第16話 あきれたガールズ爆誕 9
佐那子の様子はまるでなぞ解きをする探偵を彷彿させる勢いである。
さすがの雪美も突っ込みようがなく、ルーシーと共に資料を繰りながらここは傾聴に徹した。
「お母様も谷崎氏も、関係破綻のきっかけになる可能性が高いお父様を排除したい。
そのためには離婚が、お母さまと谷崎氏の利益にとって最適であるとの結論に至ったのでしょう。
だからこそ、ことが露見する危険が高まるお父様の帰国前に、是が非でも離婚届を出したかった訳です。
お母様と谷崎氏に取っての誤算は、不確かながらも不行状の現場を晶子さんに目撃された。
その可能性があることです。
それからもう一つ。
晶子さんの早退は想定外の事態を招きました。
それは学校からの連絡を受けたおじい様とおばあ様が、おっとり刀でお家に駆け付けたことです。
この想定外の事態で、お母さまは自分の不行跡が両親にばれてしまいました。
お亡くなりになったおじい様とおばあ様は、ものの道理を弁えた方達でした。
それでもさすがに、実の娘のスキャンダルには怯んだのでしょう。
お孫さんである晶子さんへの影響も慮(おもんばか)ったようです」
佐那子が一旦言葉を切りレポートから面を上げると、促されるように晶子が口を開いた。
「・・・祖父母は相次いで亡くなったのです。
私はふたりにたいそう可愛がられていました。
そう言えば、あの頃から母親と祖父母は、仲違いをしているだけではありませんでした。
それまでとは打って変わって、祖父母と母親はひどく疎遠になったように思います。
私はスケジュールの合間に、変わらず祖父母の家へ遊びに行っていました。
けれども母親は御機嫌伺いはおろか、今考えてみるといっさい実家には顔を出さなくなりましたから。
祖父母も母親のことは話題にしませんでした。
そのことでわたくしは祖父母では無く母親に対して、強い怒りを感じさえしていました。
おかしいですね。
私は母親が一方的悪いのだと思っていました。
・・・祖父母に執り成しもせず、それを全く疑いもしなかったのですから。
ふたりが相次いで亡くなる前だって、母親が滅多にお見舞いにも行かないのでよく言い争いになりました。
お葬式の時だって・・・。
母親は一人娘だったのですよ」
晶子の口調が少しきつめになったところで、佐那子が後を引き取る。
「おばあ様はお亡くなりになる前に、お父様にあててお手紙をしたためていらっしゃいます。
それは事の真相を知りながらも、娘可愛さと不憫な孫を思って見て見ぬふりをしてしまった。
そのことへの謝罪に終始するものでした。
晶子さんはご存じないことですが、おじい様とおばあ様は実の娘の不行跡に酷く心を痛めておいででした。
おふたりの残されたご遺産は遺言によりほぼすべて信託に賦されて、あなたが成人の折に相続する手はずが取られています。
これにはお母様と谷崎弁護士も慌てたようです。
おじい様とおばあ様は晶子さんとお父様への贖罪の気持ちがお強かったのでしょう。
お母様は旧民法で言うところの廃嫡扱いもいいところでした。
現民法下では遺留分侵害額請求をすれば、遺言書には書かれていなくても、お母様は遺産の遺留分を受け取る事ができます。
しかし、遺言書が開示された後に渡されたおばあ様の手紙をご覧になり、お母様は全てをお諦めになりました。
谷崎氏は翻意するようお母様を説得したみたいですが、手紙に目を通した途端お静かになったそうです。
そこには何が書かれていたのでしょうね?
口を噤んだ谷崎氏の顔色が青紫色になり、この世の者とは思えないくらいにお顔を歪めて、物凄く悔しそうな表情に成ったとか。
おばあ様の弁護士さんが、ここだけの話とおっしゃって教えてくださいました。
晶子さんの後見人にはお父様が指名されています。
接近禁止命令が出ているのでその回復のための訴訟も、おじい様とおばあ様は密かに準備されていました。
僭越ながら今回の事件を受けて、弊社はお父様に連絡を取らせて頂きました。
調査結果を併せてお知らせした結果ですが・・・。
全ては晶子さんにとって良い方向へ進みそうですよ」
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