第14話 堕天使は嘘をつく 11
円は逮捕後、アッと言う間もなく送検された。
そしてまたまた時を置かずに身柄を家裁に送られ、観護措置のために少年鑑別所に放り込まれた。
事件がおきてから一週間もかからないスピード処理だった。
高木弁護士の言によれば、この後成人の刑事裁判に相当する少年審判が開れて、おそらくは少年院送致になるとの見立てだ。
しかし特に凶悪と判断されれば家裁から検察に逆送致されて、成人並みに起訴、地裁での公判も有りうると言うのだ。
それを聞いた雪美が何のための弁護士だといきり立ったものだ。
だが雪美の激高も空しかった。
「これほど明白な刑事犯罪に情状酌量を求めることは難しいでしょう」
高木弁護士にはそう一刀両断された。
暴れ始める雪美を取り押さえながら罵声を放つ佐那子と、慇懃無礼な捨て台詞を投げつけたルーシーも分かってはいる。
三人三様に、それが高木弁護士をサンドバッグと見立てた単なる八つ当たりであることは重々承知していたのだ。
背景には常人には理解し難い能力と言う秘密が隠れている。
厄介なことに、その能力を行使している秋吉晶子自身は、まず確実にそのことを知らない。
彼女がどうして円を罪に落としいれる大噓をついているのか。
その理由は皆目検討が付かない。
自殺を阻止されたことを恨みに思っているのかもしれない。
あるいは自殺しようとしたことを人に知られてはいけない理由があるのかも知れない。
こればかりは秋吉晶子を拉致でもして、雪美と円の能力をつかって確かめるより他に術はないだろう。
「作戦立案なら任せておいてください。
自分の得意分野であります」
佐那子が自信ありげに敬礼する。
「何か良いアイデアでもありますか?」
ルーシーの疑わしそうな眼差しに、佐那子は片笑みを浮かべてみせる。
円と秋吉晶子の件は、何らかの力が働いてニュースにすらなっていない。
それにも関わらず何処から話が伝わったのだろう。
事件の翌日には円の所業が、秋吉晶子の証言のままに校内で面白おかしく喧伝されている始末だった。
おまけに、ルーシーと雪美が現場に居合わせた事まで知れ渡っているのだ。
・・・何かがおかしかった。
教務室に呼ばれたルーシーと雪美は、事の次第をありのままに説明した。
すると教務主任も円の担任も、事件に関わる人々の暴走を訝しがり、おおいに首をひねったものだ。
だがそれは、秋吉晶子の言葉を直接耳にしていない人間であればこうなる。
そう三人で予想した通りの反応に過ぎない。
学校側からも関係各所に事情説明を求めると言う言質は取れた。
だが、弁護士を含めた司法関係者が、束になって円を有罪にしようとしているのだ。
そうである以上、秋吉晶子の影響を受けないこの三人以外には多くを期待できそうにない。
「加納円の無実を現実に呼び戻し、マドカ=マドカ君=まどかさんをこの手に取り戻す」
例え世界を敵に回してもそれをやり遂げるのだ。
三人は決意を新たにする。
「作戦立案の要点を整理すればこういうことです。
少年審判の裁決が下ってまどかさんが少年院に収監される。
あるいは検察に逆送される。
その前に、晶子本人の口から嘘の証言を判事や検事の前で否定させるのです。
それだけのことです」
「それができるなら苦労はいりませんよ?」
雪美が呆れたと言う顔をする。
校内での好奇の目やあからさまな誹謗中傷に、このままでは自分が怒りに我を忘れた傷害犯に成ってしまう。
そう考えた雪美は早々に自主休校を決め込んでいる。
加えて臨戦態勢を取るために、得意の弁舌とルーシーの介添えをもって両親の不安を抑え込み、毛利邸での寝泊まりすら始めている。
ちなみに、ルーシーは雪美よりも先に登校をとりやめている。
「戦闘や諜報と謀略の専門家である、この橘佐那子二尉に万事お任せあれ」
佐那子は可愛らしい笑顔でポンと胸を叩いた。
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