第14話 堕天使は嘘をつく 13

 佐那子の様子は、冷徹にすら感じられるほどに、仕事ができる大人の構えを見せている。

だが佐那子の長広舌は、敵であるはずの秋吉晶子の心情を推し測るプロファイリングになっている。

秋吉晶子の身辺調査が佐那子の腹に据えかねるくらい酷い内実を暴いたのだろう。


 「秋吉晶子と母親の間にはどのような問題があるのでしょう。

利益目当ての関係者はともかくとして。

彼女が死を選ぶほどに絶望を感じてやまない母親とは如何なる人物なのでしょう」

ルーシーの口調もそうした佐那子に敬意を払う口調に改まる。

「弊社は調査業務にも力を入れています。

そこらの探偵事務所よりは有能と自負しております。

・・・娘の才能を伸ばさんがためと言う大義があるのでしょう。

けれども、あの性格がきつそうな母親は、かなりのスパルタ教育と営業を幼少の砌から晶子に強いているようです。

晶子は幼い頃からハードなレッスンやコンサート、レコーディングに追いまくられていました。

まともな子供なら心を患うようなスケジュールで日々を過ごしてきたのです。

・・・過去に何度か晶子の掛かった別々の小児科医から、児童相談所に通報があったという記録が残っています。

いずれの場合も、弁護士や音楽関係のコネをフルに活用してもみ消したようですけれどね。

酷い話です」

「秋吉晶子が母親から虐待を受けていたと、そうおっしゃるのですか?」

雪美がぎょっとした顔で佐那子を注視した。

「母親も元はバイオリニストですが我が子ほどの才能は無かったのでしょうね。

母親が自分には無いきらめきを娘の中に見つけてしまった。

そのことが、晶子の悲劇の始まりと言えるのでしょうか。

母親が有責もしくは原因だったかどうかは調査中ですが、晶子が小学校に上がるころ両親は離婚しています。

かなり揉めたようですが親権は母親が押さえました。

日本では母親に問題があったとしてもです。

親権については父親より圧倒的に母親が有利なのです。

彼女はパパっ子みたいでしたから、両親の離婚は精神的に相当深刻な影響を与えていると思います。

おふたりとも私と御同様でしょうが、自分を振り返ってみればわかります。

大好きだった父親を失うということの成り行きは、なんとなく想像がつきますよね。

児童相談所へ通報があったのは両親が離婚して以降のこととなります。

母親が晶子に直接暴力をふるったのか。

あるいは彼女が自傷行為に走ったのか。

小児科医が通報に至る原因の実態までは分かりませんでした。

けれども両親の離婚以降、晶子が信頼を寄せる大人が居なくなった。

このことだけはどうやら確かですね。

両親の離婚前はよく笑う明るい子供だったと言う証言を得ています。

その頃には児童相談所への通報も無かった訳ですから」

 ルーシーと雪美が同じような調子で頷いている。

「なんだか戦意を削がれる話ですねー。

秋吉晶子がマドカ君に冤罪を着せたのは許せないけれど、思わず同情しちゃうじゃないですか」

「そのことと解決の糸口にどういう関係があるのでしょう」

雪美がこぼし、ルーシーがすくい上げた。





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