第16話 あきれたガールズ爆誕 2

 橘女史も秋吉嬢もいない放課後の生物室は、久方ぶりのオリジナルメンバーによる会合となった。

気心の知れた者同士と言うよりは、意識の隅々まで一方的に知り尽くし知り尽くされた同士である。

雪美の能力を考えるとそう言うことになる。

阿阿吽か阿吽吽とでも表現したくなるような呼吸で、甘やかなじゃれつきとじゃれつかれが続いた。

甘やかと言っても、あくまでルーシーと雪美主導と言う注釈付きの戯れであるのが肝ではある。

ただひたすらに脳内麻薬ならぬ脳内甘味の一方的提供を強いられる円ではある。

 円にも脳内麻薬上等な、薄桃色のご褒美が微かにはある。

それでも心の貸借対照表を分析すれば大赤字は確定である。

円にとっては疲れるだけのとんだ脱獄祝いだった。

 

 「・・・小学校の低学年の頃までは、パパもあの母親とは仲が良かったと思います」

晶子は消え入るような声で語り始める。

 毛利邸に連れ込んだ後のこと。

晶子にはそれこそ包み隠さず、円をめぐる三人の女子が綴る不思議な物語が語られた。

“階段落ち”から始まるルーシーのお話に“雪美堕天の章”が加わる。

次いで森要の凶行で引き起こされた佐那子の“プレイバック循環輪廻奇譚”が、映倫よろしく過激表現を控えたR15のジュブナイル版で活写された。

 これが小説や漫画であれば、スリル満点で笑いあり涙ありの冒険譚になる。

奇想天外やSFマガジンを愛読する晶子にも大受けだったろう。

熱弁するルーシー、雪美、佐那子にとっては文字通り命がけで紡ぎ上げたストーリーではある。

だが如何(いかん)せん。

ノンフィクションを荒唐無稽の領域で物語るほか術がない。

話が進むにつれて晶子の瞳を染める疑いの色は濃くなるばかりだった。

 

 例えば、あなたが超能力使いの披露する、見るからに科学をコケにした一芸を目撃あるいは体験するとしよう。

憧憬にせよ恐怖にせよ、感情を動かされたあなたは当然そのことを誰かに伝えたくなるだろう。

だが物理や化学の法則に頓着せず発動する超能力の実在を、どう説明すれば第三者を納得させられるだろうか。

そこではたと、あなたは超能力者の存在が、あなたの社会的信用にとって非常に危険で不都合な事実であることに気付くのだ。

 超能力とは、普通の人間にとって実に常識はずれな芸当である。

そのことは、超能力者が空を飛んだり。

人の心を読んだり。

終いには時を駆けたりする姿を実際に目撃してしまったあなた。

そんなあなたなら、既によく承知していることだろう。

 そのことを踏まえた上で考えてみよう。

常識的にあり得ないことを声高に吹聴するあなたを見て、友人や隣人はどう思うだろうか。

常識を外れた芸当を真実だとふれまわるあなたを、変な奴だとか心を病んでいる可哀想な人と決めつけたりはしないだろうか。

超能力の実在を知る前のあなただってしかり。そんな人間を中二病を拗らせたヤバイやつと思いはしなかったろうか。

 あなたはたった今、自分がそんな立ち位置にいることに戦慄せざるを得ない。

 

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