第15話 練馬の空はショーシャンクと同じくらい青い 4

 「ギリシャ・ローマ神話に出てくるゴーゴン三姉妹ね。

エウリュアレは遠くに飛ぶ女、ステンノは強い女、メデューサは支配する女だったかしら。

言い得て妙だけれども・・・その失礼な見立てに座布団を一枚差し上げるわ。

と言うことで神話から引用した、わたしたちに対するけしからん誹謗ですけれど。

あなたを気絶させたこととバーターでチャラにしてさしあげます。

傷付いた乙女心の補完は、ユキとは別建てと言うことでヨロシク」

ルーシーは天使の笑みを浮かべて雪美に親指を立てて見せ、佐那子をひと睨みする。

「へっへっ。

私はごちそうさまでしたーですかね。

おかげさまで今はとても満ち足りた気分なのです。

お後はルーシーさんと雪美さんのお気に召すまま」

運転席から振り返る佐那子はルーシーと雪美に向ってあっかんべーをする。

続けてチェシャ猫の顔に成り、満足そうに舌なめずりをしてみせた。

円と言えば、彼にしては複雑な表情を浮かべて肩を落とした。

 「弁護士さんからもらった訳の分からない伝言を読み解くのはほねでした。

打ち上げ花火みたいに獄舎の中庭から急上昇してみれば、いきなり先輩が横っ飛びに落ちてくるし。

やっとこさ着陸したと思ったら三島さんがバニーガールだし。

目を白黒させる暇もなく最後は橘さんに押し倒されて・・・。

それから三人の喧嘩が始まって。

とばっちりで何回か殴られて目から火花が散って・・・。

ねえ、あれって本当にとばっちりだったのかなぁ?

どうよ?」

三人娘は三人三様にあらぬ方へと視線を逸らす。

「・・・まあ、いいや。

そうして気絶から目覚めればこうして先輩に膝枕。

突っ込みどころ満載な状況展開なのにまるで訳が分かりません。

ところで、橘さん。

その古めかしい野戦服はもしや懐かしのM41フィールドジャケットですか?

袖章の鷲ってスクリーミングイーグルスでしょ?」

「さすがまどかさんお目が高い。

及ばずながら、私も空挺降下に参加しましたので、ここはお約束の米国陸軍第101空挺師団のコスでと考えました。

このあと私もバニーにお召し替えしますけど、まどかさん嬉しいですか?」

満面の笑みを湛えた佐那子をサラッと無視した円はいきなり眦(まなじり)を決した。

「それよりもなによりも。

おい!

すみっこでさっきからびくびくしてるちっぱいのバニーガール。

三島さんじゃない。

そこのお前だよ。

その顔、忘れもしないお前のことだよ。

嘘つきなお前のせいで、僕は齢十六にして捕り方の縛につき、アッと言う間もなくブタ箱に放り込まれたんだぞ。

殺人未遂だなんて半端な犯罪に手を染めた刑法犯少年に成り下がっちまったんだ。

“目立たずひっそりと”をモットーにして、まったり過ごそうと思っていた僕の学園生存戦略をケースAからZまで漏れなく台無しにしやがって。

三島さんの子分の振りしてそうして白バニーコスの衣装なんか付けちゃってさ。

弱っちそうな子ウサギみたくプルプルしても僕は騙されやしないからな。

この落とし前は如何つけてくれるってんだ!」


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