第15話 練馬の空はショーシャンクと同じくらい青い 5

 立て板に水の円節がルーシーには妙に懐かしかった。

雪美がウサ耳を揺らしてポンと手を打ち、佐那子がコロコロと笑い転げる。

「マドカの女子に対するいきなりのお前呼ばわりはどうかしら。

それに身体的特徴に対する女性蔑視芬々(ふんぷん)の発言についてもね。

マドカの無礼は後刻じっくりとお仕置きすることとして・・・紹介するわ。

この子は秋吉晶子ちゃん。

マドカの学園生存戦略におけるケースAからZが何を意味しているのか。

わたしには皆目見当が付かないけれど、あなたが怒るのは全くその通り。

因幡の白兎が泣きを入れたほどの折檻では無いけれどもね。

取り敢えずわたしたち三人でやきを入れて、晶子ちゃんの性根にはきっちりお灸を据えておいたわ。

けれども橘さんの調査と晶子ちゃんの打ち明け話をとくと聞いて、わたしたちはわたしたちなりに納得がいきました。

全てを総合した上でマドカの件について、少なくともわたしたちの間では不問に付す事としました」

おすまし顔のルーシーが生真面目な口調で、これは決定事項であると円に宣告する。

「んっなばかな!

先輩や三島さんや橘さんが、いくらドヤ顔で『赦す!』って言ったとしても、絶対専制君主じゃないんだからさ。

検察も裁判所も『はいそうですか。かしこまり!』ってニコニコ笑顔で僕を無罪放免にするわけないじゃないですか!

・・・何の因果か。

勢いだけで、こうして獄を破って脱走までしちゃったんですよ?

法治国家の市民としたら、例え未成年だってもう役満ですよ?

初犯だってのに、このままじゃ中等少年院どころか一気に特別少年院送りですよ?

勘弁してくださいよ。

それになんなんですか?

嘘つき女にちゃん付けですか?

おいお前、どこでそんな便利で使い勝手の良さそうな人垂らしの術を身に着けやがった!」

「マドカも落ち着きなさい。

ちゃん付けを始めたのは双葉さん。

察しなさい。

事情は後で詳しく説明するから」


 『いくら僕が間抜けな男子で厄介ごとはみんなに丸投げしているからと言って、いいころ加減なこと言うなよ』


 円は少々、いやかなりお冠の体である。

だがしかし、怯えた表情で俯き唇を噛んで嗚咽を漏らすチビバニーを慰める女性陣に姉まで加担しているとなると話は厄介だ。

外堀はおろか内堀も埋められた上、内通者が本丸の大門を開け放って後は落城を待つばかり。

この一件、戦局はそんな局面まで来ていることは確定だ。

城を枕に討ち死にするか。

早々に開城して恭順の意を示すか。

情弱円にとっては、既に結論は出たようなものだろう。

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