第16話 あきれたガールズ爆誕 11

 「・・・もしかしたらあの日。

私が早退して母親と谷崎さんの姿を目にしなければ、このようなことにはなっていなかったと言うことですか?」

晶子のやるせない表情と言葉に成らない悲鳴を聞いて、佐那子は頃合いだと思った。

 「何を言っているの晶子さん。

そんな訳ないじゃない。

悪いのはあなたやお父様を騙して裏切って、自分たちの不潔な欲望や姑息な利益を満たそうとした。

そんな、ふたりの穢(けが)らわしい大人よ。

あなたのお母様をこんな言い方してごめんなさいね。

でもあなたには、コソコソ這いまわるゴキブリみたいな二人を踏みつぶせる、強くて立派なお父様がいらっしゃるわ」

佐那子がドヤ顔でゴキブリを踏み潰す真似をして見せる。 

 「パパは・・・。

パパはわたくしのことをお忘れになっている・・・」

晶子の瞳から冷たい涙が溢れる。

「そんなことはないわ。

日本に居なかったお父様にとっては寝耳に水の離婚騒動と接近禁止命令だったの。

何もご存じなかったお父様は、民事訴訟と刑事告訴のプロセスが、晶子さんとお母様の関係性に及ぼす影響を気遣いました。

お父様は泣く泣くあなたと距離をおとりに成ったのだわ。

だから、お爺様に勧められた上告にも首を縦に振らなかった・・・。

私、直截お聞きしたのですけれどね。

お父様は『母と言う存在は何にも増して子を愛し慈しむものである』などと言う根拠のない幻想をお持ちです。

お父様が持つ考えの甘さは、批判されてしかるべきと思います。

お母様は母や妻であることより女であることを選び、子供を愛し慈しむものでは無く集金の道具と考えたのですよ。

お父様はそんな自分の妻の本性を見抜けず娘が自死に進んだことに気付きませんでした。

谷崎某が自分の妻と不適切な関係にあった。

谷崎某と妻は自分達の欲を遂げるために陰謀を図り、自分はそれにはめられた。

お母様の企みはお父様にとっては思いもよらないことだったでしょう。

少なくともおとうさまは、おばあ様からのお手紙を読むまでは、お母様の不貞も悪巧みもご存知ありませんでした。

増してや、愛娘の晶子さんが自死を決行するまで追い詰められていた。

そこまで闇黒な状況が進んでいたとは想像の埒外だったようです。

お父様にも罪があるとすれば、母性に対する過度な信頼でしょうか。

この度私共が御連絡を差し上げるまで、お父様が現況を全くご存じなかったことは確かです。

電話口の向こうから、お父様のご心配とお嘆きの声が聞こえました。

それから何より、良しにつけ悪しにつけ晶子さんの成長を見守れなかった。

そんなご自分へのお怒りが痛いほどに伝わってきました。

お父様のご様子に、私は少し恐ろしくなってしまったくらいです。

おばあ様のお手紙をご覧になったお父様は、お母様が自分を見限ってよその男に走ったことに驚き傷付きました。

けれども母様の心情には、酌量できるそれ相応の理由があったのだろう。

そうお考えでいらっしゃいました。

サバティカルを口実に一人でアメリカに渡り、夫や父としての愛情を疎かにしたのではないか。

ずっと後悔の念に苛まれていたそうです。

お母様の心変りには自分にも責任がある。

お父様はそうお考えになっていたんです。

だから晶子さんさえ幸せであるならばことを大げさにはすまい。

お父さまはご自分の気持ちに蓋をすることにしたのです。

・・・確かにお優しいお父様かも知れませんよ?

けれども、いかにも善良だけが取り柄の頭でっかちな男が考えそうなことじゃないですか。

私は『情弱なインテリが!見え見えの現実から目を背けるんじゃない!』なんて・・・。

けっこうむかっ腹が立ちましたよ。

お父様のことをこんな風に言って御免なさい!!」

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