第15話 練馬の空はショーシャンクと同じくらい青い 8

 「・・・あなたのお話は良くわかりました。

こちらサイドの調査で疑問だった点やあなたのパーソナリティに肉付けがされました。

そのことにより、話全体の流れにも見通しが効くようになりました。

あなたが自殺を選ぶと言う結論に至った経緯には、他人事ながら正直強い怒りを感じます。

あなたのお気持ちには、ひとかたならぬ同情も寄せます。

それは、そちらのふたり、毛利ルーシーさんと三島雪美さんにも異論のないところだと思います。

・・・加納円さんとの接触であなたに何が起きたのか。

あまりに荒唐無稽過ぎて、それをあなたに信じろと言ってもすぐには無理なことは分かります。

それでも、あなたや私たちの身に起きたことは本当にあったことなのですよ?

さっきお見せしたルーシーさんの能力はマジックなんかじゃありません。

あなたもまどかさんが持つ飛ぶ力を身をもって体験したからこそ、今でもこうして生きていられるのです」

 コの字置かれたカッシーナのシステムソファの片側に三人が座り、対面するように秋吉晶子が腰を下ろしている。

ソファに合わせたローテーブルにはミントンのティーセットが出されているが、アッサムはもうすっかり冷めていた。

この日、ルーシーを頭とする女三銃士は学校帰りの晶子を待ち伏せした。

そうして毛利邸まで彼女を拉致してきたのだった。

 

 何の偶然か晶子の通う女子校は三鷹台の駅に近い。

ルーシーの家と目と鼻の先であるのは幸いだった。

おかげで佐那子配下の黒服まで動員する大規模な作戦の必要はなかった。

それでも佐那子には何か派手な状況設定の心算があったのだろう。

ルーシーの常識論で活躍の場を制限され、初めのうちは文句タラタラの体だった。

だがルーシーは対案も示して佐那子を慰撫した。

「マドカ救出作戦の立案と指揮は全面的にお任せします。

ですからここは穏当にお願いします」

そうルーシーに太鼓判を押されて渋々矛を収める佐那子だった。

 

 ルーシーが一緒に行動していると、人が変わったようにおっとりした少女に豹変できる雪美である。

一方、丸の内署での突撃で見せた雪美の激情もまた、まごうこと無き彼女の一面であることは確かである。

尾を踏まれた虎の様な雪美が、あの場で晶子に与えた影響を慮(おもんばか)り、彼女は今回後衛に退いた。

 ルーシーも飛び降り現場で演じた氷の女王然とした立ち居振る舞いを晶子に見られている。

加えて日本人離れした容貌が晶子に与える緊張を考慮して、ルーシーもまた雪美と共に後ろに下がることにした。

 佐那子は年長者であり、現場でも警察でも晶子とは直截的接触がない。

それを良として、今回は前面に出て交渉を担当することになった。

彼女は付き添いの先生風の装いでアラレちゃんテイストの伊達眼鏡まで用意してきた。

晶子の不安を鎮めるため持ち前の曇りのない笑顔を惜しげなく振る舞いながら、内実とは真逆の天然風味のお姉さんを演じるためだ。

「レンジャー過程で履修した残地諜報や情宣活動のスキルを活かせますぅ」

佐那子が今回は主役を張れる嬉しさで目を輝かせたのは言うまでもない。

 



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