏目をやっつけたと言うことですか?」

「そうです。

円さんの仰る通りです。

水平移動の能力を極大で引き出してロケットパーンチです!

ものすごい加速でしたからね。

私の目には見えませんでした。

ルーさんの左拳におふたりの体重が乗ったまま最終的はどれくらいのスピードが出ていたことやら。

ルーさんの細腕に、小兵とは言え円さん抱きかかえる。

・・・と言うよりは、掴んだままで近接戦闘に持ち込むだけの膂力と握力があったは・・・。

火事場の馬鹿力ってやつですかね。

どうあれ、あのとっさの判断と実行力には戦闘の元プロとしても脱帽です。

ルーさんのロケットパンチを顎に食らった夏目は、色々あれになってしまいました。

当分の間集中治療室に幽閉ですよ。

ダメージはロケットパンチの運動量で決まりますからね。

質量×速度ってやつですよ。

死にはしないみたいですけど意識はまだ戻っていないそうです」

佐那子は自分の手柄であるかのように得意気である。

「・・・先輩は、先輩もただでは済まなかったのでは?」

「左の指骨と中手骨が何か所か粉砕骨折して、肘の所も折れて肩が脱臼しました。

まどかさんの銃創に突っ込んでいた右の親指も脱臼だそうです。

何回か手術が必要なようで、傷害の程度からいったら円さんの方がずっと軽いですよ?

それでも治らない怪我じゃありません。

ルーさんが今集中治療室に入っているのは、円さんを心配するあまり正気を失って・・・。

ちょっとおかしくなっちゃって。

鎮静剤を連続点滴してるせいです。

円さんが意識を取り戻したことを知ったらすぐに元にもどりますよ。

それにしても私たち全員の血液型がRh+のAB型で白血球のHLA型も同じっていうのには、何か深いわけでもあるんですかね?

今円さんの血管に流れ込んでいるのは、ユキちゃんとアキちゃんとそれから双葉さんの血液ですよ。

もちろん、真っ先に私も志願したんですけど駄目って言われちゃいました」

佐那子さんは不服そうにほっぺたを膨らませる。

ちょっと可愛らしかった。

「橘さんだって銃で撃たれたんですから当たり前ですよ。

でも、ありがとうございます。

・・・それから、なんで僕のかかとに、覚えのない痛みがあるのか。

今、橘さんから先輩の突撃話を聞いて得心が行きました。

吶喊のときに地面で削れちゃったんですね」

僕は包帯でぐるぐる巻きの足を片方ずつ上げて見せる。

 「・・・あれから、何時間たちました?」

「まだ、一日はたっていません」

「そうですか」

先輩が無事であること。

佐那子さんが思いのほか軽症で元気だったこと。

夏目が取り敢えずは動けないこと。

そんなこんなを知らされてほっとした僕は、痛みが疼くもののたちまち眠くなる。

 

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