第16話 あきれたガールズ爆誕 8

 「お父様は晶子さんをとても愛しておいでです。

お父様があなたを今でも大切に思っていらっしゃることは確かですよ。

お父様にとっても離婚のことは青天の霹靂だったと思います。

在米中に離婚の申し立てが家庭裁判所になされました。

併せてお父様は妻と娘に対する暴力と脅迫で刑事告訴までされています」

「そのようなこと、そのようなこと嘘です、出鱈目です!

パパは母親にもわたくしにもいつだって優しい、朗らかで愛情深い人でした。

わたしが何かのことで叱られるときだって、パパは手を出すどころか一度だって声を荒げる事さえありませんでした!」

晶子の形相が一変する。

優し気な顔立ちが恐ろし気に歪んだ。

「家庭内暴力がでっち上げであることは明らかです。

そのことは弊社の調査でも驚くほどあっさり裏が取れました。

お母様の弁護士は谷崎秀雄氏。

あなたが目撃した男性ですよね?

いかなる手段を使ったのかまでは分かりません。

けれども非の打ちどころの無い証拠と複数の証人が用意されました。

そうして離婚についての裁判はお父様が不在のままで結審しました。

もしかすると随分と前から準備だけはされていたのかも知れません。

刑事告訴もお父様がうかつに帰国できないようにと考えられた、作戦の一部だったのに違いありません。

離婚の訴訟とは別に家庭内暴力の件は地裁への刑事告訴もありました。

お母様と晶子さんへの接近禁止命令が先に出てしまいましたからね。

お父様が立てた弁護士さんが帰国を思いとどまる様に忠告したみたいです。

あの時、お父様が例え帰国を強行なさったとしても、晶子さんにはお会いなれなかったでしょう。

そればかりか、傷害の嫌疑で警察から事情聴取を受ける可能性すらあったのです。

帰国できなかったお父様は晶子さんに当てて、電話やお手紙を何度も掛けたり出したりされたそうです。

晶子さんはそれをまったくご存じない。

あの後すぐにお引越しをされましたよね?

情報の遮断は敵の目論見通り大成功だったわけです。

それも含めて、すべては予め用意周到に計画された結果なのだと思います。

敵・・・失礼しました。

お母様と谷崎弁護士は、晶子さんに自分達の不行跡を目撃されたことを前提に行動したのだと思います。

かねて用意してあった計画を実行に移して、全てに先手を打ったのでしょう。

計画は戦術的に考えて、お父様が海外にいらっしゃる状況に則して立案されたはずです。

時期的には晶子さんの目撃云々が無くても六月中には発動していたでしょう」

「・・・そんな。

私、何も知りませんでした」

「それはそうです。

お母様は今もまだ谷崎弁護士と不適切な関係にあるようです。

そうなのですが、晶子さんも御承知の通りおふたりは再婚なさっていません。

当たり前です。

谷崎弁護士には、奥様と三人の娘さんがいらっしゃるご立派な家庭がおありになりますからね。

深く考えずともあの時期に、お二人の不適切な関係が明るみに出るのは、各々にとって大いに不都合だったわけです。

クライアントとの不行跡がお互いの家族や配偶者に知れてごらんなさい。

妻で母親でマネージャーであったお母様の分が悪いのは確かです。

ですが谷崎氏は状況をコントロールできていると過信なさっていたのじゃないですかね。

ご自分の奥様をなめ切っていますね。

弊社の感触ではですよ。

谷崎氏の奥様は氏とお母様の不適切な関係に、当時から気付いていらっしゃった。

その可能性が大きいのです。

今現在だってことが公に成れば、下手をすれば弁護士会から懲戒処分を喰らう事案でしょう。

ことによれば社会的経済的損失だって馬鹿にならないものになるでしょうよ。

同様のことはお母様にも言えます。

俗な言い方で恐縮ですがこういうことになります。

新進気鋭の音楽家のマネージャーでもある母親が、妻子ある顧問弁護士と不都合な関係にある。

そうとなれば、芸能誌や女性誌が大喜びで飛びつくネタですよ?

当時のお母さまはまだ既婚でした。

お母さまにしてみればです。

マネージャーとしても。

一人の女性としても。

そうした下世話なスキャンダルは何が何でも回避したかったはずです。

シングルマザーである今だってそれは変わらないでしょう」


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